並び立つ

割れた音がした。

「弔くん!」
「心喰!」

ドクターが泣きそうな顔で俺を振り返る。

「心喰、、!心喰!」
「落ち着いて、ドクター」

縋り付く彼の背を擦りながら、データはと尋ねる。

「機器はイカレとるがデータは…よしっ…!」
「起こせる?弔くんを。機器が壊れてるならこれ以上続けるのは無理なはずだ」
「こんな…くそぅ半端な形はまことに不本意じゃがっ」

硝子の向こう。
この騒がしさを知らぬ彼が目を閉じている。

「ワシとオール・フォー・ワンの夢の結晶…ああ畜生!!起きろ、死柄木弔ァ!」

ドクターが叫ぶと同時に大きな衝撃波が襲ってきた。
粉々に壊れていく中、そっと弔くんを抱き上げた。

「真贋確認!」

体が冷たい。
首筋に触れるが、指先に脈は伝わらない。
完全に目覚めさせる前に機械が壊れたのだろう。

「心喰!弔は!?」
「心臓が動いてな「それと友達泣かしたぶん!」」

ドクターの言葉に答える前に、彼が視界から吹き飛ぶ。
なんの遠慮もなく吹き飛ばすほど彼を殴ったのは普段温厚に笑うプレゼント・マイクだった。

「仮死状態にして定着の負担を軽減させるんじゃ…その容器は定着促進・維持・蘇生装置……この為に生きてきた…終わる!終わってしまう!!」

俺の返事を聞く前に、ドクターはその目から涙を溢れさす。

「魔王の夢が!」
「ハートイーターから死柄木を奪え!!」

プレゼント・マイクがそう叫んだ。

「今ならこいつらを制圧できる!」

装置からは溢れた液体。
壊れた機械から伸びたコードがバチバチと電気を発する。

「……運がいいな」

自分の前に立ちはだかるエクスレスを見やり、笑った。

「何を笑っている」
「ねぇ、アンタのそれちょうどいいな」

彼の胸を貫いた刀。

「ごめんね、遊んでる暇ないんだよ」

見開かれた目を見下ろしながら、刀を引き抜く。
吹き出した血を気にもとめず、濡れたマントを奪い、地面に敷いた。

「ごめんね、弔くん。寝心地は良くないと思うんだけど」

そのマントの上に横たわらせ、彼の胸に両手をあてた。

「なにを、する…気だ…」

地面を這うようにこちらに手を伸ばすエクスレスに「なんだ、まだ生きてたんだ」
と呟く。

「まぁ、いいや。そこで見てるといいよ」
「な、にを…」
「奇跡………いや、更に向こうへプルスウルトラ…かな」

首元で真紅の石が揺れ、淡い光が俺たちを包む。

「この、光は…」
「弔くん、ちょっと早いけど起きる時間だよ」

光の中、弔くんの体が大きく体がはねた。

「寒い」

聞き慣れたずっと、聞きたかった声だった。

「弔くん、」

俺の言葉に返事を返す前に、崩壊が伝播していく。
壊れていく世界の中、弔くんは俺に視線を向けた。

「おはよう、心喰」
「…おはよう、弔くん」
「…目覚めは、良くないな。けど、まぁ今回はちゃんと起きたらお前がいた」

微かに肩を震わせた彼に塵になったエクスレスから奪っていたマントをかける。

「だから、悪くない」

辺り一面、塵になった世界を立ち上がり見渡した。

「あれ、壊れてるか?」
「多分ね。さっきのプレゼント・マイクの攻撃で」
「そうか…」

凹み白い煙をあげる機械を開き、彼は試験管を1本持ち上げる。

「あー…ほとんどダメになってら。折角増産してもらったのにオーバーホールも浮かばれないぜ」
「弔くんこれ」

端末を彼に差し出せば彼は口元に笑みを浮かべた。

「…いいね、崩壊が自由に操れるなんて」
「そうだね」
「さて…状況は良くなさそうだが、俺が起きたら始めるんだったな」

吹き抜けた風が、彼の髪をふわりと靡かせる。

「おいでマキア。みんなと一緒に、今ここから全てを壊す」

弔くんは楽しそうに笑っていた。

「心喰はどうする?」
「どうするって?」

弔くんの向こうにエンデヴァーの炎が見える。

「俺とここにいるか、行きたい所へ行って戦うか」
「…珍しいね、そんな選択俺に投げるの」
「嫌か?」

嫌じゃないよ、と俺は答えて 彼の手を握りしめた。

「ここにいるよ」
「心喰、」
「俺の居場所は弔くんの隣だから」

今、彼の隣に並び立つには足でまといになるかもしれないけど。

「ここにいてもいい?」
「ダメなわけないだろ」





ここに霧矢がいない。
その事実に向き合う間もなく、戦況は変わる。

「全員走らせろ!!」
「皆逃げて!!」

迫り来る崩壊。
デクのエアフォースでもそれは止まりはしない。

「止まらない!衝撃とかの類じゃない!」
「全部塵になっていくわ…!」

壊れていく。
崩れ落ちていく。
その景色の中、どうしても最後のあいつの顔が頭から離れなかった。
ここにいない人間に意識を割く余裕なんてないってわかっている。
わかっているのにどうしても、アイツの崩れ落ちいく横顔が消えてくれなかった。

気付いていた。
気づかずにいたかっただけで。

「クソが」
「…爆豪、」

アイツが恐ろしかった。
デクに向けていたものとは違う恐怖心。
けど、それ以上に 助けたいと思っていた。
アイツに手を差し伸べられる存在に、なりたいと思っていた。
×××への罪悪感からくるものなのかもしれないけれど、アイツと言葉を交わす度に。
アイツの深いところに触れる度に。
俺は、アイツの隣に並び立ってみたいと思った。

崩壊は止まった。
ただ、止まっただけ。
この一瞬でどれだけの命が奪われた?
あいつは、無事なのだろうか。

『全体通信!こちらエンデヴァー!!病院跡地にて死柄木と交戦中!地に触れずとも動ける者はすぐに包囲網をーー』

エンデヴァーの声で、向こうから聞こえる戦闘音で、その激しさが伝わる。

『ワン フォー オール?』
「あ!?ワン・フォー 何!?とりあえずアシストに向かう!」

聞こえちゃいけない単語だった。

「バーニン待って!!」
「君たちは残るヒーローと避難を!」
「警察の指示にしたがって!!もっと遠くへ!!」

なぜエンデヴァーの口からその言葉が出てくる。
いや、答えはきっと単純だ。

『避難先の方向へ向かってる!戦闘区域を拡大しろ!!街の外にも避難命令を!!』
「急げ!一分一秒を争うぞ。アレが来る!次来たら終わりだ!!」

動き出すヒーローと、街の人たち。
それに背を向けた。

「ここで言ったらてめェ守ろうとこの人員割いちまうもんなァ」

その単語が出た瞬間のデクの顔色を見りゃわかった。

「ヒーローっつーのは皆守ろうとするから」
「かっちゃん!」
「最初から一択即決だろ」

アイツのことは一旦、忘れろ。
今は、今俺が出来ることをやるしかない。

「街の人たちの安全を最優先…!」
「ワン・フォー・オールの直後にこっちに向かってくるだけじゃ正味根拠は薄いけどな…、とにかくてめェは動くしかねぇ」
「おい!どこ行くんだ!」

忘れ物!とクソしょうもない嘘をデクはアイツらに告げる。

「デクです!個別通信失礼します!死柄木は僕を狙ってる可能性があります!人のいない方へ誘導できるかも!!」
「俺がツブしたらァ!」
「少し交信お願いします!!」

人のいない方は動くデクの後を追いかける。

「遠すぎるのと土煙でこっちから死柄木が見えません!進行方向を変えるような素振りがあれば教えてください!」
「それどころではーーー!!変えた!!南西に進路を変えた!!」

死柄木からはデクの姿を捉えられている。
この土煙の中なにか、そういう個性か?

「やっぱり…!ありがとうございます!!避難の時間を稼げる!このまま引き付けます! 来るってかっちゃん!!」
「聞いたわ!!てめェこそ聞いたんか!?化物になっちまってるってよあのカス!尚更ギリギリまで引き寄せンぞ!」

沈黙の中壊れた街の上を移動していればハッとなって、デクがこちらを振り返った。

「かっちゃん何でついてきてくれたの!?」
「ブッ飛ばすぞ」
「そんな!」

今更クソしょーもねぇ。
内心そう吐き捨てながら「あん状況でノータイムで事情納得して行ける奴なんざ俺だけだ!」と答えればありがとうとデクは答えた。

「自惚れんな。きてくれただァ?てめェ主役にでもなったつもりかよ。俺ァあのカスに用があんだよ。オールマイトを終わらせちまった男として…。てめーは餌だ。あの日の雪辱を果たすンだよ俺がぁ!!完全勝利する!絶好の機会なんだよ!」
「かっちゃん…」
「それに、ハートイーターがそこにいるはずだ」

デクがこちらを振り返った。

「……かっちゃんは、霧矢くんのこと大切なんだね」
「あ゛!?違ぇわ!!余計なこと言ってんな!!わかったらてめェも気ィ抜いて足引っ張んなよ!!」
「うん!」

今クソデクが平常使用てでフルカウルできる出力は30%だ。
体の負担をおさえる為にインパクトの瞬間だけ45%まで引き出す。
エンデヴァーんとこで、オールマイトとの特訓で、デクが力をつける度話されまいとくらいつく。
今の30%のスピードに俺はくらいついている。

「負けねんだよ、俺ぁ…!負けたままじゃ、いられねんだよ!!」

並び立つ。追い越す。
お前にも、アイツにも。
負けたままで 終わってなんてやるものか。

インカムに電気が走ったその瞬間。
あの日を思い出した。
それは間違いなく、神野で感じたーーー死のイメージ。

「頭ん中で響くんだ。手に入れろってーーワン・フォー・オールをよこせ緑谷出久」


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