近界民と戦う
今日は随分と騒がしい。建物が大きく揺れるわ、騒々しい足音させて人がラボに入ってくるわで。
入ってきたガキんちょは泣きそうな顔をして、唇を噛みしめているし。
「で?このトリオンキューブが諏訪だと?」
「はい」
「ふぅん」
泣きそうなガキんちょの代わりに状況を説明したのは堤だった。
新型のトリオン兵が、とか言ってるし外は騒がしかったし 今日が大規模侵攻の日だったのか。
最後に日付を確認したのはいつだったか。
「彪吾さんが1番、安心して任せられるので。俺も諏訪さんも」
「そらどーも。とりあえず解析はしてやるよ。出て行くか、静かにしてるか お前らに任す」
「あ、あの!!」
泣きそな少年が 俺の腕を掴んだ。
「諏訪さんは、助かりますか?」
「さぁね」
「そんな…」
トリオンキューブを解析用の機械に乗せ、スタートボタンを押す。
「テメェが信じたいもん信じてろよ」
堤に視線をやり、顎で外へ連れてけと促せば彼は静かに頷き少年を連れて外へ出て行く。
「おい、ガキんちょ」
「っはい、」
ピピッと解析が終わった音がする。
画面に表示される文字の羅列を一瞥してから、彼の方を見た。
「世の中に絶対はねぇし、絶対助けてやるよなんていう気はねぇよ。けど、最善は尽くしてやる」
「はい!」
「涙は裏切りだ。泣くなよ、ガキんちょ」
2人が出て行って、画面の前に腰掛ける。
「めんどくせぇ仕事ばっか持ってきやがる。どいつもこいつも」
寺島に通信を繋げばどうしました?と呑気な声。
「お前、ちょっと手伝え」
『何をですか?』
「トリオンキューブになった諏訪を元に戻す。どうせ、他にもキューブにされてる奴いるんだろ?同時進行で解除プログラム作るから」
わかりましたと通話が切れてすぐにドアが開く。
寺島と彼のチームのエンジニア2人が失礼しますとラボに入ってきた。
「悪ぃな」
「いえ。向こうは人足りてますから」
「とりあえず急ピッチで進めんぞ」
作業を始めてどれくらい経ったか。
室内に鳴り響いた警報。
『聞こえるか!!』
「うるせぇよ、タヌキ。そんな騒がねぇでも聞こえてる」
『黒トリガーが侵入した。避難しろ』
了解、と通話を切って研究室の中にいた彼らを見る。
「寺島、他の奴ら連れて避難しろ」
「は?彪吾さんは、」
「あと少しでこれも終わる。終わらせたら避難すっから」
だったら、俺も残りますと寺島は言った。
まぁそう言うだろうとは思っていたけど。
「俺がここで囮になってやっから、お前は避難するエンジニアの護衛。俺らなら敵相手にどうにか出来るが、他のエンジニアじゃそうもいかねぇし。2人とも残るわけにゃいかねぇってわかるよな?お前なら安心して任せられる」
「俺、そういうとこ嫌いです。隊長の」
「元隊長だ」
悔しそうに顔を歪めた寺島。
その表情を俺は知ってる。
「いつもそうだ。自分だけ、犠牲になる道を選ぶ」
「そりゃ、お前ら守るのが隊長の仕事だからな?いいから、さっさと行け」
「死んだらマジで許しませんよ」
部屋を出て行く彼らを見送り、目の前の画面に視線を戻す。
「さぁて、お目覚めのご気分は如何かな?」
組み終わったプログラミング。
エンターキーを叩けば解析台の上のキューブがみるみるうちに人型に戻っていく。
「おはようさん」
「…彪吾さん?」
「覚えてるか?自分がどうなってたか」
新型に捕まったとこまでは、と彼は言った。
トリオンキューブになってる間は記憶がないのか。
まぁ、あれで外部を知覚できたらそれはそれで気持ち悪ぃか。
「ほれ、いんだろ?」
資料やらなんやら散らばった机の上の小さな箱を彼に差し出せば、目を瞬かせてから笑った。
「こりゃ、ありがてぇ」
「外にお前の隊のガキんちょがいる。ついでに、黒トリガーが侵入してっから、なんとかしてけ」
「彪吾さんは?」
これ完成させたら避難する、と視線をパソコンに向けた。
「ありがとうございました」
「おー、一杯奢れや」
「はい」
キューブ解除プログラムが完成させて、さて 戦況はどうなっていることかと呑気なことを考えていればノイズ混じりの通信が届く。
『彪吾』
「ありゃ、珍しいな。どんなご用件で?忍田さん」
『トリガーは持ってるか』
おいおい、なんか面倒な予感しかしない。
机の引き出しの奥底にしまい込んだトリガーを手に外へ出る。
『悪いが、力を貸してもらうぞ』
「鈍ってて使いもんになんねぇぞ」
『笑えない冗談だな』
トリガーを起動して訓練室に向かえば、壁に空いた穴。
「おいおい、壁壊すなよ」
「悪いな。修復してくれ。こいつを逃すわけにはいかないからな」
「…あぁ?誰が逃げるって?この程度で俺に勝てる気でいんのか!?雑魚トリガーが!」
人型か。
ゴボゴボと波打つ彼の体。
恐らく液体化してるな。
と、なれば気化もすんだろう。
「当然だ。貴様のようなやつを倒すために我々は牙を研いできた」
「かっこいー」
「茶化すな、彪吾」
なんで彪吾さんが、と目を丸くさせる諏訪に黙って見てろと言葉を返す。
『彪吾さん、』
「おー風間じゃん、そっちにいるってこと死んだか?」
『申し訳ありません。敵のトリガーは液体 気体と刃状の個体のトリオンを変化させます。弱点である伝達脳と供給機関もこの硬質化で防御。弱点以外は斬っても撃ってもダメージはありません。的を絞らせないための偽物を多数使ってきます』
情報どうも、と返して忍田さんに視線を向ける。
「とりあえず、全部切るでオーケー?」
「あぁ」
「あ、気体になるから空調入れてくれ」
目を見開いた敵に相変わらずだな、と忍田さんが言う。
「連携すんのは久々だなァ」
「援護を頼む」
「はいはい」
▽
孤月を振り回す本部長の傍ら、アイビスをぶっ放す彪吾さん。
エンジニアのはずなのに、とか アイビスをこの距離の戦いで使うのかよとか言いたいことは沢山ある。
「下から攻撃。右に避けて、忍田さん」
「あぁ」
「貴様のトリガーは火力よりもその特殊性が武器だ。ネタが割れれば強みを失う。貴様の敗因は我々の前ではしゃぎ過ぎたことだ」
だが、それよりも。
彼の胸にA級2位のエンブレムがあることが、疑問だった。
見たことのないエンブレムと隊服。
彼はそれに身を包んでいた。
「が…!!」
最後の二個が孤月もアイビスにより破壊される。
「マジで全部壊した!やべぇな」
「援護するヒマなかったですね」
「忍田さん、やり損ねた」
移動して復活する敵を 彪吾さんは焦りもせずに見上げた。
「さすがよく避けたなぁ。けど、気をつけろよ。今はこっちが風上だ」
忍田さんの体を貫いた刃。
「あ?即死しねぇな。しかもなんでお前、無傷なんだよ。ただまぁ、お前は俺の敵じゃねぇ。そっちのやつはもうまともに動けねーだろ?あ?敗因がどうのとか言ってたよなぁボス猿さんよ。教えてくれよ、俺の敗因ってやつを」
「いいだろう、すぐにわかる。私の仕事はもう終わった」
体は温まったか、と忍田さんが彪吾さんに問いかける。
彼は特に言葉を交わすこともなく、地面を蹴った。
「テメェだけで、何ができる!?」
向かってくる攻撃をまるでそこにくることがわかっているかのようにシールドで防いでいく。
「うざってぇ!!」
背後からステルスの日佐人が攻撃を仕掛け、ほんの一瞬敵の意識が彪吾さんから外れた。
「消えるトリガーはもう見た。気付かねーとでも思ったかクソガキ?」
「おいおい、戦ってる相手を見ろや。糞トリガー野郎」
体に突きつけたアイビス。
ゼロ距離で彪吾さんは引き金を引いた。
「伝達脳と供給機関破壊」
「なっ!?猿ども…が…!!」
爆発を伴い、トリオン体が破壊された敵。
「ダミーが一度ゼロになった時点で彪吾が決める形は整っていた。我々の勝ちだ」
アイビスを下ろした彼は人使いが荒いと文句を言いながら 忍田さんに歩み寄る。
「一応保険も残してあったんだ。そう言うな」
ステルスを解除した歌川と菊地原。
彪吾さんは2人を一瞥して、いるのはわかってたよとめんどくさそうに答えた。
「それにしても、懐かしいな。その隊服は」
「もう使うことはねぇと思ってたんすけどね。とりあえず、諏訪んとことあの2人の隊にこの討伐はつけといて。俺はいらん」
「わかったよ」
ネイバーは捕虜にでもすんのか?と生身に戻ったネイバーに歩み寄る彪吾さん。
気を抜くなよ、という言葉の直後 急に開いたゲート。
「回収に来たわエネドラ。派手にやられたようね」
「チッ…おせぇんだよ」
「あら、ごめんなさいね」
差し出された手を繋いだ瞬間、生身の腕が切り落とされる。
「なっ!?」
「回収を命令されたのは黒トリガーだけなの」
「っぐ あああ!!てめぇ どういう…ミラ!!」
ぼたぼたと地面に落ちる赤い血。
トリオン体じゃない、生身の断面。
「はっきり言ってあなたはもうわたしたちの手に余るの。気付いてる?あなたのその目の色。トリガー角が脳まで根を張ってる証拠よ。あなたの命はもうそう長くない。脳への影響が人格にまで現れてる。暴言、独断、命令違反。それになにより、ボルボロスを使って通常トリガーに敗北するなんて致命的ね」
手についていた何かだけを奪い、切り取った手を地面に落とす。
「とても悲しいわ。昔は聡明で優秀な後輩だったのに。さよなら、エネドラ」
体を貫いた針。
血塗れの敵が地面に倒れる。
そして、ゲートが閉じる。
「救護班を呼べ。人型近界民を収容する」
「いっ!?こいつを!?もう死んでますよ、本部長」
「忍田さん、このまま持っていっていい?」
構わないが、どうやって持って行く気だと尋ねる本部長を彼は無視して遺体に歩み寄り、その体に触れる。
「さっきのワープを見る限り、発信機が…これか?他にめぼしい所持品はねぇか」
切り落とされた腕をポケットに押し込み、遺体を抱き上げる。
「そのまま持って行く気か!?」
「時間の無駄だろ、こんなとこで待ってても。そんじゃ、お疲れさん。あ、キューブの解除プログラムは出来てっから、回収してきたら全部寺島のとこ持っていって」
「わかった。ご苦労だったな」
遺体を抱えながら 彼は口を開く。
「なぁ、エネドラっつーらしいぞ。お前の名前だよ、忘れんなよ」
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