後輩の成長を見守る
チャイム。
そして、開いたドア。

「よっ、お疲れ」
「東さんか、」
「戦闘に出たんだって?彪吾」

駆り出されたんだよ、と返せば彼は面白そうに笑った。

「風間から話が漏れて、お前を知ってる連中が戦闘中の映像を探してるぞ。その場にいた奴らもお前を探してるって」
「そんなん、ロックかけてあるに決まってんだろ。めんどくせぇ」
「俺も見たかったんだけどな」

冗談よせよ、と笑ってやれば彼は本気なんだけどと答えた。

「大規模侵攻の敵の遺体の解析をしてるって聞いたけど?」
「あぁ、その真っ最中な」
「一体、いつから寝てないんだ?お前は」

いつから。
いつからだってだろうか。
侵攻前も徹夜だったからなぁ、ご飯もいつが最後だったか。

「…相変わらずだな。とりあえず、飯でも行こう」
「めんどくせぇ」
「つべこべいうな。シャワー浴びるだろ?待ってるから」

有無を言わさぬ彼の笑顔に 仕方ないと立ち上がる。
彼からの誘いを断ることはできない。
作業はひと段落ついていたしらちょうどいいかと自分に言い聞かせラボの奥のシャワー室に向かう。

「東さんなら大丈夫だと思うけど、触んなよ。資料とか」
「わかってるよ」

タブレットを出して何か仕事を始めた彼から視線を逸らし、トリオン体を解除してシャワー室に入る。
トリオン体を解除するこの瞬間ほど辛いものはねぇな、とふらついた体を壁に手を当ててなんとかやり過ごす。

「…腹減った…眠ぃ、怠い…」

簡単にシャワーを済ませてトリオン体に戻る。
ラボへ行けば俺を見た東さんは呆れ顔。

「またトリオン体か」
「…生身じゃ動けねぇ」
「いい加減無茶はやめといた方がいいんじゃないか?若くないぞ、俺たち」

そりゃ、間違いねぇと笑いながら歩き出した彼を追う。

「トリガーの換装体、まだあの頃のままだったんだって?」
「起動させる予定もなかったからな」
「戻ってくればいいのに」

なんの冗談だよ、と言えば少しだけ寂しそうに彼は笑う。
この表情も何度目だっただろうか。

「…適材適所だろ、今が」
「そうかな」
「そうだよ」

食堂は侵攻明けの割に人で溢れていた。

「何食べる?」
「…肉」
「久々の食事だろ?大丈夫か?」

なんとかなんだろと根拠のないことを言って、焼肉定食の食券を買う。

「あー!!!彪吾さん!!!」
「げ、太刀川…」
「ねぇねぇねぇ!戦ったって本当!?戦闘員復帰すんの!?」

しねぇよ、と彼を突っぱねるが こうなった太刀川が静かになるはずもなく。

「模擬戦しよ、模擬戦!久々に!ね!?」
「うるせぇ、糞ガキ。見てわかんねぇ?こっちはこれから飯食うんだよ」
「その後でいいから!ね?!」

相変わらずだなと東さんは笑っているが こっちはそんなに暇じゃない。
解析途中の角のデータをどうにか復元させたいのだ。
そんなこと彼が知るはずもなく、席に着いた俺たちの隣にわざわざ腰掛けた。

「忍田さんと共闘したんでしょ?映像探しても出てこないんだけど」
「人が死ぬとこ映ってる映像公開するわけねぇだろ」
「俺は慣れてるから平気だよ」

そんなもんに慣れてんじゃねぇよ。
なんて、内心思ってはいたが口にするのも面倒くさくなって とりあえずタレがたっぷり絡んだ肉を口に運ぶ。

「トリオン体で食事をするな」
「一番効率的なんだよ、排泄もいらねぇし
「トイレくらい仕事中も行ってくれ…」

これだから、目が離せないんだと彼は呟く。

「放っておいても、死にゃしねぇよ」





食堂の一角。
妙に騒がしいな、と視線をやれば彪吾さんと東さん、太刀川の姿。
一緒にいた菊地原と歌川に挨拶に行っていいか、と言えば「なんで風間さんがわざわざ…」と菊地原が視線を逸らした。

「彪吾さん」
「ん?おぉ、風間か。お疲れ」
「…久しぶりに外でお会い出来ました。開発の方は大丈夫ですか?」

なんとかな、と彼は笑う。

「先日は、ご迷惑をお掛けしました」
「いや、別に。風間達がトリガーのタネを明かしてくれてたから時間かけずに終わったし」
「……アンタがいなくても、俺たちだけでどうにかなったし」

菊地原のその小さく呟いな言葉に彪吾さんは笑って、箸を置いた。

「おい、ガキんちょ。どうにかできたっつーなら、俺が出る前にどうにかしとけや」
「は!?」
「そもそも風間。隊長のお前が先に死んだのがダメだろ」

彼の言うことは最もで、すいませんも頭を下げる。
実際俺たちが会敵した時に倒せていれば、死者はいなかったかもしれない。
起こってしまったことを悔やんでもどうにもならないのはわかっているが、もしあの時会敵したのが玄野隊だったら 違かったはずだ。

「おい、」
「はい、」
「そーいう考え方はやめろ。意味がねぇ。結果が全てだ」

話すのが久々で、忘れていた。
彼には心の中まで、見えているんだ。

「過去は過去だ。風間が落ちたのが悪ぃし、お前らでどうにかできなかったことは事実。俺が出てきたことをぎゃーぎゃーと言うなら、次は俺を出さねぇように頑張ってくれよ」
「はい、心して おきます。次は彪吾さんの手を煩わせることはしないです」
「そりゃありがてぇ。それから、そっちのガキんちょにちゃんと教えてやれよ」

全部聞こえてんぞ、と彼は俺たちから視線を逸らして、また食事を始めた。

「彪吾。もう少し、言い方があるぞ?」
「へーへー、すんませんでした。あ、風間 ついでに太刀川回収してけ。仕事に戻るから 邪魔だ」
「ちょ、ひどくない!?戦ってくれるんじゃなかったの!?」

いつそんなこと言ったんだ、と舌打ちをした彪吾さんに太刀川が縋りつく。

「1回だけでいいから!ね!?」
「ねぇ、アンタさ。さっきから本当に偉そうだけどなんなの?風間さんに対して、その態度とか」

菊地原がきっ、と彪吾さんを睨んだ。
やめておけ、と声をかけるが 聞く気はないらしい。

「あー…糞ダリィな、お前。ぎゃーぎゃーうっせぇし」

ガシガシと乱暴に頭を掻いた彼が立ち上がる。

「東さん、トリガー貸して」
「やれやれ…相変わらずだな」
「風間。いいんだろ?別に」

勝てないだろうな、と思った。
だが 目の当たりにしなければ菊地原は納得しないだろう。

「大丈夫です」

食事を一旦やめて、東さんのトリガーを起動し直した彪吾さん。
彼が身に纏うのはあの頃と変わらぬ隊服。
食事をトリオン体でかき込んで、彼はじゃあ行くかと歩き出す。

「平気か?体の方は限界だろ?」
「すぐ終わるからなんとかなる。今、栄養入れたし もつだろ」
「…どんどん人じゃなくなっていくな、お前は」

東さんの言葉に彼は笑った。





さてと、どうするか。
肩にアイビスを担いで首を傾げる。

「ま、来てくれるのを待つか。めんどくせぇし」

高いビルの上。
しゃがみこんで、手の中のアイビスを撫でる。
そういえば何年振りの戦闘だっただろうか。
鈍ってんぞ、とか言っておきながらこの手に馴染む感覚は変わらなかったな。

「さて、と。俺にステルスは効かねぇぞ ガキんちょ」

背後に近づく彼にそう声をかけるが、返事はない。
だが、視えている。

効かない?
いや、そんなはずない。
じゃあ、はったりかな。
てか、狙撃手なのにこんなに近づかせるとか バカなの?
狙う素振りもなかったし。
なんで風間さんが、こんな人に 頭下げてんの。
ありえない。

目の前に広がる文字の羅列。
それは、彼の心の中。
所謂、サイドエフェクトというやつだ。
俺の目は人の心の中を視覚化できる。
昔はこれで随分と悩まされたが、慣れてしまえば別に支障はなかった。
寧ろ、便利なものだ。
あの敵も 次の攻撃を教えてくれたし 全てのダミーを破壊した段階で 本物を庇おうとしていた。
だから、これを庇わなくてはという彼の心の中が見えていた。

ゆらり、と立ち上がり振り返る。
姿は見えないが、文字の羅列はその人から発される。
だから、どこにいるかなんて すぐにわかるのだ。
確か、武器はスコーピオンだったな。
とりあえず手は*ぐか。

何でこっち向いた?
見えてるのか?
いや、そんなはずはない。
サイドエフェクト?
どんな?俺と同じ聴覚強化?

「耳じゃねぇよ」

銃声が2回
アイビスは連射には向かないし、他に比べて重さがあるから手に持って撃つのにも向かない。
ただまぁ、俺としては これが1番気に入っていた。

ステルスが解けて、手が*げた彼が地面に横たわり俺を睨みつける。

「よォガキんちょ。人を舐めてかかると、痛い目見るぜ?風間のことが大好きなのはいいが、敵に回す相手は選んどけよ」

彼の額に押し付けた銃口。

「狙撃手なのに近づかせるのは確かにバカのやることだが。俺は別に、狙撃手じゃねぇよ。攻撃手じゃね?どちらかというと」
「だったら、何でアイビスを…」
「そりゃ、俺が作った銃だからだ」

弾け飛んだトリオン体の頭。
アイビスのゼロ距離射撃が、俺が1番好む勝ち方だった。
教育に悪いだ何だと東さんや忍田さんに怒られたが これを変える気はない。

「さァて、ラボに戻るか」

ベイルアウトして部屋を出れば変わらないなと呆れ顔の東さんと目を輝かせる太刀川。

「ありがとな、返すわ。トリガー」
「相変わらずだな、お前は」
「そりゃあねェ?」

うちのがすいません、とガキんちょの頭を下げさせながら 自分も頭を下げた風間。

「一丁前に隊長してんじゃねぇか。隊長想いのいい隊員だとは思うぜ?大事にしてやれよ」
「なんなんですか、この人…。ステルスは効かないし、偉そうだし…無駄に、強いし…」
「彪吾さんは、元A級2位部隊だった玄野隊の隊長だ。今は、チーフエンジニアだけどな」

元A級1位部隊東隊を6-4まで追い詰めた唯一の部隊だよ、と東さんが付け加える。

「6-4だろうが、負けは負けだ。うちは万年2位部隊」
「解散してなければ わからなかっただろ?」
「どうかね。そんじゃ、気分転換もしたし仕事に戻るわ」

お疲れさん、と踵を返すが 足を止めた。

「あ、風間」
「はい?」
「落ち込んでる暇ねぇぞ。後悔してんなら一瞬も無駄にせず動け。そこのガキんちょもな」

ありがとうございます、と風間は深々と頭を下げる。

「けどまぁ、見ねぇうちに良い隊長になったじゃねぇか」

下げられた頭を少し乱暴にかき回してやれば、ボサボサになった髪のまま彼は俺を見つめた。
そして、ほんの少しだけ 表情を緩ませる。

「光栄です」
「そんじゃ、お疲れさん」

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