とあるホワイトデーにて

どんな偶然か。
雅さんとの試合の後、空いた日付というのが3/14だった。
鳴さんの喜びそうなお菓子作り、最近彼が欲しがっていたアクセサリーと共に紙袋に入れた。

「Leo、俺出掛けてくるから」
「Meiのとこ?」
「そ。約束してたし」

いってらっしゃい、と彼は片手をあげた。

「皆観光行くって言ってたし。お前も明日の集合に間に合うなら、朝帰りでもいいぜ」
「向こうはオフじゃないよ」
「折角honeyと会えるってのに、冷たいなぁ」

アイツが俺と鳴さんのことを弄ることは今に始まったことじゃない。
若干イラッときたが無視してホテルを出た。


キャンプ場には沢山のファンの姿。
鳴さんのユニフォームを着てる若い女の人も目立つ。

「相変わらずモテるんだなぁ、あの人…」

学生時代もチョコ数自慢してたっけ。
あんなに沢山貰っても、俺があげる義理にあんなに喜んでくれていたのが可愛かったなぁなんて。
今だから言えることだ。

事前に渡されていた関係者パスを首から下げて、球場の中へ。
知らない選手たちからの視線を感じながらベンチに入れば、ちょうど鳴さんがインタビューを受けていた。

『今日はホワイトデー!ということで…何か、ホワイトデーのエピソード教えてください!』

スーツを着た若いアナウンサーの前、彼はあの頃と変わらない笑顔を見せる。

「ホワイトデーのエピソード?あ!そうそう、初めてホワイトデーにお返しした時さ、プリン手作りしたんだよね」
『え、成宮選手が手作りで!?』
「そうそう。んで、まぁ結構上手くできて相手も喜んでくれました!って感じかな。やばいねー、オチないね、これ」

ケラケラと鳴さんが笑う。
てか、あのプリン初めてのお返しだったんだな…。

「て!颯音じゃん!」

他になんかあるかなー、と思案した鳴さんが俺に気づき、手を振った。
一緒にカメラとアナウンサーの視線もこちらへ向く。

『もしかして、Joker’sの玖城颯音選手!?』
「あー、こんにちは」
「ついでだし、映ってけよ」

そんな勝手な、と言えば 「全然大丈夫です。寧ろ、映ってください」とディレクターっぽい人に言われ 渋々彼の隣に並んだ。

「どう?颯音のホワイトデーのエピソード」
「学生時代は毎年手作りで返すようにしてました。今も、知り合いには手作りで返してますし。て、ことで…これどうぞ」
「ん!?まじ!?!」

差し出した紙袋を受け取って鳴さんが「貰っちゃいましたー」とカメラに自慢する。

『もしよろしければ、中身とか…』
「俺は全然。鳴さんが良ければ」
「はい、じゃ…開けちゃいまーす」

紙袋の中に入った2つの箱。
1つ目に手に取ったのは例のアクセサリーだった。

「え、待って。これ…」

箱を見てピンと来たのだろう。
ラッピングのリボンを解いて箱を開けた彼は俺の方を勢いよく見た。

「嘘じゃん!?」
『これ、今月出たばかりの新作の指輪…ですよね?』
「欲しいって話してたので」

お前はすぐそうやって、お金使うじゃん!と文句を言いながら指輪を指に嵌め満足そうに笑う。

「見て見て!似合う?」
「似合いますよ。てか、似合うと思ったんで買いました」
「やばーすげぇ嬉しいじゃん」

ナチュラルに左手の薬指に嵌めたことは突っ込まない方がいい気がするな。
指輪をそのままに彼はもう1つの箱を開ける。

「え、なになに?チョコケーキ?」
「オペラっていいます。フランス発祥のケーキなんです」
「え、めっちゃ美味そう」

しっかりカメラに自慢する鳴さんに『これ手作りなんですか!?』とアナウンサーが驚いていた。
そういう反応もらうのも久しぶりな気がする。

「これは俺が練習後にいただきまーす。いいでしょ?いいでしょ?貰えんの俺だけだからねー!」
「喜んで貰えたならよかったです」
「はい、てことで 俺の相棒の颯音でしたー!ばいばーい」

勝手に締めてインタビューを終わらた鳴さんが「久しぶり」と笑った。

「お久しぶりです。とりあえず、お返しに来ましたって感じです」
「いや、めっちゃ嬉しいよ。てか、指のサイズなんで知ってんの?」
「前飲んだ時潰れてたんで測りました」

お前はプロポーズする彼氏か!?と突っ込まれながら苦笑する。

「右の薬指で測ったんですけどね。左につけるからビックリしました」
「いーじゃん。俺らの仲だし?今日の予定は?どんな?」
「特には。とりあえず少し見学して帰ろうかなぁと」

じゃあ夜空けといて、と彼は言った。

「さすがに貰いすぎだから、これ。いいお店知ってるんだよね、この辺に」
「明日も練習じゃないんですか」
「明日はオフなんです!てことで、約束な!」

これ冷やしといてーとスタッフに紙袋を渡し、俺の指に指輪をはめる。

「終わるまで預かってて」
「いいですけど。なんでわざわざ左の薬指に…」
「いーじゃん。じゃ、ちゃんと見てろよ」

とりあえずLeoに帰れないって連絡するか。
チームメイトに小突かれる彼を見ながらそんなことを考えていた。

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