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「いっ」

#name#は、お風呂に入った時に自分が傷だらけの腕と、アザだらけの体の"まま"だったことを思い出した。

「くそ、五条のせいでショーコに治療してもらい損ねた。」

ぐちっと、でも聞かれても嫌だと小さな声で呟くとじわっと目元が熱くなった。

悔しい、悔しい悔しい!

『弱すぎ、ザコ。』

毎回立ち上がることも許さないくらいに傷だらけにされる体術の練習。術式なしだからといって!

「ばか、あほ。」

本当はちょっと家から離れた女子高生に電車で通うつもりだった。制服が可愛くて選んだ学校、彼氏でも作って通学は途中まで一緒に行ったりして……なんて考えてた。

全部、本家……いや総本家からすると末端も末端でしかないけど……まぁ我が家からすると本家のババアのせいでココに押し込まれることになったんだっての!来たくてくるかこんなド田舎の学校!

室内でさえどこから入ったのか虫がいて、最初は1匹の蛾が怖くて戦っていたくらい。思い出した!それさえ、五条から「お前邪魔だよ」って一言と術式でぐしゃぐしゃにされた蛾だったものが降ってきて終わったんだった!

私なんて、味方を守るちょっとした防御層を張るくらいしか脳がないのに呪術師なんてどう考えても向いてない!だいたい五条のぞいてもクラスメイトが優秀すぎて落ちこぼれが悪目立ちしてる気がする!

本家の言われるままにお手伝いくらいはしてたけど、ココに入学してからは、落ちこぼれに仕事はないとクラスで唯一無遅刻無欠席!いや、わざわざ呪霊と戦いに行きたくはないけど、お手伝いくらいなら……

『お前死にに行く気か?早く辞めとけ』

くそ、また嫌なこと思い出した!ヤメヤメ!
#name#は涙を拭うとお風呂を出た、一通り心の中で五条のことはボコボコにした(いや、心の中でもかなりやり返された気がする)し、もう考えるのはやめよう。

アイツ絶対ドーテーだ。硝子もそう言ってたし間違いない。

のほほんとした両親は「なかなかない経験よ、社会経験なんていつでも出来るじゃない」なんて言ってたけど、今既に花の10代の娘ボロボロ!

大きめの半袖パーカーに短パンをはく。最初は虫が怖すぎて暑い日も長ズボンにしていたが、五条にズボンの中に虫(おもちゃだったけど)を仕込まれてから、それからはくのが怖くなり、バスケ部が切るようなヒラヒラした短パンをはくようになった。しかしそれもはく前に1回振らないと怖くてはけない。

ため息をついて風呂から上がる。談話室からテレビの賑やかな音が聞こえると思って覗くと、夏油くんがひとり。「おい」話しかけようとするとすぐ後ろから声がしてビクッと驚いた。

気配消すなよとか、居るのに気づけないレベル(ザコ)ですみませんとか……色んな感情で五条を振り返る。

「……なんでしょう。」
「なんで硝子に治療してもらってないわけ?」

(消してあなたへの嫌がらせで傷だらけにしやがってコノヤロウってわけじゃないです。忘れてました)
「ご、めん」

自分の思いをそのまま口にすると何されるかわからない、と思わず言葉少なげに答えるけど、わお五条の綺麗な顔もそこまで嫌な顔するってくらい歪む

「なん」「じゃあ!私部屋に帰るね!」

これ以上言わせるか、私は今日のストレスは風呂場に捨ててきたんだ。呪霊がいたら喜ぶだろうなぁってレベルの負の感情は、もう水とともに流したんだから、今日はもうおしまい!


そのまま振り返らずに部屋へ戻っていく#name#を何か言いたげに見送る悟に、思わず笑ってしまう。

「好きな子を虐めるってさ、小学校までにしとけって硝子が言ってたけど?」
「はぁ?誰が!誰を!」

いやいや、風呂上がりで丸出しの手足に目がいってしまったせいで傷が目に入ったんだろう。そう思ったが、あえて口にはしない。

寝る前に硝子に#name#の怪我を治してあげて、と連絡入れるとすぐに来た返事。

『もうした。五条からも連絡来たんだけど。アンタら2人して#name#の保護者か。五条には心配するくらいなら二度と怪我させるなって言っといて。』

ほら、やっぱり気にしてた。そう思ってまた笑う。さて、明日悟はどんな反応をするんだろうか。