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NO.009:諸刃の剣と自尊心

記念すべき初の戦闘訓練の舞台となるグラウンド・βというのは、入試の実技試験にも利用された市街地を模した場所だ。
入試のときも思ったが、実際に人が住んでいてもおかしくないくらいの作り込みと規模で、こんな施設が敷地内にいくつもあるのかと思うと、改めて雄英の広大さを実感する。

訓練内容は二人一組(A組は奇数のため一組は三人)の屋内戦闘。
チームアップと対戦相手はくじ引きでランダムだ。

まだ互いの性格や“個性”の把握は愚か、名前すら朧げな者も多いが、プロヒーローでも即席のチームを組むことはままあるシチュエーションだ。
ヴィランの所持する核を回収するというアメリカンな設定は置いておいて、かなり実戦に近い形式と言っていいだろう。

くじの結果、交子はBチーム、今回唯一の三人組に振り分けられた。
チームメイトは轟焦凍と障子目蔵。
轟はヒーロー科推薦入学者の一人で、右は白髪、左は赤髪と目立つ出で立ちだ。
障子も、筋肉質で大きな身体が、彼の“個性”である六本腕も相まってより一層際立って見え、かなり印象的だった。

「よろしく」

二人とも今日初めて話す。
交子が軽く挨拶すると、簡素な返事が返ってきた。
轟も障子も、派手な見た目とは裏腹に物静かな性格らしい。

各チーム割りがすべて発表された後は、いよいよ対戦相手のくじ引きだ。
1戦目はヒーロー役に緑谷・麗日のAチーム、ヴィラン役に爆豪・飯田のDチーム。
初日からなにかと仲の悪さが露呈していた緑谷と爆豪、そして緑谷とは入学前から知り合いらしい麗日・飯田という縁のある組み合わせである。

Dチームがハリボテの核が用意されたビル内に入り、Aチームが外で建物の見取り図を持って待機。
それ以外の生徒はモニタールームへ移動し、両者の様子を観察する。

──結果から言うと、初戦はAチーム・ヒーロー側の勝利で終わった。
しかし、これをヒーローチームの勝利と言い切ってしまって良いのか判断に迷うような混戦具合だった。
ヒーロー側の勝利条件である「核の回収」は達成されたが、手放しに喜ぶには緑谷の負傷は大きすぎた。

地味な見た目にそぐわない──と言ったら随分失礼かもしれないが、天井をブチ抜くという派手で突拍子も無い強行作戦に出た緑谷だったが、爆豪の攻撃を真正面から受けたうえに、己の“個性”で腕が破壊され、モニタールームに戻ることなく保健室へ移送されてしまった。

爆豪は爆豪で先程までのヒールっぷりが嘘のように静かだ。
現に、モニターで観戦していた八百万百(もう一人の推薦入学者だ)に「愚策」と評されても声を上げる素ぶりすら見せない。
まだお世辞にも親しいとは言えないクラスメイトたちにすら、その姿は異様に見えた。
それ程、彼は彼なりに、この訓練でなにか思うことがあったのだろう。

─ 諸刃の剣と自尊心 ─


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