場所を移して(初戦に使用したビルは大破してしまった)、次はいよいよ交子たちBチーム戦のスタートだ。
対するIチームは強靭な尻尾を持つ尾白猿夫と、透明人間の葉隠透。
障子がまず薄暗いビルの一階へ足を踏み入れる。
彼の腕は複製腕といい、目や耳など体の一部を複製できる索敵能力に長けた“個性”。
障子は
敵チームが潜む位置を容易く特定すると、続いて轟がビル内へ歩を進めた。
「外出てろ、危ねぇから」
一言そう言うや否や、あっという間に冷気が広がり、暖かい春の陽気から一変して交子は寒さに震えることとなった。
「向こうは防衛戦のつもりだろうが、俺には関係ない」
「すご……」
轟は一瞬でビル全体を氷で覆い尽くしてしまい、一人ダミーの核の場所まで氷を踏みしめる音だけを響かせた。
「私の出番ゼロだったね」
轟が無事核を発見、回収したのだろう。
氷漬けのビルが、今度はもくもくと湯気を立て始める様子を呑気に見上げて、感嘆の声を上げる交子。
轟は「半冷半燃」という複合型の超強力“個性”の持ち主なのである。
彼の圧倒的力量もあって、交子はほとんど一歩も動かないまま、ヒーローチームの圧勝でBチームの訓練は終了した。
「さて、Bチームは今回唯一の三人体制だったわけだけど!」
交子たちがモニタールームに戻ると、オールマイトが両手を広げて快活にそう言った。
「替場くんは何もしなかったが、やる気がないのか君は? 彼女も何かしら参加するべきだったのではないでしょうか!」
真面目そうな眼鏡の飯田に辛辣なコメントを面と向かって述べられ、交子は鈍器で殴られたような思いをしたが、オールマイトは「ノン!」と真っ直ぐ立てた人差し指を左右に揺らした。
「その答えがこの戦闘訓練の真髄の一つなわけだが……替場少女、実際に参加してみてどう感じた?」
急にオールマイトに話を振られて、交子は思わず「えっ」と声を上げてしまった。
図らずもクラス全員からの視線を集めてしまい、交子はそわそわと居心地の悪さを感じながらも、恐る恐る口を開く。
「今回のシチュエーションだと、チームメイトの“個性”を考えてもこれがベストな策だと思います……
敵が核を保有しているという情報がある以上、まず優先すべきは相手が行動を起こす前に動きを封じることだと思うし、実際私は必要なかった、かな、って……」
話しながら徐々に自信を失うように尻窄みになったが、訓練で感じたことを率直に述べる。
オールマイトがグッと親指立てたのを見て、交子はこっそり息を吐いた。
「そう! 一見人数は多い方が有利と思い込みがちだが、最も大事なのは“現場に必要な力を見極める”ってことさ! 替場少女の“個性”、交換の最大の活かし方は戦闘中の核の回収だが、今回はチームメイトが敵の拘束も含め一気に完了していたからね。他の方法でチームのサポートが出来れば更にベストだけど、その辺は今後の訓練でカバーしていこう!」
お疲れさま! とオールマイトが締めると、自然とぱらぱらと拍手が起こった。
「なるほど! そういうことだったのか。無意識のうちにぼ、俺は君を見縊っていたようだ! 先程は極めて主観的な意見だった。すまない!」
「えっ、いいよ、そんな、私本当に役立たずだっただけだし……」
とことん真面目らしい飯田は、ピッタリ45度に腰を折って交子に謝罪の言葉を述べた。
あまりにもハキハキ喋るので怒っているのかと思ったが、どうやらこれが彼の通常運転らしい。
気にしないで、と交子が声をかけると、飯田は漸く頭を上げた。
次戦の開始後、交子はこっそり轟を盗み見た。
感情の読み取れない冷ややかやな表情で、静かにモニターを見つめている。
あのとき確かに、小型無線機から聞こえてきた言葉は、まるで自身に向けられたもののようで。
推薦入学者とはこんなにも歴然とした差があるのかと、交子は一人そっと唇を噛んだ。
─ レベルが違いすぎた ─
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