HEARTBEAT SCREAM
NO.015:狂気の沙汰

「すっげーーー!! USJかよ!?」

本日の演習は、災害救助の現場で活躍しているプロヒーロー・13号とともに人命救助レスキュー訓練だ。

「水難事故、土砂災害、火事……etc.── あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……ウソのU災害やS事故ルームJ!!」

教室での事前説明では、相澤先生とオールマイトを加えた3名で見る、ということだったが、オールマイトの姿が見当たらない。
どうやらなにかの事情で不参加のようだ。

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

緑谷くんの言葉に、13号先生のファンだという麗日さんが激しく頷く。

「ええ……しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう」

それを聞いて、昔エツコ先生から「“個性”が出始めたばかりのころ、交子ちゃんは空を飛んでる鳥と自分のことを交換したことがある」と聞かされたのを思い出した。
幸いその時はそれほど高さもなく大した怪我はしなかったそうだが、もし他人に同じことをしていたらと思うとぞっとする。

超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで、と13号先生の言葉が続く。

「相澤さんの体力テストで自身の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」

私は内心、体力テストでは何も見出せなかったし対人戦闘においては“個性”すら使えなかったけど、と屈折した気持ちになったが、今はそれは黙って置いておこう。

「この授業では……心機一転! 人命のために“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

自然と湧き上がる拍手の最中、危険を察知した野生動物の如く相澤先生が険しい顔で背後を振り返った。
その視線を追いかけるように、中央の広場へ意識を向ける。

「ひとかたまりになって動くな!」

相澤先生の声に、思わず背筋に電撃が走るような緊迫感を感じた。
広場の中心に黒いモヤのようなものが浮かんで、そこから人が湧いて出るように数を増していく。

あれは──ヴィランだ。

ヴィランンン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが……!」
「現れたのはここだけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る“個性ヤツ”がいるってことだな。校舎と離れた隔離空間、そこに少人数クラスが入る時間……バカだがアホじゃねぇ。これは、何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

轟くんの冷静な分析に納得だ。
もしかすると、先日のマスコミ乱入騒ぎに乗じてなにか紛れ込んだのか──いや、元々侵入するのが目的で、注意を逸らすために敢えて騒ぎを起こしたのかも知れない。
何にせよ敵がピンポイントで現れたということは、この時間にこの場所で授業が行われることが事前に分かっていたということだろう。

相澤先生は13号先生に避難指示を出して、自分は戦闘体勢に入った。
ああ見えて相澤先生は肉弾戦が得意なのはよく知っている。
だがそれは“個性”で敵の動きを乱しながらの短期決戦が前提で、この数を一人で相手にするのはさすがに分が悪いんじゃないかと、心のどこかに一抹の不安が過ぎるのを、私は無理矢理振り払う。

とにかく今は13号先生とともに早急に外へ出て、一刻も早く増援を呼ぶ。
それが卵にもなりきれない私たち生徒に出来る最善手。
──だったのだが。

「させませんよ」

広場の中心にあったはずの黒いモヤが目の前に広がる。
言葉を発したということはこのモヤは人で、そういう“個性”なのだろう。

「初めまして、我々はヴィラン連合。せんえつながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴・オールマイトに、息絶えていただきたいと思ってのことでして」

─ 狂気の沙汰 ─


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