HEARTBEAT SCREAM
NO.020:夢のまた夢

ヴィラン連合よるUSJ襲撃事件の翌日は臨時休校となり、クラスメイトと再び顔を合わせたのは事件の2日後だ。

満身創痍の相澤は流石にしばらく休養を取るだろうと思っていたA組の予想は外れ、全身隈なく包帯に巻かれて見事なミイラ男と化した担任に、揃って驚きの声を上げることとなった。
当の本人はそんなことどうでもいい、と一蹴して淡々と話を続ける。

「雄英体育祭が迫ってる」
「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

またヴィランに襲われたりしないか、と一部からは不安の声も上がったが、警備を例年の5倍に強化して、雄英の体制は盤石であることをアピールしていく方針らしい。

雄英の体育祭は日本中が注目するイベントだ。多くの報道陣がこぞって中継し、体育祭がきっかけでプロからスカウトを受ける生徒も少なくない。
たった三度限りのチャンス。プロヒーローを目指すならこの機を逃す手はなかった。

子どものころからテレビで見ていた舞台だ。交子も例に漏れず気合いが入る。
体育祭まで2週間。今日からしばらくは毎日トレーニングルーム通いだな、とぼんやり考える。

一方であまり目立ちたくないというのも本音で、少し複雑な思いだ。
交子はメディアが苦手だった。5年前──連続誘拐事件のことは、日々ニュースで大きく取り上げられた。忽然と姿を消した子どもたちは捜索のために皆実名報道された。交子もその一人だった。

事件が終わった後は報道にも規制が入ったが、一度世の中に流れた情報を完全に消すことはできない。しばらくは同情や好奇の目に晒された。

相澤のように、滅多にメディア露出しないプロもいるにはいるが、それはごく少数派で、大半のヒーローは大衆の注目の的なのだ。必然的に人気ヒーローにはパパラッチが付き物になる。将来活躍を期待される雄英高校ヒーロー科もまた然りだった。

事件当時はまだ小学5年生だった交子も、もう高校生だ。成長してそれなりに雰囲気も変わったし、あの事件と自分をすぐに紐付ける人はそうそういないだろうと思うが、それでも事件のことがまた世間の目に晒されるのでは、という可能性を考えると正直怖かった。

──まあ、そこまで活躍できないかもしれないし。
なんて、ネガティブな考えで自分を励ます。とにかく今は、目の前の課題に集中しなければ。


***


その日の放課後、A組の教室の前にはなにやら人集りができていた。
体育祭の開催が全クラスに開示され、ヴィランと戦ったA組への好奇心も相まって、さしずめ敵情視察といったところだろう。

「普通科とか他の科って、ヒーロー科を落ちたから入ったって奴けっこういるんだ。知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科の編入も検討してくれるんだって。その逆も然りらしいよ」

人集りを無視して教室を出ようとする爆豪の前に立ちはだかったのは、普通科の生徒だ。

「敵情視察? 少なくとも普通科おれは、調子のってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり」

大胆不敵な発言。
それに続くように、A組と同じくヒーロー科のB組の生徒が声を上げる。

ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ったんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんな、オイ!!」

それすらも無視して帰路に着こうとする爆豪を、切島が引き留める。

「待てコラ! どうしてくれんだ、おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
「関係ねぇよ」

振り返って一言「上に上がりゃ関係ねぇ」という爆豪の言葉に、A組の生徒は一転納得の声を上げ始めた。

馬鹿か、私は。
交子は己の甘さを悔いた。メディアが怖い、目立ちたくない、なんて言っている場合じゃなかった。
ヒーロー科だけじゃない。全員必死なんだ。ここで結果を残せなければ、プロヒーローなんて、到底。

─ 夢のまた夢 ─


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