ジンが凄まじい上機嫌で、ブロンクスの仕事部屋にやってきた。
そのとき丁度ブロンクスは仕事をしている最中で、丁度自身が作り上げたシステムの確認作業を行っているところだった。
「ジン」
顔を上げたジンの鋭利な瞳がこちらを射抜く。緩やかに広がっている愉悦の色に、ブロンクスは顔をしかめた。
ジンの機嫌がいいということは、作戦が何かしら上手くいっただとか、そういうことだ。前回の大規模のNOC粛清も上手くいっていた。となれば、今回もその筋だろうか。
お抱えの武器商人からの新作を貰った、とかも考えられる。普通に考えて良いことではないだろう。
「なんかあったの」
「さぁな」
何かあったのは間違いないが言うつもりはないということだ。ブロンクスに言うつもりが無いのなら、恐らくこちらが嫌がることだろう。顔に面倒だというのがありありと浮かんだのだろう。こちらの顔を見ながら、ジンが顔を歪める。
「ああ、そうだ。当分ここにバーボン、スコッチを入室禁止にさせた」
「……なんで?」
「懸念事項だ」
ふぅん、と頷きながら、あ、バレたんだなと思った。どっちかバレてる。それか、そういう疑いがあるから遠ざけておきたい、だ。
どちらにせよ良い状況ではない。ブロンクスが彼らに向けた気をつけろと言う忠告は、嘘ではなかった。死んでいく人を沢山見てきた。
それと同時に、彼らは“使える”側の人間で、もしかしたら、と思った。
結局今回も駄目だったか、と思ったが、まだだな、と思い直す。
もしスコッチに何かしらの証拠を用意できる、もしくはNOCが確定するようなものが無ければ、対処が出来る。
システムの通常の動作確認が終了して、一度手を止める。唸る。どうしたものか。
思った以上に入れ込んでいるようだった。
助けたい、と思っている。ずっと。心の底から。そのためなら何でもすると、昔決めた。
──志保。姉さん。
とん、と指先で机を叩いた。誰よりも何よりも大事だった。
二人の為なら何でもするし、何でも殺した。今回のスコッチも見逃すことは出来るだろう。見殺しに出来るかと言われたら、全然できる。
ただこの存在が、志保に繋がるのなら、姉に繋がるのなら、助けなければならない。
■
が、根本的にこういうのは上手くいかないものだ。
ぽろん、と連絡が来てそれに目を通す。
短い、たった数文字の一文にこれほど不快になることは滅多にないだろう。
思わず、舌を打つ。そしてジンの上機嫌の理由も、意図も容易く理解する。
「気をつけろって言ったのにさ」
人の忠告を無視して。
組織の中でも組織の流れを一番把握しているのは、あの方、ラム、そしてジンだ。
だけれど組織のネットワークそのものを構築しているブロンクスは、そのネットワークに入ることで、あらゆる情報を吸い上げることが出来る。
あの忠告は、心の底からの物だったのに。
『スコッチ、NOCの疑いあり』
ブロンクスが組織から配布された端末。幹部以外が持つことを許されないそれに、そう書かれたメールがブロンクスの携帯端末に送信された。
2022.04.11