【赤色同士】
スメールという厳しい環境でも鮮やかな赤い花。特産品とも言えるほど黄色い砂とのコントラストが美しい、大赤砂海に生息するサボテンにのみ生育する赤念の実が生えているのを見て、美味しそう、と二、三ほど頂いた。
アアル村に鼻歌混じりに帰れば、丁度アアル村を見回っていたらしいキャンディスとばったり遭遇する。彼女は手に珍しいことに悼霊花を持っていた。
「帰ってきたんですね。赤念の実ですか?」
「キャンディスも食べる?」
そう言って彼女に一つ手渡すと、悼霊花を近くにそっと置き、彼女が両手で丁寧に受け取る。そういう所作が様になる綺麗な人だった。
キャンディスがしげしげと両手で持った赤念の実を見ているのを見ながら、自分も赤念の実を一口齧る。
もごもごと口を動かし飲み込んだ後、思っていたことを口にした。
「似合うね、赤色が」
髪の紺碧、ヘテロクロミアの琥珀色と瑠璃色、褐色の肌。キャンディスの身体的特徴の中に赤色がないせいか、キャンディスが赤念の実を持つと神秘的なほどに似合う。
普通に果実を持っただけでこうなる人間はそうそういない。
綺麗だな、と見ていると、キャンディスが困ったように首を傾げた。
彼女は赤念の実を持ち替えると、傍に置いた悼霊花を手に取りこちらに指先を伸ばした。
耳にするりと茎を入れられ、自分の顔の横に悼霊花の赤い花が垂れ下がる。
「あなたの方が似合っていますよ」
真っ赤になったこちらの顔を見ながら、くすくすと笑いながらキャンディスに言われて「揶揄わないでよ」とため息混じりに伝えれば、彼女はますます笑っていた。
【細胞周期】
「美味しい!」
「それならよかったです」
そう色違いの瞳を緩めてほっとしたように笑ったキャンディスに、笑いかける。
キャンディスが作ってくれた米、麺、豆を組み合わせた料理、アアルコシャリはキャンディスのオリジナル料理のようで、普通のものよりもかなりボリュームがある。
「誘ったのは私ですが、本当に食べに来ると思っていませんでしたので……」
「もしかして、建前だった? ごめん……」
スプーンを置きながら言えば、キャンディスが慌てたように首を振った。下げた髪が柔らかく跳ねる。
「違います。緊張していたんです。小食って言っていたでしょう」
「キャンディスから見たら、他の人なんて大抵少食だと思うよ……」
キャンディスに招待されたことのあるセトスがやや引きつった顔で「彼女の料理はどれも超大盛だから、絶対に量を少なくって言った方がいい。僕ですらやっと完食したんだ……」とこちらの肩を掴みながら忠告してきたのを思い出す。
その忠告通りに量を少なくしてくれ、と伝えれば、キャンディスは了承してくれたが、今食べているアアルコシャリは自分でもかなりの量がある。
それでも、キャンディスから見ればかなり少なくしている方らしい。
「でも本当に美味しいよ。毎日食べても飽きないぐらい」
「大袈裟です」
「お世辞じゃなくて本当に思ってるってば」
そういうとキャンディスが少し考えるように視線を下げる。
それに対して、嫌だったかな、と次はこちらが慌てる番だった。
「あ、あのね! 毎日作ってくれって言ってるんじゃなくて、それぐらい美味しいよっていう話で、あの、その、えーっと」
「大丈夫です。わかっています」
キャンディスが慌ててわたわたと言い訳し始めたこちらに、微笑む。
微笑んだまま、彼女はこちらに手を伸ばして空中で忙しなく動かしていた自分の両手をそれぞれ掴んだ。
そっと掴まれたまま、机の上に手を引き戻される。食事の場ではしゃぎすぎたな、と自分の品の無い空回りの仕方を恥じていると、キャンディスがそっと囁いた。
「三ヶ月です」
「えっと……?」
「何の数字かわかりますか?」
両手は離されないまま、キャンディスが問う。
その数字が何か皆目見当もつかなかったが、美しい琥珀色と瑠璃色がこちらを真っ直ぐ向いているので、何か言わなければと考える。
「……んー、キャンディスがアアルコシャリをマスターするまでにかかった時間? でもキャンディスはもっと早く習得できそう」
「そうですね」
琥珀色が、光を浴びて煌めいている。一方で反対の瑠璃色は静かな気配を落としていた。
左右の色の違うヘテロクロミアが柔らかく瞬く。色違いの瞳に映る自分はにこにことしていて、楽しそうだった。
「人間の細胞が完全に生まれ変わるって言われている期間です」
「ん?」
きゅ、と掌を握る力が強くなる。まるで逃がさないと言われているようだった。
意味を捉えかねて、馬鹿な面を晒した自分にキャンディスが微笑みかける。
「もし、あなたが本気で言っているのなら、私はあなたを三ヶ月閉じ込めて、細胞から何まであなたを私の作ったもので構成します」
突然の話の展開についていけない自分の頬が引きつるのがわかる。それを見てキャンディスがにこりと笑った。
「……ちょ、ちょっと待って」
「冗談ですよ。また食べに来てください」
そう言ってキャンディスが両手を離し、自分の分よりも三倍ぐらいありそうなアアルコシャリを食べ始めるのを見て、可愛いがとんでもないことを言われたな、と思った。