枷とて我が身の一部なり

 ──晄夏、お前は強い。儂の思った通り、いや、それ以上に立派になってくれた。

 師範は悲しげにそう言った。晄夏の肩にしわくちゃの手を置いて。


 甘田には、鬼殺隊時代から世話になっている医者の友人がいる。修行中の晄夏の変化を感じ取り、大事になる前にと呼んだのだ。今でこそ隠居している医者だったが、友の頼みとあればと、遠路はるばる診察にやって来た。
 医者は現役時代に、何人もの鬼殺隊士を治療してきた。様々な呼吸を扱う剣士を見てきた。長年の経験と知識は、晄夏を見てひとつの答えを導き出してしまう。

「甘田……お前は本当に、人の才を見抜くのが上手い奴だな。天に誇れる才だ。剣の才は桑島に及ばんかったが」
「それ今言う必要あったか? なぁ?」
「あの子は雷の呼吸を使う為に生まれてきたと言っても過言じゃあねぇ。特に……足だ。瞬発力を生み出す足の筋肉。しなやか且つ剛健」
「慈悟郎以上か」
「かもしれん」

 医者の返答に、甘田は誇らしげに頷いた。
 元鳴柱・桑島慈悟郎と甘田は同門だ。同時期に修行を始めたにも関わらず、桑島は甘田からすればあっという間に柱にまで上り詰めた。甘田も血の滲む様な努力をしていたのに、一体何が違うのか。悔しくて堪らなかったが、同時に彼の太刀筋に深い尊敬の念を抱いていた。

 絶対に柱になると意気込んでいたものだが結局それは叶わず。甘田は身体が満足に動く内に引退し、その後は育手として、鬼殺隊に貢献していた。どうやら甘田は、自分を育てるよりも他人を育てる方が得意だったらしい。何人もの剣士を育てたが、それでも、鳴柱に至った者はいない。

「だがな、甘田よ。あの子の足を見たか」

 医者の問いに、甘田は無言で頷いた。晄夏には脛の辺りに両足揃って大きな傷跡がある。どうしたのかと甘田が問うた時、晄夏は「昔事故にあって」と言った。「でも動けます」とも。

「呼吸を身につければ、身体が丈夫になる。回復力も上がる。今からが一番成長する時期だから、まあ……」
「つまりなんだ? 晄夏は、雷の呼吸を使えんと?」
「ううむ…………」

 そうだ、とも、そうではない、とも。医者は眉間に深い皺を刻んでいる。

「身体には……そうだな、足以外を見れば、一番適性があるのは雷の呼吸だろう。いや、足も……怪我さえなければ、だが」
「…………」
「足のことを考えるなら、水の呼吸が良いじゃろう。あの子は恐らく……壱ノ型を使えば、足が折れる」

 甘田はついに項垂れて、頭を抱えた。どうしたことだ。あれほど才に恵まれ、ひたむきに努力をし続けられる子が、どうして。

「自爆技というやつだな。速さを生み出す筋肉を、骨が支えきれんのだ。全集中・常中を身につければ、辛うじて弐ノ型以降は耐えられるだろうが、長期戦には向かん。…………皮肉なものだな」
「……ああ……」

 壱ノ型・霹靂一閃は、雷の呼吸における基礎にして最速の型だ。目にも留まらぬ居合斬りは、強い踏み込みがあってこそ。


 ──甘田は晄夏に伝えた。身体の為にも雷の呼吸ではなく、水の呼吸を学んではどうか。元柱の育手に心当たりがある。

「俺は雷の呼吸を極めます」

 しかし晄夏は即答した。

「足の事は上手くやります。思い切り走れば折れるというのは、昔言われました。でも俺には雷の呼吸が合っていると感じるし、何より……師範は甘田さんが良い」

 甘田は目頭が熱くなるのを感じていた。照れ臭そうにしている晄夏を、力いっぱい抱き締める。出会った頃より筋肉質になった身体は、晄夏の努力の結晶だ。

「良いのか!? 本当に良いのか!?」
「はい」
「儂がお前を、最も強い剣士にする!」
「必ず鳴柱になります」

 甘田は決意した。必ずこの子どもを、晄夏を──十二鬼月にも鬼舞辻無惨にも負けない剣士に育て上げてみせると。