限は十の色を持つ
最終選別に向かう条件として課せられた、全集中・常中の会得。寝ている時でさえ全集中の呼吸を行えるようになれと言われ、晄夏は(無茶だろ)と思いつつも、何とかそれを身につけた。
必ず帰って来いと送り出されて向かうは藤襲山。自分と同じように刀を持った多くの子ども達を見て、こんなにいるのかと驚いたものだ。それなのに、七日間生き残る──その条件を突破出来たのは、片手で数えられる程しかいなかった。
常中を身につけていた晄夏は、比較的余裕を持って最終選別を突破することが出来た。初めて目の当たりにする鬼を見て、自然と(ああ、こいつらが父さんの仇なのか)と確信した。
そうして帰ってきた時、道中の林で母が首を吊っているのを見つけた。
「あ、あああ、あああぁぁ……!!」
持っていた全ての荷物をその場に放り出し、母の下へ向かう。不自然なまでに首が伸び、身体は冷え切っていた。どうにかこうにか、焦りと動揺で指が何度も縺れたが、早く母を下ろしてやらないとという一心で縄を解いた。
「か、母さん……」
固く閉じられた瞼。痩せこけた頬。青白い肌。──ささくれの目立つ指。
父の死後、精神を病んでしまい廃人同然になってしまっていた母だったが、夕食の準備だけはいつも欠かす事なく行っていた。五人分の量を毎食毎食、自分はほとんど口を付けることがないのに。虚ろな目で、機械的に。
「母さん……、ッ母さん!!!」
母の亡骸を抱きかかえ、晄夏は号哭した。
父を亡くした時は、哀しみよりも責任感が勝っていた。自分が父の代わりにならなければならないと、涙を流す妹たちを受け止めていた。
母の事は任せろなどと、どの口が言っていたのだろう。自分は母の苦しみも哀しみも、何一つ理解できていなかった。支えているつもりで支えられてなどいなかった。自分の声はちっとも母に届いていなかった。届いていないのなら、想っていないのと同じじゃないのか。
──母を追い詰めて殺したのは。
晄夏の帰りはまだかと迎えに出てきた甘田が見つけるまで、晄夏は喪失感からその場を動けず、泣き続けていた。甘田に連れられてようやく家に帰った後も、ずっと眠る事もせず、母の冷たい手を握っていた。
母は数日前から行方不明となっていたと、晄夏は後から聞いた。
母さん、どうして。どうして首を吊ったりなんかしたんだ。生活が苦しかったのか? 俺、これからだったんだ。これからたくさん稼いで、母さん達を養うつもりだったんだ。これから、これからだったんだよ。
俺、母さんを支えるために努力してたんだ。鬼殺隊のことは言えなかったけど、でも、いつも想ってたよ。生きていて欲しいって。たとえ目が合わなくても、返事をしてくれなくなっても。きっといつか幸せにするんだって。
それじゃあ……駄目だったのかなあ。
(俺がもっと頑張っていたら)
そう思わずにはいられなかった。もっと早くに最終選別に行っていたら、ちゃんと自分で稼いでいるのだと告げられていたら、いや、いや、いや! それよりも!
(もっと、もっと、俺が速ければよかったんだ)
俺の足がもっと速くて、怪我なんてしていなければよかったんだ。そうすれば、もっと早く最終選別に行っていた。俺が遅かった。間に合わない。
父も母もいなくなってしまった。晄夏は、絶対に妹たちだけは失うまいと決意した。
「ごめんな。俺がもっとちゃんとしてればよかったんだ。そうしたら苦労をかけることもなかったのに。母さん…………。……ごめん、ごめんよ。もっとしっかりするから、妹は必ず……」