
持たざる者達へ贈る
・名状し難い神話的事件に巻き込まれた経験のある探索者主
・若返りトリップ
・ふんわり神話要素
また、何も持っていなかった。
目を開けるとそこは見知らぬ場所でした、という経験を、ナマエは少なくとも三回はしていた。それは電車の中であったり妙な匂いが充満したところであったりと様々で、服装まで変えられていた時もある。寝て起きたら、いや寝た覚えすらない内に見知らぬ場所にいる時は、往々にして己の所持していた物を失っていた。何かしらの悪意が働いているとしか思えない。
この場所で目覚める直前、何があったのかは思い出せないがナマエは虫の居所が悪かった。故に狭い場所に閉じ込められていると気づいた時には動揺のあまり蓋を蹴り飛ばしたし、喋る猫だか狸だかに関しては最大限の警戒をした上で逃げた。なにせ以前、人間の形をした人間でないものに騙されたことがあったので。
今回もナマエは妙な服装をさせられていた。真っ黒なローブだ。見知らぬ場所で妙ちきりんな格好をさせられているなんて、絶対に碌でもないことが起きるに決まっている。その当事者にされるのは真っ平御免だ。何をするかなんてのは分からないが。
その内に喋る狸はカラスみたいな格好をした男に捕らえられ、ついでにナマエも「新入生」だなどと言われて連れて行かれた。
「あの、僕は……」
「勝手なことをされては困ります! 全く、滞りなく式を終えるはずだったのに……。しかしこんな迷惑をかけられても新入生を迎えに来る私、ああ、なんて優しいんでしょう!」
演技がかった口調で大袈裟に言う男。ナマエは額にビキリと青筋を浮かべたが、フードと前髪で男からは気づかれなかった。ただ、元々虫の居所が悪かったナマエは目の前の男を必ず殺す決意をした。
そうして自身が着せられている物と同じ服を着ている人間らしきものが並ぶ部屋へと連れて来られ、部屋の中央にある鏡の前へ立たされる。鏡には人の顔──仮面のようなものが浮かび上がっており、流暢に話し始めた。『闇の鏡』だとか呼ばれていたそれが声を発した時、驚きのあまり肩をはねさせたが、この暗い部屋では気づかれていないと信じたい。
この闇の鏡はナマエの魂の形は分からず、魔力も無いと言った。そりゃそうだろ、とナマエは呆れて小さく鼻を鳴らしたが、カラス男はそうもいかない。この場所は何かしらの学校であり、そこの学園長らしいカラス男は前代未聞だなんだと喚いた。
そして喋る狸と乱入。青い炎を吐き散らして、最終的にハートを模した首輪を付けられた。どこからともなく現れる首輪に、当然のように使われる魔法。ナマエは(あの映画みてぇ……)などと考えていた。
学園長は闇の鏡が元いた場所へ帰してくれると言うが、対して闇の鏡はナマエが帰る場所はないと言い出した。そうすんなり帰れたら俺は苦労していない。ナマエはイライラしながらそう思った。大体何かしらの面倒な条件をクリアしなければ帰れないのだ。ナマエを巻き込みやがる謎の存在は本当に趣味も性格も見た目も悪い。
結局、自称優しい学園長が雑用係としてナマエを学園内のオンボロ寮に住まわせることを決めた。ナマエの元いた場所は異世界か別の惑星かもしれないと推測した故の措置だ。
話を聞く限り、俺がこの場所にいるのは学園長……ひいては学園の落ち度ですよね? 俺の世界で魔法を使う人間はいませんし、魔力が無いのも当然でしょう。にも関わらず俺がこの場にいるというのは、拉致以外の何物でもないのでは? 言うなれば俺は被害者ですね。名門らしいこの学園は拉致被害者を廃墟に押し込めると知れたら──。
そんな風に脅──もとい、訴えかけたかったが、学園長は頭も口もよく回るタイプだろうと、この短時間でナマエは察していた。クソほど気に食わない、嫌いなタイプである。人はそれを同族嫌悪と言った。
ナマエは詐欺師である。それなりの額の金を騙し取って他人の不幸を肴に飲むワインは美味いと、心の底から言える人間であった。警察に尻尾を掴まれるような間抜けな真似を起こすこともなく、他人の失意と涙と憎悪で彩られた道をスキップで進む人生を送ってきた。端的に言うとクソ野郎である。
そんなクソ野郎は慎重であった。慎重だからこそ詐欺事件の捜査線上に名前は一切出なかった。故に、学園長にも強く出られなかった。脅──もとい、交渉するにも材料が足りないからである。
まずこの世界のことを知り、帰る方法を模索しなければならない。とりあえずはここに住む人間は言葉が通じる、そして思考回路もまあ致命的にズレてはいない、名状し難い存在は鳴りを潜めている──ように思える。
あの訳の分からない存在に勝つなど、土台無理な話である。見つかる前に逃げるのが正解なのだ。
そうしてオンボロ寮の掃除を始めた時にようやく、ナマエは自分が若返っていることに気がついた。二十代後半から十代後半にメタモルフォーゼ、道理で視線も低けりゃ身体も軽い訳だと納得した。
オイこれ元の世界に戻る時、年齢も戻るよな?
余計なことを考えてしまったナマエの正気度が試される。
で、なんやかんやと喋る狸・グリムと共に二人で一つみたいな扱いで生徒認定されたナマエは、オーバーブロットなる現象を起こした子どもを冷めた目で見ていた。
ナイトレイブンカレッジにある寮の一つであるハーツラビュル寮の寮長であるリドル・ローズハート。彼の幼馴染みだというトレイ・クローバーから何故か彼の過去を聞かされ、何故かこうしてオーバーブロットする瞬間に付き合わされている。
リドルのメンタルがどうとか母親がどうとか圧政がどうとか、ナマエは心底興味が無かった。本当にどうでもよかった。オーバーブロットを引き起こして死に至るかもしれないと聞いても「だから何」としか思わなかった。
「監督生、下がってろ!」
そう言うのはデュース・スペード、食堂のシャンデリアをぶっ壊してナマエに、『自分に迷惑をかけるクソガキ』と認識されている元ヤンである。この世界で育った奴と適当に仲良くして情報収集しとくかという打算まみれのナマエに気づくことなくその身を案じてくれる、優等生を目指す元ヤンである。
このオーバーブロット止めると、リドルが反省してみんなで「よかったね〜」って言い合う流れなんだろうな、夢の国提供だし。
ナマエはそう思った。まあ、なかなかに被害が大きいし、デュース達もリドルを止められているかと言われればそうでもないのだが。トレイ固有の魔法で妨害をしていると言えど、それも長くは持たないと言っていた。
何も持っていない。そう思っていたナマエだが、実は一つだけあった。それはオンボロ寮に置かれていた埃まみれのテーブルの上に何気なく置かれていて、背筋が冷えたものだ。自分が持ってきたのではなく、着いて来たと表現した方が適切だと思ったからだ。
一見何の変哲もないリップクリーム。無色かつ無香料。だがその実恐ろしい怪物を呼び出す為の装置である。これはいつか見知らぬ場所から生還した際に、ポケットに入れられていた物だ。何となく使い方は察して、試してはいない。
ナマエはふと思った。今が使い時なのでは、と。暴走したリドルを止める為だという大義名分がある。こちらとて必死なのだ、仕方がないだろう。
リップクリームを薄く唇へ塗る。ナマエが呼び出そうとしている怪物は、まさかナマエの存在を考慮するはずもないが、襲われない自信がナマエにはあった。
ナマエは類稀な強運の持ち主だ。最近は怪奇に巻き込まれることもあるが、そんな場所でも強運はしっかりと作用する。飛んできた物が偶然当たらないとか、何となく視線をやった先で良い物を見つけるとか。ずる賢さに全振りした頭脳があるからこそ詐欺を生業としているものの、やはり強運あってこその稼ぎと安全だ。
他人がどれだけツイているかなど知ったことではない。ただこの騒動を止める為の手段として、魔力を持たない非力な人間が縋った最後の望みとして、ナマエは忌むべき神話生物をこの場に召喚する。
──逃げ惑うハーツラビュル寮生の一人の手首を掴み、そのまま口付ける。後は目を閉じたまま、酷い悪臭が消え去るのを待てばいいだけだった。
『後書き』
キング・オブ・クソ。こんなの夢主にしていいんですか?
元は初心者さんを導くNPCとして作ったキャラですが、技能が優秀なのでPCとしても何回か使ってるキャラです。詐欺師むーう゛はRP上はちょっと……私優しいので。
「おすすめどうぞ、めしあがれ」という素晴らしいシナリオで登場するAFがリップクリームです。生還報酬。端的に言うとワンワンを呼び出せるやつです。つよい、すき。ツイステで神話生物を召喚したら面白そうという安易な発想により、名もなきハーツラビュル寮生が犠牲になりました。運が良ければ死にません。
「おすすめどうぞ、めしあがれ」はとっても面白いシナリオなので、是非遊んで欲しいです!
問題があればこの小説は消します。
オマケの探索者設定↓
STR11 CON9 POW18 DEX11 APP16 SIZ16
INT16 EDU15
メンタルお化け。多分人の心が無い。
今は余計なことを知りすぎた為、SAN値は90を切っている。
学園長、ジェイド、ジャミル辺りは合わない。同族嫌悪。
魔力はないけど神話生物は呼び出せるし、根っからのヴィランなので闇の鏡はあながち間違ってもない、のかもしれない。
特技は言いくるめ。あと目が良い。