人でなしに告ぐ

持たざる者達へ贈る の続き
・続きというか人間関係グリム編
・グリムに当たりが強いし、ちょっと夢主の人間性がアレ
・神話生物は出てこない



 オンボロ寮の監督生は随分と自分に対して当たりが強いのだと、グリムは不満に思っていた。二人で一人分なのだと学園長に言われている癖に、ツナ缶をやるから必要最低限俺に近づくなあと触るな喋るな視界に入るなと、言いたい放題だ。一体なにが気に食わないというのだろう。ツナ缶がもらえているならいいか、と知能の低い獣ならそう思ったかもしれない。けれどもグリムは将来大魔法士になる凄い生物であったため、直接本人へ聞くことにした。子分の面倒を見てやるのは親分の役目だからである。グリムは子分への気遣いを忘れない優れた親分なのだ。

 ナマエがオンボロ寮へ帰ってきたタイミングを見計らって声をかければ、ナマエは心の底から嫌そうな顔をした。授業が終われば先に寮へ戻れと言い、夜遅くまで図書室で勉強をし、グリムが眠る頃に帰ってくる。だが今日のグリムは眠っていなかった。まあ確かに眠くないといえば嘘になるが、夜更かしの分は明日の魔法史で寝ればいいと考えていた。

「お前はどうして俺様のこと、そんなに避けるんだゾ?」

 グリムがナイトレイブンカレッジに忍び込んで初めて出会った人間。二人ぼっちのオンボロ寮生。──グリムはちょっぴり寂しかったのだ。日頃「俺様はすごいんだゾ!」と声高に言っていたとしても、ナマエから好意的な言葉をもらったことがなかったとしても、何となく同じ立場であるという同族意識はあるのだ。それにナマエは決して寮内ではグリムに近づかなくとも、手酷く扱ったり、追い出したりはしなかった。

「……中途半端な知能があるやつはこれだから」

 ナマエは吐き捨てるように言い、寮の自室へ足を向けたが、グリムはそれを阻んだ。まだ自分の質問に答えてもらっていない。答えるんだゾ! と若干半泣きになりながら訴えると、ナマエは片手を制服のポケットに入れたまま、長い溜息をついた。

「火が……」

 そう呟いたナマエの声は半泣きのグリムよりも泣いているようだった。
 話を聞くところによれば、ナマエは幼い頃火事に巻き込まれたらしい。どこにも逃げ場のない恐怖を味わい、運よく助かったものの、大切な兄弟を失ってしまったのだという。グリムは自分に兄弟がいたという記憶を持ってはいないが、ナマエが信じられないほど悲しそうに話すので、何だかグリムの方が泣けてきてしまった。グリムは俺様がいるんだゾ! とナマエを元気づけた。本当は飛びついてやりたかったが、それをしないのは自分の耳にもナマエが恐れる炎があると自覚していたからだ。

 校舎にいる間のナマエはグリムを遠ざけたりしない。グリムはそれを弱みを握らせたくないからだと考えた。魔法が使えないからとか、人間に近い形をしていない狸だからとか、そんな理由で難癖をつけてくる奴がナイトレイブンカレッジにはたくさんいる。それらに自分がどうしても恐れるものを知られたくないと思うのは当然のことだろう。
 だから昼間は必死に我慢している。グリムはついに「ふなぁ……」と情けない声で耳を伏せた。

「子分を守ってやるのも、俺様の役目なんだゾ。怖いもののこと誰にも言わないし、学校でも……もうちょっとだけ離れててやる。でも、今日みたいに話してくれなきゃお前のことわかんないんだゾ……」
「ああ、まあ、時間があったらな」


 うわ、めんどくさこの狸。
 中途半端に知能のあるやつはこれだから。先ほど口に出した言葉をそっくりそのまま感想として抱く。

 残念なことにナマエは全くもって善人ではなかった。なのでグリムが悲しそうな顔をしていても鬱陶しいとしか思わなかったし、勝手に想像を膨らまして同情していることに関してはチョロいとしか思っていなかった。グリムは人ではなかったが、人を騙すことに長けていたナマエが適当に言いくるめられる程度の知能はあったので、ものの見事に騙されてくれた。罪悪感の一切を感じることなく、ナマエは思う。

 一体どうして人間の形をしていない、人間の言葉を話す生物を傍に置けると言うのか。

 正気ではないとナマエは心の底からそう思う。そもそも自分が生きてきた世界ですらほとんどの人間は信用に値しないというのに、ましてや某夢の国提供とは言えども異世界で他人を信用するなどできるはずもない。自分が信用に値しない人間だと自覚しているだけに、ナマエは警戒心が強かった。神話生物の気まぐれに巻き込まれた経験が、その警戒心をより強固なものとしていたし、そうでなくともナマエはグリムを傍には置きたがらなかっただろう。
 他人には信用させ、自分は信用しない。それが人間関係における最適解である。故に学園内では他人が好むような人間性を演じた。伊達に詐欺で生計を立ててはいないのである。まあそれでも突っかかってくる奴は突っかかってくるので、その為の盾がグリムであった。追い出したり、暴力を振るわないのはグリムに反逆されてはたまったものではないからだ。

 自分にとって未知の物でしかない魔法を、当たり前のものとして扱う人間がそこかしこにいる。そして理不尽にも悪意をこちらへ向けてくる。これといった武器も持たない現状では、グリムこそがナマエの武器であった。そうするしかないのだ。奥の手というのはそう易々と見せていいものではないし、できれば使いたくもない。
 抵抗できる術があるならグリムなんぞ放り出していた。喋る人間ではないものに関しての印象がマイナスを貫いているからである。これは神話生物のせいなので、グリムはとばっちりを受けているにすぎない。仮にグリムがヒト型であれば、ナマエは猫を被って丁寧に接したことだろう。

 火が怖いとか火事にあったことがあるとか、全部嘘である。いっそ清々しいほどに真実が一つもなかった。強いて言えばグリムに近づきたくないという一点のみ真実である。

(コイツが馬鹿で、真実を見抜く魔法とか使えなくてよかった)

 ナマエは冷めた目でグリムを見下ろして、そう思った。
 他人に心を覗かれるとか、本心を晒されるとか、もう考えるだに悍ましい。他人なぞ黙って搾取されて生きていけ。

 ナマエは恐る恐るといった様子を醸し出してグリムに手を差し出した。指先にグリムの肉球が触れる。グリムは涙目で「熱くないし、そんなことしないんだゾ!」と言った。ナマエは儚げに微笑んで礼を述べながら、きっしょ、寒いわとグリムの良心を真正面から踏み潰すようなことを思う。

(真実を見抜く魔法とかコイツが使おうとしたら、まあ……アレの出番だな)

 阿鼻叫喚の地獄絵図でナイトレイブンカレッジが彩られようと、自分に被害が及ばなければいい。ナマエは間違いなくグリムよりもヴィランの素養もとい人でなしの素養があった。




『後書き』
グリムすまない。嫌いじゃないよ。三章のことは根に持ってるけど!
本当は人間関係ハーツラビュル編でキャラから見た夢主とか書こうとしたけど、思いの外長くなったのでグリムだけ。書きながらグリムに優しくしてあげようと思いました。でも三章でアズールと契約しないという選択肢を選べなかったのは遺憾である。