いつまでも碧くあれと

友情出演があります。


 ゴールデンウィーク明けの5月6日。
 キメツ学園高等部一年・筍組所属の竈門炭治郎は、友人である我妻善逸と嘴平伊之助にある相談をした。

「10日が煉獄先生の誕生日らしいんだ。クラスの皆でお祝いをしようって話になっているんだけど、何をしたら喜んでくれるだろうか……」

 歴史教師・煉獄杏寿郎。キメツ学園屈指の熱血漢であり、生徒から最も慕われていると言ってもいい程の人気を誇る教師である。彼の人気ぶりと教育及び生徒に対する真摯さは、キメツ学園に歴史の成績が悪い者がいないことからも窺える。
 例に漏れず、炭治郎も煉獄を慕っていた。普段お世話になっている先生に、誕生日を記念して何かお返しをしようとクラスメイトに提案したのは彼である。筍組の全員が乗り気であった。

「何したらって……あの先生なら何しても喜んでくれんじゃないの?」
「確かにそうかもしれないけど、それでも好きなものをプレゼントしたりしたいじゃないか」

 煉獄は非常に生徒想いの教師だ。というか、それ以前にシンプルに人間として出来ている。自身が受け持つ生徒が自分を想ってしてくれることであれば、いつもの様に快活な笑みで「ありがとう!」と喜んでくれるであろうというのは、想像に難くない。
 善逸の言葉に返事をしながら、腕を組んで頭を悩ませる炭治郎。生徒が用意できるもの且つ、煉獄が心から喜んでくれるものとは一体何だろうか。物を贈るにしても、そう高い物は用意できないけれど。

「あのギョロギョロ目ん玉なら、前に焼き芋作って食ってたぜ」
「ああ! そういえばさつまいもが好きだと聞いたことがある!」
「へっ、俺様の鼻は誤魔化せねぇ! 見つけ出して食ってやったぜ!」
「分けてもらったんだな。……学校で焼き芋すんなよ」

 呆れた様に溜息をつく善逸。彼は風紀委員として生徒の身なりや素行を取り締まる立場にあるが、教師があまりにも自由過ぎるから生徒も言うことを聞いてくれないのだと、不満を募らせている。風紀委員は損な役回りだ。朝からかわいい先輩・同級生・後輩の女の子を見られる点はいいとしても、髪の色だとか制服の着方を注意すれば、委員会の仕事を全うしているだけの善逸が恨みを買う。そして仕事を疎かにすれば、教育指導の冨岡先生に竹刀もしくは拳で殴られる。
 あの先生は一体俺に何の恨みがあるんだ。善逸は確かに黄色い頭をしているが、これは地毛であると再三言っているのにいつまで経っても聞いてくれない。黒染めしてこいと殴られる。トンチキな髪色をした教育実習生や、それこそ話題に挙がっている煉獄は何も言われないのに……。煉獄は教師だからまだともかく、教育実習生は取り締まれよ大学デビューだろどうせ。

 連鎖的に思い起こされる恨み辛みに善逸が歯軋りをしていると、炭治郎がおずおずと「ど、どうしたんだ……?」と声をかけてくる。伊之助が「キメェ」と呟いたのを、善逸の優秀な聴力は聞き逃さなかった。

「何でもねぇよ」
「善逸も焼き芋を食べたかったのか? 美味しいもんなぁ」
「いや別に。そんなことより、煉獄先生の誕生日祝いをどうするかだろ?」
「ギョロ目の近くにいる奴に聞きゃいいだろ」
「確かに!」

 伊之助の発案に、炭治郎は名案だとばかりに手を打つ。

「前に善逸がそうしたみたいに、先生方に話を聞いてみよう!」
「俺は賭けるぜ!! どうせ碌な結果にならない方にな!!」





 昼休み、炭治郎たち一行は煉獄が好きなもの・欲しいものの情報を集める為に、学校を巡っていた。
 煉獄の誕生日を祝うのはサプライズ、つまり煉獄本人に情報収集の事がバレてはいけない。そんな訳で、煉獄がいるであろう職員室を避けてはじめに向かったのは進路相談室だ。扉を開けると、ふわりと甘く優しい花の香りが通り抜けていく。

「失礼します、新鎧先生! あっ、胡蝶先生も!」
「あら、竈門君。それに我妻君と嘴平君も」
「いらっしゃい、何か相談事か?」

 教室に置かれた長机の上に弁当を広げて、仲睦まじく談笑していた様子の二人。進路相談室の主である英語教師・新鎧晄夏と、生物教師の胡蝶カナエだ。
 弁当箱を包むための風呂敷は同じ柄の色違い、そして左薬指にはきらりと光る指輪。そう、二人は新婚さんであった。

「実は10日の煉獄先生の誕生日に、先生が喜ぶこととか好きなものをプレゼントしたくって……何が好きか知ってますか?」
「煉獄先生の好きなものかぁ、あんまり好き嫌いなさそうなタイプだよな」
「そうねぇ……誕生日の贈り物なら、お手紙とかいいんじゃないかしら?」
「ああ、確かに。形に遺る物はいいと思うよ。時間が経っても、その時の気持ちを思い出せるから」

 そう言って微笑む二人に、善逸は炭治郎に着いて来たことを後悔するレベルで嫉妬の炎を燃やしていた。当然相手は新鎧である。
 新鎧の趣味で色とりどりの花に囲まれた部屋に、キメツ学園でえげつない人気を誇る胡蝶と二人きり。それだけにとどまらず、恐らくは胡蝶の手作りと思われる弁当を食べている。羨ましいことこの上なかった。どうやったらそんな美女と結婚までこぎつけるのか、煉獄の誕生祝いよりもそっちの方が聞きたかった善逸である。唇を噛み締めすぎて、終ぞ口にすることはなかったが。

「そういえば、前に相撲中継を真剣な顔で観ていたっけ。好きなんじゃないかな?」
「手紙、相撲……ありがとうございます!」
「どういたしまして」

 礼をしようとした炭治郎の首根っこを、伊之助が突然乱雑に掴んで引っ張る。新鎧と胡蝶は目を丸くし、善逸はぎょっと目を剥いた。

「この部屋、なんか……ほわほわしてムズムズする! いくぞ三太郎! 次だ、次!!」
「ぐぇっ、ちょ、伊之助……! 首、首……!」

 そのまま伊之助に引き摺られ、進路相談室を後にする一行。しばらく廊下を歩いたところで解放された炭治郎は、息を整えながら廊下の先にいた数学教師の不死川実弥に声をかけた。すかさず善逸は伊之助の後ろに隠れ、肩に置いた手を鬱陶しいと言わんばかりに振りほどかれた。

「なんだァ?」
「煉獄先生の好きなものとか欲しいものってご存知ですか?」
「煉獄の? ……食いモンなら何でも喜ぶんじゃねェか?」
「分かりました! ありがとうございます!」

 キレていることは多いが、常にキレている訳ではない不死川である。炭治郎の質問の意図を察し、無難な答えを返す。

「こういうのは……、……いねェ」

 だがさすがに淡泊過ぎたか、と思った不死川が一度外した視線をもう一度炭治郎に戻せば、既にそこに人影はなかった。廊下を走るんじゃねェと注意したいところだが、注意するべき相手が姿を消しているとなると何も言えない。ただ、額には青筋をきっちりくっきり浮かべながら、不死川は廊下に舌打ちを響かせた。

 炭治郎と伊之助を瞬く間に連れ去ったのは善逸だ。善逸は顔といい態度といい、何かと恐ろしい不死川を恐れていたので、話が終わったと判断するやいなや二人を連れて走り去ったのだ。道中、教室から顔を出した煉獄に「廊下を走ってはいけないぞ!」と注意されながら、美術室がある階に辿り着いていた。

「逃げることないだろ、善逸!」
「バッカ! あんなキレッキレのおっさんと授業以外で同じ空間にいたくないんだよ、俺は!」
「うははは! おい! もっぺん俺のこと引っ張って走れ!」
「もうやんねーよ!!」

 そんな言い合いをしながら、三人は美術教師・宇髄天元にも話を聞こうと美術室の扉を開ける。壁が爆破されたおかげで随分と開放感のある美術室では、宇髄が何やら難しい顔をして机に向かっていた。

「ん? なんだなんだ? 今、忙しいんだよ後にしてくれ」
「何してるんですか?」
「創作活動に必要な材料をどう持ち込むかってな……」

 美術室を爆破して以降、宇髄は学校にダイナマイトを持ち込んでやしないかと、定期的に持ち物検査を受けさせられていた。他の教師陣による監視の目はなかなかに厳しく、旧知の仲である新鎧からは「他人に危害を与える様な芸術を尊ぶな、出せ」と言われ、懐に忍ばせたダイナマイトを没収されたことがある。いつも穏やかな人間ほど、怒った時に背筋が冷えるものだと宇髄は実感した。閑話休題。
 だが教師でもあり芸術家でもある宇髄は、爆破による創作活動を諦めていなかった。ダイナマイトの持ち込みができないのなら、材料を別々に持ち込んで爆弾を作ってしまえばいいという結論に至ったのだ。必要な材料と調合表諸々……真剣な顔で机に向かっているのはそういう訳である。

 そんな宇髄の野望は露知らず、忙しいのなら今はやめておこうかと残念そうな顔で、炭治郎は「煉獄先生の事で話があったんですけど……」と呟く。

「何で俺に煉獄のこと聞きに来るんだよ?」

 片眉を上げ、不思議そうに問う宇髄。炭治郎は他の教師陣にもそう聞いた様に、誕生日について話す。

「プレゼントねぇ。生徒が教師にあげるモンだろ? ハンカチとかネクタイでいいんじゃねぇか? 実用的だし」
「実用的な物はいいですね! 忙しいのにありがとうございます!」
「おう、つーか……」
「あ、炭治郎。今なら煉獄先生、職員室にいないんじゃ?」
「そうだな。じゃあ、宇髄先生! 失礼しました!」

 絵筆で遊んでいる伊之助を善逸が連れ、三人は美術室を出て行く。

 そして職員室へ向かうと、狙い通り煉獄の姿はそこにはなく、炭治郎は担任である悲鳴嶼行冥の下へ向かう。近くの机で冨岡がもそもそとパンを頬張っていた。

「竈門か、どうした?」
「煉獄先生の誕生日をお祝いしたいってクラスのみんなと話していて。それで、煉獄先生の好きなものは何か、先生方にこっそり聞いて回っているんです!」
「ああ……師を敬う心の、なんと素晴らしきことか……」

 数珠を付けた手をすり合わせ、静かに涙を流す悲鳴嶼。善逸は炭治郎の言った「こっそり」という言葉に首を傾げた。誰にも口止めらしい口止めをしていないけど、こっそりって言うのか? と。確かに煉獄本人はきちんと避けているけれども。

「誕生日を祝うのであれば、何を贈るかよりもどれほどの気持ちを込めるかの方が大切だろう……。入浴剤などの消耗品はいいかもしれないな」
「気持ち……そうですね! ありがとうございます!」

 炭治郎は悲鳴嶼の次に昼食中の冨岡にも話を聞こうとしたが、以前「食べながら喋れない」と言っていたことを思い出し、邪魔をするのは悪いから今はやめておこうと職員室を出ようとする。あと話を聞くとしたら化学教師の伊黒辺りだろうかと、善逸や伊之助と相談していると、ちょうど職員室に伊黒が姿を現した。

「伊黒先生! 少し聞きたい事があるんですけど、いいですか?」
「内容による」
「煉獄先生の誕生日の事で……」

 かくかくしかじか。他の教師陣にもそうした様に伊黒に説明する炭治郎。他の教師らと同じように何か案を出してくれると思いきや、しかして伊黒は腕を組みながら長い袖に隠れた人差し指を炭治郎に突き付けた。

「何故煉獄の事を俺や他の奴らに聞いて回る? 意味が分からん、全く持って時間の無駄だ。というか、道中誰からも指摘されなかったのか? それともお前達三人が誰一人として教師の話を聞かなかったのか?」
「どういうことですか?」
「煉獄について一番詳しい燎に何故いの一番に聞かないのかと言っている」

 伊黒の言葉に三人が抱いたのは「そうなの?」という感想であった。

 燎晋之丞。善逸曰く「トンチキな髪色」の教育実習生である。指導教諭が煉獄である為、確かに一緒に過ごす時間は多いだろうし、よく話しているところも見かけるけれど、伊黒が言うほど煉獄に詳しい相手なのかと炭治郎たちは驚いた。
 伊黒はネチネチと「最初から燎に聞けばいいものを」だとか「そうすれば勉強する時間が」だとか言いながら席に着く。最後の一口を飲み込んだ冨岡が、小さい声で「……燎なら資料室にいるだろう」と呟いた。

「失礼しました! 行こう、善逸、伊之助!」

 そうと決まれば善は急げだ。三人はいそいそと職員室を出て、資料室へ向かう。

 炭治郎が「失礼します!」という元気のいい挨拶と共に扉を開くと、ファイルを何冊か抱えた燎が驚いたように目を瞬かせた。

「燎先生に質問があって来ました!」
「……竈門、だったか。何だ?」
「煉獄先生って誕生日に何をプレゼントしたら喜んでくれますか?」

 炭治郎がそう聞くと、燎はぎゅっと眉根を寄せる。

「何で俺に聞くんだ」
「伊黒先生が煉獄先生のこと一番詳しいのは燎先生だって」
「…………はぁ」

 重い溜息を吐き、抱えていたファイルを傍らへ置いた燎は、「ひとつ言っておくが」と前置きをする。

「俺は別に杏……煉獄先生の事をなんでも知ってる訳じゃないし、何なら弟の千寿郎、君に聞いた方が間違いないからな」
「? そうなんですか?」
「そうだ。単に家同士の仲が良くて、小さい頃から顔を合わせてたってだけで……。いや、その話はどうでもいい。誕生日プレゼントで悩んでるんだったな」

 燎は腕を組み、片手を顎に添えながら少し考える。

「いきなり団子とか、好きだけどな。当日になれば食いモンなんて山ほどもらうだろうけど……ああ、ペンケースとか贈ってやれよ。いま使ってるやつ、チャックが壊れかけてるみたいだし」
「煉獄先生のことよく見てるんですね!」
「………………まぁ、俺の指導教諭だからな」
「参考になりました! ありがとうございます、燎先生!」
「……ん。盛大に祝ってやれよ、10日」
「はい!」





 ──5月10日。

 その日、煉獄が筍組の教室に入ると、軽快なクラッカーの音と紙吹雪が彼を出迎えた。黒板には『煉獄先生お誕生日おめでとうございます!』と、色鮮やかに書かれている。それに倣う様に生徒達は声を揃え、煉獄の誕生日を祝福した。

「驚いたな! みんな、ありがとう!!」

 普段から大きく開いている目をさらに少しだけ大きくさせていた煉獄は、黒板をしげしげと眺め、それから生徒達に振り返っていつもの様にハキハキと大きな声で礼を言う。煉獄が教室に入った時から起こっていた拍手が落ち着くと、学級委員長を務める女子生徒が筍組代表として前に出て、煉獄に綺麗に包装された小包を差し出した。

「これ、クラスのみんなで選んだプレゼントです!」
「ありがとう! 早速開けてもいいだろうか?」
「大丈夫です!」
「開けてください!」
「煉獄先生おめでとー!」

 廊下まで響く「お誕生日おめでとう」コールを聞きながら、燎は生徒達のお祝いを邪魔しない様にと教室後方の扉からこっそりと中に入る。燎がやって来たことに気づいた炭治郎が後ろを振り向き、燎に向かってにっこりと笑いかけた。

 つるりとした包装紙を破らないよう慎重に剥がし、やはり『煉獄先生お誕生日おめでとう』と書かれている箱を開ける。一番最初に目に飛び込んできたのは筍組全員分の便箋だ。煉獄は「手紙まであるのか!」と両手で便箋の束を持ち上げ、そっと箱の外に置く。
 便箋の下から現れたのは、目が覚めるようなオレンジ色をしたシンプルなデザインのペンケースだった。口を開く為のチャック部分に、何故か力士のストラップが付いている。合っているような、いないような。そんな不思議なデザインのそれに煉獄はふっと笑いを零すと、改めて生徒達に「ありがとう!」と礼を告げた。

「ちょうど筆入れを買い替えようと思っていたところなんだ。俺の事を想ってプレゼントを用意してくれたこと、嬉しく思う!」

 嬉しそうな様子の煉獄に、誕生日祝いは大成功だと喜ぶ生徒達。炭治郎は「先生!」と右手を高く挙げる。

「ペンケースがいいんじゃないかって教えてくれたのは燎先生なんです!」

 口止めしときゃよかった……! 炭治郎の素直過ぎる性格を把握し切れていなかった燎は、思わず片手で額を押さえた。別に隠すことでもないけれど、わざわざ知って欲しいことでもなかった。どちらかと言えば、前者の気持ちの方が大きい。

「そうなのか? ありがとう、燎先生」

 いつもより何割かきらめきの増している目を向けられ、気恥ずかしくなった燎は返事の代わりに会釈をする。

「手紙は家に帰ってゆっくり読ませてもらおう! では授業を始めるぞ!」

 教科書の32ページを……という煉獄の声と共に、普段と変わらない日常が舞い戻る。ただ今日という日の特別さを、華やかな黒板と教卓に置かれた小さな箱が象徴していた。





 その日の授業が全て終わり、教師陣より一足早く帰り支度を整えた燎は、生徒や同僚たちからのプレゼントを職員室の自分の席で整理している煉獄に声をかける。

「煉、あー……杏寿郎」
「む。どうした?」
「よかったな、プレゼント。そんなにたくさん」
「ああ! 俺の好物を贈ってくれる人が多かった、ありがたい!」

 普段から食事の時には「うまい!」と大きな声で感想を言う煉獄だが、さつまいもを食べた時だけは違う。何故かなんてのは燎にも分からないが、恐らくはテンションが上がり過ぎて「わっしょい!」と言う。煉獄のさつまいも好きはほぼほぼ周知の事実であった。
 今日贈られた誕生日祝いも、芋羊羹やいきなり団子、鬼饅頭など、やはりさつまいもが原料のお菓子が多いようである。煉獄の人望が伺える贈り物の量に、賞味期限までに食べきれないのでは、という心配は一切なかった。煉獄は大食漢だ。それに家族四人で分ければすぐになくなってしまうだろう。

 燎は意を決し、朝から渡すタイミングを見失っていたプレゼントを取り出した。長方形のそれを煉獄に差し出す。

「杏寿郎。誕生日おめでとう」
「ありがとう、晋之丞」
「……じゃっ、お先に失礼します」

 言うが早いか、燎は煉獄がプレゼントを受け取ったのを確認すると足早に職員室から出て行く。

 毎年のことながら、あれだけ大勢の人間に祝われておいて、自分からのプレゼントも心から喜んでくれるのが照れ臭かった。心臓の辺りがむず痒いような、重力が軽くなって足下がふわふわするような。
 玄関口で靴を履き替えた燎は、周りに誰もいないことを確認して長く息をつく。

(……喜んでくれてよかった)

 一方その頃、職員室の煉獄は燎から受け取ったプレゼントを開封していた。
 長方形の比較的小さな箱。中に入っていたのは落ち着いた赤色を基調とした万年筆だ。松の意匠と共に煉獄のイニシャルが彫られている。蛍光灯の光を鋭く返すペン先、軽く持っただけでも良い品であるということが分かった。

 燎が自分を想って選んでくれた品というだけで、煉獄の中でその万年筆が値段では替えられない価値になる。口元を緩め、シャツの胸ポケットに差し込んだ。

 家に帰れば、母と弟が腕によりをかけて料理を作っていることだろう。
 今日は特に良い日だ、と煉獄は思った。

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