涙が出なかったのは、なんとなく分かっていたからかもしれない。



◇ ◇ ◇



あたりはすっかりオレンジだ。沈みかけの太陽はきっと綺麗なんだろう。
見る気は起こらなかった。

……今日、振られた。
彼から久しぶりのデートのお誘い。ものすごく楽しみにして、昼過ぎの約束なのに朝早くから起きちゃってガキか、なんて思ったっけ。
待ち合わせの喫茶店で私は私より先に来ていた彼を見つけ、駆け寄った。
席についた私に彼は一言。

「別れて」

私はどうして、とやっと呟くことができた。
重いんだ、と彼。
ああ、またかと納得してしまった。
それは過去にも何度か言われた言葉。

重い。私は重いらしい。物理的な意味じゃない。
体重が、だったならどんなにいいだろう。
体型は変えられても性質はなかなか変えられない。
彼らには私の想いがしんどかったのだ。



◇ ◇ ◇



きっと酷い顔をしているんだろう私は下を向いてとぼとぼと歩く。すれ違う人の靴と人影だけが見える。
そして何故か、一対の靴とひとつの影が行く手を阻むように私の前で止まった。
驚いた私が顔をあげると同時にその靴と影の持ち主が私に話しかけた。

「どうして泣きそうなの?」




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