日曜日に埋められた
ソロモン・グランディ
それは私の忘れられない人のことでした。
◇ ◇ ◇
翌日は嬉しいことに休みで、幾分か落ち着いた私は部屋の掃除をした。
洗濯物を干して、ちゃんと食事を摂って。
彼の物は、近所のコンビニで貰ってきた段ボールに綺麗に入れて、布団もシーツやカバーを取ってそこに入れた。
ゆっくりと噛みしめた朝食の片付けをして、彼の匂いを消そうと換気をし、ファブリーズを撒く。
ふぅ、とため息をついて、こたつにもぐろうとすると家のチャイムがなった。
しかも玄関に向かう途中でドンドンドン、ドンドンドンと扉を叩かれて、恐る恐るを覗くと、先日の忍足と呼ばれた彼と周りにいた人たちがいた。
無視をしようにも、止まらないノックに意を決して扉を、開けた。
◇ ◇ ◇
何ですか、と問おうにも後ろにいた人物を見て動きが止まる。
ケ、イ、だ。
「お前、何やねん」
そんな私を青髪の彼は問い詰めるように顔を近付けてきた。
「何、って言われても…」
「俺らは跡部のかすかな記憶を辿って来たんや。けどこいつは他はあんたのこと何も覚えてへんし……
なぁ、跡部に何してくれたん」
「何したって…!
彼が私の家の前に倒れてたから介抱しただけで…っ」
「はっようそんなこといえるなぁ
まぁ自分が1人で跡部をどうこうできるとは思てへんけど、どうせ怪我でもさせて介抱して恩着せようとしたんやろ。」
「ちっが…っ」
思いもよらないことを言われて否定するも目の前には冷たい目。
後ろの人たちも同じような目をしていた。
じゃあケイは?
恐る恐る彼を見ると、私ではなく片付けかけていたケイの荷物を見ていた。
「い、や…忍足、違う……何か、何か思い出しそうだ」
そういって彼は私を押しのけて部屋に入っていった。
◇ ◇ ◇
ケイは、私がまとめかけている彼の荷物が入った段ボールに手をかけてうなだれている。
どうした、という彼の友人をも無視してそれを続けた彼は徐に、立ち上がってこっちを向いて。
その顔はすっきりしたような、だけど苦しそうな。
「悪いが、忍足。ちょっと出ていってくれ」
「は?お前何言って――」
「頼む」
「…分かったわ」
そう言って彼らは出て行った。
部屋には彼と、私。
「…名前悪かった」
「どうして……覚えてるの?」
◇ ◇ ◇
「これだ」
そう彼が指したのは段ボール。
「名前と俺との思い出みたいなもんだろ?この部屋だってそうだ。全部思い出した。
俺は、お前が、好きだ」
ケイはふ、といつか私が見惚れた笑いを見せた。
視界が、ぼやける。
「遅い、よ…っ」
「みたいだな」
「え?」
素直に喜ぼうとしたら何故かそう返される。
訳が分からない私を余所に彼は話し始めた。
◇ ◇ ◇
「まとめてるってことは捨てるつもりだったんだろ?
そうだよな、名前を見てじゃなくこれを見て思い出した時点で俺は最低だな。いや、忘れる時点で最低か。
お前は、俺を自分の中から消すつもりなんだろ?」
「そう、だよ」
「!……そうか、だったら――」
「でもね、そんなすぐ忘れられるわけないでしょう?
大好きなんだよ、ケイ」
「名前…!」
だから、とケイに近付くと、もう一つ言っておきたい、と彼は言った。
「俺の名前は跡部景吾だ。自分が誰なのか思い出した俺はもうケイじゃない。
どこの誰なのか分からないケイじゃなく、跡部景吾だ。
ケイはもういない」
「……分かった。じゃあ、短かったけど大好きだった。ありがとう、ケイ。
これからよろしく、景吾」