ベレス先生と支援C

 シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエとナマエ=ミョウジが結婚を約束した仲だというのは士官学校において、ごく限られた人しか知らない事象である。
 だからこそ、青獅子学級の担任に投げられた質問にナマエは至極驚いたのだ。

「シルヴァンと君は……付き合っているの?」

 真顔のまま訊いてきたベレスに、今まさに食材を飲み込んだところであるナマエは盛大に咽せた。
 まさか、この色恋沙汰にとっても疎そうな先生から恋仲かどうかを問われるとは。
 呼吸を整えてスプーンを机に置いたナマエが神妙な顔つきでベレスを見た。

「ちなみに聞きますけど、何がどーしたらそんな発想になったんですか?」

 訊かれたベレスは悩むように間を取る。
 悩むというよりは思い出そうとしているのだろうか。あまり表情の変わらないベレスの心情を読み取るのは至難の技だ。

「ああ、そうだ。シルヴァンとナマエは一節に一度か二度出かけていると聞いてね」
「誰ですかそれ言ったの……」
「フェリクスだったかな」

 ア イ ツ か。
 ナマエは脳裏に浮かんだ幼馴染みの一人である男を後でシメようと心に決めた。

「違った?」

 ナマエの目に影が落ちたのを見たベレスが首を傾げる。可愛らしくも思えるその仕草にナマエは小さく笑って首を横に振った。

「出かけてるのは本当ですけど、付き合ってるわけじゃないですよ」

 スプーンを持ち直し、食事を再開する。

「そういえばナマエもシルヴァンやイングリットたちと幼馴染なんだったね」
「みんなほど大きい家の出身じゃないし、なんなら平民に限りなく近いんですけどね〜。ま、その延長線みたいな感じでシルヴァンと出かけてるだけです」

 ナマエが肩を竦めた。ペレスは納得したのか二、三度うなずいてから再び口を開いた。

「シルヴァンは……なんというか、その、あまり素行が良いとは言えないから。ナマエと付き合ってるのなら尚更注意した方がいいかと思ったんだ」
「あはは……シルヴァンのそれは昔からなんで治らないでしょうし、イングリットや殿下が見てくれてるのであんまり気にしない方がいいですよ〜」

 そういうものか、とベレスが納得したように首を縦に振った。
 ナマエはやや笑って、残っていたスープを飲み干す。ファーガスの料理があまり美味しくないことは大修道院に来てから知った。

「あれ、珍しいですねぇ。ナマエと先生が一緒に食事なんて」

 唐突にかけられた声にナマエの肩が大きく揺れる。振り返らなくてもわかる声の主が、ナマエの隣の椅子を引いて腰を下ろした。

「ああ、ちょうど君の話をしていたところだよ、シルヴァン」
「俺の話ですか?嬉しいなあ、美人二人に話題にしてもらえるなんて」

 思ってないくせに、とは口に出さない。
 だんまりを決め込んだナマエの代わりにベレスが言葉を続けた。

「うん。君のそういう軟派な態度について」
「あー……いや、それはそれは」

 乾いた笑いを返したシルヴァンに、心の中でどうしたものかと思いつつ、ナマエは笑顔を隣の男に向けた。

「先生に用事?邪魔なら退くよ?」

 十中八九そうだろうと思って訊いた問いは笑顔のシルヴァンにあっさり否定された。

「ああ、先生じゃなくナマエに」

 うわっ、最悪。微笑みの裏に隠された気配を感じ取ったナマエの頬が引きつる。
 一度ベレスに視線を向け、助けを求めようかとも思ったが諦めた。ナマエは一つ息を吐いて食べ終わった皿を手に持った。

「先生、お先に失礼しますね」
「うん」

 手早く使った場所を綺麗にし、食器を厨房へ返す。背後から不穏な圧を感じるのは気のせいじゃない。
 一連の作業を終えて場所を移動すると、シルヴァンが重々しく口を開いた。

「先生になんか言ったのか?」

 予想通りの質問にナマエは本日二度目のため息を吐く。
 心配性の彼に首を横に振れば、やや安堵した顔が目に入った。

「何も言ってないけど、付き合ってるの?とは訊かれたよ」
「なんで?」
「フェリクスから、私たちが一節に一回出かけてることを聞いたんだって」

 私は悪くない、とナマエがシルヴァンを真っ直ぐに見る。
 シルヴァンは額に手を当ててナマエに負けないくらいのため息をついた。

「フェリクスか……。まあ出かけてることくらいはいずれバレるだろうしな」
「そうだね……、それは、たしかに」

 なるべくならバレたくないけど、と思ったのはナマエだけではないはずだ。

「用事ってそれ?」

 自分より上にある顔を見たナマエが首を傾げる。シルヴァンと二人きりでいるところはあまり見られたくない。
 
「ああ、いや、今節はどこに行こうかと思ってさ。行きたいところあるか?」

 一転、女子生徒を口説くときの顔になったシルヴァンにナマエも緊張が緩む。とはいえ長居したいものではないので、なるべく話が早く済むよう答えた。

「シルヴァンの行きたいところでいいよ?デートの下見とか」
「おっ、なら良さそうな店見つけたからそこにしようぜ」
「了解でーす」

 小さく手を上げ賛同、そのまま上げた手を振って解散する。
 一節に一度だけのデートにも似た外出は両家からの言いつけだ。
 実際は監視役など居ないのだから適当にごまかせばいいのに、士官学校に入る前から真面目に続けている。

「適度な距離感、ねえ」

 いつだったかシルヴァンに言われた「適度な距離感」はいまいち掴めていない。
 一節に一度の外出がそれに当たるのか。考えながらナマエは訓練場へ足を向けた。