フェリクスと支援C+
「フェーリークースー!」訓練場に現れたナマエは、そこで剣を振るう幼馴染を発見するや否や声を上げた。
鬱陶しそうに一瞥したフェリクスはナマエを見てないことにしたのか、無視して剣を振り続ける。
「ちょっと?フェリクスさん、いま目が合いましたよねー!?」
「チッ」
「舌打ちも聞こえてるからね!?」
無視されても挫けず、距離を縮めては騒ぐナマエにフェリクスは諦めて剣を止めた。
「なんの用だ。騒々しい」
目つきが悪いのは通常運転なので気にせず口を開く。
「先生に私とシルヴァンが出かけてること言ったでしょ」
「ああ?……言ったが」
ナマエの質問にも似た断言に、すっかり記憶から抜け落ちていた事象をかき集めてからフェリクスが肯定した。
「何も問題ないだろ、出かけるくらい」
「そうだけど。そうなんだけども、私たちの場合はあんまりよろしくないんですよ……」
わからん、と言った顔をしたフェリクスにナマエは拳を握って説明する。
「シルヴァンと私が婚約してることは幼馴染たちしか知らないし、なるべく知られたくない訳ですよお互い」
熱を込めて話出したナマエを見てフェリクスが眉根を寄せた。
めんどくさいとか思い始めたな……、と推測しつつ大切なことなので続ける。
「できれば出かけてるとか、仲が良いとかそういった類の噂も流したくないんです」
シルヴァンの女癖の悪さは士官学校に入学して三節しか経っていないにも関わらず、周知の事実となっている。
顔が良くて、性格もまあ良し、家柄良しとなれば女子たちも放っておかない。
そんな中、婚約者が出てきたら?幼馴染とはいえ毎節二人出かけていたら?────そう、とても面倒なことになるのだ。
「私も面倒ごとはごめんだから……」
「知らん。お前らが婚約してるのも出かけているのも事実だろう」
「そうなんだけど」
フェリクスに繊細な乙女心の理解を求めた私の負けか!?ナマエが挫けそうになったとき、目の前で剣が揺れた。
「鍛錬に付き合え。なら、考えんでもない」
「え?」
「口外されたくないんじゃないのか」
はやく答えろ、というより、はやく剣を取れと目で促される。
「フェリクスと鍛錬すると足腰立たなくなるんだよね……」
「サボってるからだ」
あんたの容赦が無いせいですけど。出かかった言葉は飲み込んだ。下手なことを言って怒らせるのは得策ではない。
ナマエは、諦めたように項垂れて「わかったよ」とフェリクスの案を了承した。
「ただし!本当に私が立てなくなったら責任持って運んでよ?」
「なんで俺が」
訓練場に放置されるのだけは避けたいナマエの懇願に顔をしかめる。その程度で怯むような間柄でないナマエはフェリクスへもう一押し。
「私を運ぶのも鍛錬だと思って、ね!」
「チッ」
あまり良いものではないが、彼の舌打ちはほとんど了解と同じ意である。
交渉成立、ナマエはうなずいて手合わせするための武器を取りに走った。
「ほんとに足腰立たなくなるまでやるか……」
「貧弱だな」
真上にあったはずの太陽がほとんど沈んだ頃ようやくフェリクスの気が済んだらしい。
何から何までボロボロのナマエにフェリクスは呆れたような視線を投げる。
────なんだか割に合っていない気がしてきた。そもそもなんで自分だけがこんな必死に口止めしてるんだ?ああもう疲れた帰りたい。
疲労が限界になると思考が暗くなる。ナマエが下を向いてため息をつくと、フェリクスの手が伸びてきた。
「ん?……うお、あ!?」
「喧しい」
何事かと首を傾げたナマエの視界が反転、腹の辺りに圧力を感じる。足は地面についたままだが、これは────
「フェリクスさん、ちょっと」
ナマエが抗議の声をあげるもフェリクスはそれを無視して歩き始めた。
ずりずり引きずられる足がつらい。訓練場から寮まで距離は無いものの、荷物を小脇に抱えるかの如く運ばれるのはナマエの羞恥を煽るには十分すぎた。
「この運び方、女の子を運ぶ方法として間違ってると思う」
「運べと言ったり、文句を言ったり……ここに放置してもいいんだが」
「せめて肩に担いでくれたほうがよかった……いえ、運んでくれるだけありがたいです」
「チッ」
せめて負担にならないよう足を地面から浮かせる。これはこれで腹筋やら脚やらに負担がきてつらい。が、もう一度でも文句を言おうものなら本当に放置されかねないのでナマエは口を噤んだ。
「ところでフェリクス」
「なんだ」
「先生に何か、私とシルヴァンについて訊かれたの?」
やや進んだところでずっと疑問に思っていたことをナマエが口にした。まさかフェリクスが自ら進んでナマエとシルヴァンについて発言することはないだろう。
面倒くさそうな顔をして、フェリクスはやや乱雑に答えた。
「ああ」
「なんて言ってた?」
ちゃんと訊かないと答えてくれないのはわかっている。間髪入れず続けたナマエを抱える腕に若干力が込められた。
「お前とシルヴァンは仲が悪いのか、と」
これは、また。
ナマエが顔をしかめた。
「仲悪いように見えてたのに一緒に出かけてるのを聞いて恋仲まで持ってっちゃったのか……」
あの先生実は意外と突拍子もない人なのかもしれない。ちょっとした発見に感心しているナマエの腹に食い込んでいた腕が急に抜けた。
「ぎゃ!?」
支えるものが無くなり重力逆らうことなく転げ落ちたナマエが悲鳴をあげる。
「運んだからな」
フェリクスの言葉に周りを見渡すと確かに寮の自室の前だ。
「ありがとう……いや、もう少し置き方あったでしょ」
打ち付けた顎を押さえつつ恨み言を発するが、フェリクスは微塵も気に留めずにすたすたと歩いて行ってしまう。
もう一言二言悪口でも投げつけてやりたいところだが、なんだかんだでちゃんと運んでくれたんだから感謝しよう。
ナマエは最近癖になりつつあるため息を大きく一つ吐いて、自室の扉を開けた。