君のことをとにかく調べた

 一体全体なにが起こったらこんなことになるのでしょうか────今度はナマエが頭を悩ませる番だった。
 あの一件以来シルヴァンはほとんど毎日ナマエを食事に誘い、隙さえあらば一緒に過ごそうと画策してくる。
 クロードはそれを楽しそうに眺めるだけで止めはしないし、ヒルダなんかも面白いと言わんばかりにニヤニヤと見ているだけだ。
 以前のように食事の誘いは断っているが、食堂で向かいの席に座られては逃げるわけにもいかない。

「ナマエいつもそれ食べてるよな」
「うん。おいしいんだよ」

 と、今がまさにその状況なのだが。
 一体何があって彼はここまで自分に執着しているのか理解ができない。
 ちらりと視線を投げれば、こちらを見ていたシルヴァンと目が合ってしまった。

「ん?」

 首を傾げるシルヴァンの表情は柔らかい。
 いやほんとに何がどうしたらこんなことに!とナマエは心の中で本日何度目かの叫び声を上げて、表面上では笑顔を返してみせた。
 その造られた笑顔にシルヴァンが怪訝そうに眉根を寄せる。

「……ナマエの本心ってどこにあるんだろうな」

 その一言にナマエは思わず固まった。
 クロードと同じくらい人の機微に敏感なシルヴァンの前で下手くそな笑顔を向けてしまったことを後悔して、口を結ぶ。

「なあ」

 見透かすような瞳に心臓が大きく鳴った。

「ナマエは、一体誰になら本心をさらけ出せるんだ?」

 訊かれた言葉が痛く刺さる。
 なにか上手く返さなくては、と脳を回転させるものの誤魔化すような台詞一つ出てこない。
 時間が経てば経つほど逃げられなくなるのは分かっているのに、喉が渇いて声も出ない。
 言えない────誰も信頼していないなんて。

「……誰かな」

 ようやく喉を通った声と、曖昧に上がった口角をシルヴァンはどう見ただろう。
 ナマエはシルヴァンへ視線をほんの少しも向けずに、空っぽの食器を持って立ち上がった。

「ナマエ」

 呼び止めるようなシルヴァンを振り切って、ナマエが歩き出す。
 顔を見られたくない。触れないで、そっとしておいて欲しい。
 そんなナマエの気持ちを察してか、追いかける声も手もシルヴァンは出さなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


 この数日でひとつ分かったことがある。
 のらりくらりとしていたナマエは意図的に造られたものであるということだ。
 きっと本質はクロードや自分に近い。
 疑って、穿って、それを繰り返して、自分の目で確かめるまで信頼できないのだろう。
 そう思えば初対面のときのナマエの反応も頷けるものだ。言葉選びも、核心をつくような台詞も、ナマエの本質を知れば理解できる。
 ────知らぬ間に腹の探り合いをしていたわけだ。
 もちろん、ナマエは意図的だろうが。

「シルヴァン」

 思考を巡らせていたシルヴァンに声をかけたのは渦中のもう一人、クロードである。
 軽い調子で片手を上げたクロードは戸惑うことなくシルヴァンの向かい、先ほどまでナマエが座っていた席に腰を落ち着かせた。

「何か用か?」

 声が頑なになったのは気のせいじゃない。
 クロードはそれに気づかないフリをして「まあ」と話を切り出した。

「ナマエに手を焼いてるようだから、助言でもしてやろうかとね」
「そりゃあ、随分余裕だな」

 挑発と受け取ったシルヴァンが鼻を鳴らす。
 思いがけない分かりやすい態度に、クロードは肩を竦めて穏やかにシルヴァンを諫めた。

「そう喧嘩腰になるなよ。別に宣戦布告したわけでもないだろ?」
「……そうだったか?」

 結構煽ってたと思うんだが、とシルヴァンは思い返して顔をしかめる。

「まあ、細かいことは置いておこうぜ」

 仕切り直すように咳払いをしたクロードが言葉を続けた。

「ナマエは手強いだろ。俺もまだ一年ちょっとの付き合いだが、あそこまで頭が切れるとなかなか……難しい」

 何が難しいかは言及しないでおく。
 シルヴァンは何も言わずに聞く方に徹した。

「まあ、機微に敏くて頭が切れるからこそ今は俺の婚約者なんだろうけどな」

 それは自慢か、と詰りたくなるのを抑えてシルヴァンが「ああ」小さく応える。
 クロードはわずかに笑って、話を再開した。

「頭が良くて、察しが良くて、気が利く。なのに、ナマエは三回」

 言葉を切ったクロードの顔が真面目なものに変わる。

「三回、捨てられたんだ」

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