魔犬と音楽家、矛盾する智者の本能

2024/02/22

まほやくは細かなところまで練られているし、色んな文学作品や名著から引用してきている感じが、わくわくすることのひとつであったりする。



魔犬と音楽家


ふと、オーエンとラスティカ、正確にはケルベロスとラスティカは、戦うとなったらどんな化学反応が起こるんだろうかと考えた。

ケルベロスという冥界の番犬は3つの頭を持つ魔犬。
地獄の番犬とも呼ばれる凶暴さで有名だが、オルペウスという音楽の得意なある青年が琴で美しい音色を奏で、ケルベロスを心地良い眠りに誘うことで関門を突破したという話がある。

オーエンのケルベロスはラスティカの演奏に眠ったりするんだろうか。

このケルベロス、頭が3つあるものの、見張りをするのは2つの頭、その間もう1つの頭は眠るという当番制らしく、そこも心臓がいくつもあるだとか人格がふたつある(厄災の傷のせいで2つできている)オーエンとかなり似ている気がする。

更にこのケルベロス、オーエン同様甘いものが大好きで、甘いものを与えてやればそれに夢中になっている間にそっと冥界の入口を通れる、なんていう話もある。
その甘いものというのは小麦と蜂蜜を使ったパンのようなものというから、私にはそれがパンケーキにしか思えない。しかし、甘いものに釣られるとは、ケルベロス、意外とチョロい…??(わかってる、オーエンはチョロくないよ、ね?ね?)

常に冥界という暗い地の果てにいるケルベロスだが、ある時ヘラクレスという英雄に捕まり、地上に引っ張りだされたというお話も。
その時、太陽の光に驚いて吠えて毒を吐き出したとかなんとか。
(その毒はトリカブトと言われている。そう、2周年でオーエンにあてられた植物)

オーエンが毒舌なのって、世界の光の眩しさに驚いて戸惑っているからです?
カインという君の騎士様の眩しさに戸惑ってます?





矛盾する智者の本能


ムル・ハート
憎かろうが恨みがましかろうが殺すのを惜しいと思ってしまうほどの世紀の大天才。
そんな賢い男が、月に近づきすぎて砕けたということを意識するたびに、私はあのイカロスを思い出す。
愚かな少年の、イカロス。

少年イカロスはある迷宮から脱出する際、父から蝋で固めた翼を貰って空を飛ぶのだが、「高く飛ぶと太陽の熱で溶けてしまうから気をつけるように」という父の言葉に背いて太陽に近づきすぎ、海に墜落する。

空を飛ぶ楽しさともっと高く飛びたいという純粋無垢な欲望に勝てず、注意に反して墜死したイカロスは、度々、愚かの象徴として絵画や慣用句に使われる。
けれど、私は正直、こういった愚かさがものすごく好き。
現実としてそんな事があったら間違いなく愚かだと考えるだろうものの、フィクションとして考えた時、正直、こんな愚かさには羨ましいほどに美しさを覚える。

理性に勝ってしまうほどの欲望と、それ故に滅ぼされた身。
欲という本能のまま動き、理性という本能に逆らう、矛盾した純粋な愚かさ。

だが、愚かにまで達するほどの欲望を、一体どれだけの人が抱けるだろう。
理性をも圧倒し、身を滅ぼして心を砕かれて、それでもなおムル・ハートという男に残っている “好奇心” という欲望。
知りたいという聡明だからこその欲にとらわれ、身を滅ぼされた愚かな智者。

魅力的だ。羨ましいほどに美しく愚かな心。



ムルって本当に欲望のかたまり、それも、ただ純粋な本能のままの欲望。多くの場合理性や知性に足を引っ張られてしまいがちな欲望という本能を、飼い慣らしもせずありのままに生かしている。いっそ無垢とすら言えるくらいには恐ろしく本能のまま。

ムル・ハートの魂って、愚かなほど聡明に美しい。
シャイロックが言った「あなたほど綺麗な魂を知らない」という言葉が何よりそれを表しているように思う。





ギリシャ神話好きの戯言でした。