AM10:00、朝日の降り注ぐカフェテラス。
朝のためか人の少ない通りに面したテラス席で優雅にモーニングを嗜む1組の男女。
向かい合って座るのは悪名高いハートの海賊団船長トラファルガー・ローとそのクルー、ジャンヌ。
朝刊を読みながらコーヒーに口をつけるローの前で、優雅に足を組み直したジャンヌは読んでいた本から視線を上げる。

「船長、なんで急にモーニングなんか?」
「たまには朝からデートも悪くねぇと思っただけだ。」

新聞を眺めたままジャンヌに一瞥すらくれずにそう言うとローは出そうになる欠伸を噛み殺した。
程なくして運ばれてきた料理に読んでいた新聞を丸テーブルの端に畳んで放ったローはモーニングメニューの小さめのドリアをスプーンで掬った。
ジャンヌは読みかけの本に栞を挟むと運ばれてきたサラダ、トーストとゆで卵の皿を自分の好みの位置に配置しフォークを取った。

「退屈な島ね。」
「まぁ、たまにはいいだろ。」
「小さな島だけど娼館があって良かったわね。船長たち男は退屈しないわ。」
「俺は行かねぇけどな。」

男娼を探してんなら抱いてやろうか?卑下た笑みを浮かべたローは見せつけるように舌舐めずりをして見せた。
そんなローの姿にまたいつものセクハラかとため息を零したジャンヌはサラダのミニトマトにフォークを突き刺すとプチュリとフォークがトマトの皮を突き破る何とも言えない感触が伝わる。

「冗談はやめて。船長のお粗末なモノじゃ踊れないわ。」
「言ってくれんじゃねぇか。俺のがお粗末かどうか、体感してみても損はねぇだろ?」
「…船長ってホントに損してるわ。色んな意味で。」

整った顔した目の前の男から発せられる品のない言葉にジャンヌはこれ以上は何も言うまいと口を閉ざすことでこの話題を終わらせた。
時間の経過とともに徐々に人通りの増えてくる通りは少しずつ活気づいてくる。行きかう人々の声や足音が程よいBGMとなって長閑なひと時が流れる。
通りを歩く人々は極々普通の、裕福でもなく貧困でもないそんな人間にみえる。明るく笑顔の多い島、そんな印象の島だった。
サラダを食べ終えたジャンヌはフォークを置くとゆで卵の殻を剥き始める。ぺりぺりと気持ちよく剥がれていく殻が皿に落ちて小さな音が鳴る。
つるりと剥けたゆで卵に満足したジャンヌはテーブルに備え付けられた塩の瓶を取るとぱらぱらと振り掛け齧り付く。
ローは彼女の正面で残り少なくなったドリアをスプーンで綺麗に集め口に運ぶ。

「この後の予定は?」
「そうね…ベポでも誘って、ん、買い物でも行こうかしらね。」

ゆで卵を食べ終えたジャンヌはトーストを齧る。ゆっくり咀嚼し今日の予定をあれもしたい、これもしたいと思案する。きっとベポならば付き合ってくれるだろう。

「船長は、どうするの?」
「俺はそのへんぶらつくか寝るかだな。」
「んー、へ〜」
「ところでジャンヌ…いつまでもぐもぐしてんだ?」

トーストの最後の一口を口に放り込んでからずっともぐもぐと口を動かす彼女にローはそう問いを投げる。
口を止めることなくジャンヌはひたすらに咀嚼する。

「仕方ないじゃない、ん、足りないのよ」

まだ腹ぺこよ、お腹空いた、そう言ったジャンヌは少しでも満腹感を得ようとひたすらに口を動かしている。
ローはテーブルに肘をついて片手をグッと伸ばし向かいに座る彼女の頬を軽く手の甲で撫でると、今度はゆっくりと手のひらでふにふにと弄ぶ。

「可愛いな、襲いたくなる。」
「…ひみがわからにゃいわ」
「ふはっ、それはエロい」
「もーてをはなひて!」

ゴクリと嚥下したジャンヌはローの手首を掴んで辞めさせようとするがビクともしない。
手首を掴まれた当の本人は若干嬉しそうにも見える。

「ジャンヌから触ってくるなんて…やっぱり誘ってんだな。」
「ひーかげんに…しろ!!」
「おっと!」

顔面目掛けて飛んできた平手を彼女に触れていた手を引っ込め後ろに軽く反ることで躱したローは余裕綽々と言った風に笑う。
眉間に皺を寄せ怒りを露わにするジャンヌから逃れるように伝票を持ったローは優雅に革靴のヒールを鳴らして歩き出す。
上着を羽織りレジで会計を済ませているローをブーツのヒールを鳴らして追いかける。


「腹減ってんなら向かいの店に入るか?」
「はぁ?別に、気を使ってくれなくて結構よ。」
「そうか、実は俺も全然足りなくてな。」

そう言うとローはジャンヌに向かって片手を差し出すとニヤリと口角を上げた。

「お望みとあらば跪いてやるが?」
「結構よ。船長がどうしてもっていうなら、行ってあげる。」
「くくっ…あぁ、実はどうしてもジャンヌと飯に行きたくてな。どうだ?好きなもんを好きなだけ奢ってやる。」
「ならエスコートしてみなさいな。船長様?」

挑戦的な笑みを浮かべた彼女の腰を片手で抱き、もう片手で細い手をとったローは柄にもなく紳士的にエスコートする。
その姿はまさに互いを愛し合う男女の姿。
本当の愛になるのは案外近いのかもしれないしそうでないかもしれない。

「…いい尻だ。」
「死ね!!!」

長閑な通りの平穏を切り裂くように響いた派手な打音。
道行く人が振り返るとどこか満足そうな顔で頬を張り飛ばされた海賊の船長と、怒りに染まった顔で左手を振り切っている一人のクルー。
その様子を見ていた人々からハートの海賊団の船長とクルーの痴情の縺れと暫くの間噂になったとか…


end




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