人々に見捨てられた島を指すログポースを見つめたジャンヌは重い溜息を溢した。
ジャンヌ、どうしたの? ハートの海賊団の航海士ベポはそう言って首を傾げた。

「この島、今は無人なんでしょ? 物資の補給もできない、娯楽もないなんて寄る意味ある?」
「確かにそうだけど…まあ3時間でログが溜まるからそれがせめてもの救いかな。」

そういうとベポは描き上がったばかりの海図に視線を落とした。
再び溢れた溜息は今度は誰に拾われるでもなく溶けて消えた。


「じゃあ3時間後、ここに集合で。遅刻すんなよー。」

かいさーん、ペンギンの抜けた声が無人の島に響き渡った、気がする。
人が住まなくなってどのくらいの時がたったのか、以前は活気付いていた街であっただろう建物は海風に曝されボロボロに朽ち果てている。
なかには基礎しか残っていない建物であったもの、基礎すら危うい建物だったものもある。
鞘に収まった細い剣を片手に島内を一人で歩きだしたジャンヌは苔の生えた石畳の中心街であった場所を当てもなく歩く。
風化した建物の壁は誰にも手入れさていないせいで蔦が根でも張っているのではないかというほど巻き付いている。
比較的形を残した建物のボロボロの扉のドアノブを回したジャンヌは立て付けが悪くなり開きにくなってしまったであろう扉を半ば強引に開いた。
蝶番が軋む嫌な音を立ててあいた扉は木枠の支えを失い斜めに傾きもう二度と閉まることはないだろう。

建物の中は埃や砂が積もっていた。
歩くたびに床板がギシギシと鳴いて今にも抜けてしまいそうな音を立てる。
ぐるりと建物の中を回るとどうやらここは1つの家族が暮らしていたようだ。
窓ガラスの無くなった桟から差し込む日の光が飾られた写真立てを照らし出す。
色褪せた写真の中で微笑むのは大人が二人と子どもが二人。
人々に見捨てられた島だとベポは言っていたが、こんなにも荷物を残していなくなってしまうなんて何をそんなに急いでいたのか。
ダイニングやキッチンには沢山の生活用品が残されていた。
階段を上った先の寝室や子ども部屋にも沢山の生活用品、一体この島で何が起きたのか。
人々が島を離れたというよりこれではある日突然消えてしまったという方が合っているのではないかと思うほどである。
子ども部屋に残されたままの小さなベッドは綺麗に整えられたまま埃が積もっていた。
鞘に入ったままの剣でなぞると埃は空気中を舞いキラキラと陽の光に反射した。
目的のない探索を終えたジャンヌは家を出ると街の中心を少し外れた森の奥に朽ち果てた教会を見つけた。
かつては立派であったであろう教会の両開きの扉は片側が壊れなくなっていた。
蝙蝠のようなリブ・ヴォールト天井には穴が開き木々の隙間から漏れた光が差し込んでいる。
足元に敷かれた真っ赤な絨毯は所々穴が空いたり色褪せてしまっていた。

ゆったりとした歩調で祭壇まで歩み寄るとその奥にあるパイプオルガンに視線をくれる。
埃の積もった鍵盤に指を乗せたジャンヌは目を細めて持っていた剣を近くの壁に立てかけると近くに倒れている椅子を立たせ腰掛ける。
改めてオルガンに向き直ったジャンヌはその汚れた鍵盤に指を滑らせる。
ポロン、ポロンと静かになりだしたオルガンの鍵盤はいくつか調律の狂った音を立てる。
おかしな音を立てる鍵盤を気に留めず滑るように音を奏でる細い指。
弾き終わるといつから深く息を吸い込んでいたのだろうか、いっぱいになっていた肺の中身を全て吐き出すかのように息を吐いたジャンヌの耳に届く落ち着いた低い声。

「讃美歌か? 見事だな。」

教会の入り口にはジャンヌが予想した通りの人物が涼しげに背中を預け立っていた。

「あら船長、何か御用?」
「今にもぶっ壊れそうな教会から讃美歌が聞こえたもんでな、生き残りでもいるのかと思ったらお前だった。ただそれだけだ。」

そういうと彼女のそばまで歩み寄ると、彼女の座る椅子に腰掛けた。
椅子がぎしりと嫌な音を立てた。
図々しく隣に座るローに顔を顰め不快感をあらわにしたジャンヌは涼しい顔をした彼の端正な顔を睨みつける。
彼女に睨まれたところで一切動じない彼はパイプオルガンを見つめたまま静かに口を開いた。

「弾いてくれよ…讃美歌。元聖女様。」
「本当に最低…」
「早くしろよ。」

淡々と告げるローの声にジャンヌは態と聞こえる様に舌打ちすると大人しくパイプオルガンに向き直った。
汚れた鍵盤に細い指を乗せると白く美しその指は少し重たい鍵盤の上を優しく滑り出す。
調律の狂ったおかしな音色なのに心地よい音に耳を澄ませたローは冷たく重い空気を吸い込んだ。
鍵盤を見つめ讃美歌を奏でる美しい聖女の横顔を見つめたローは伏せられた瞼、薄く色付いた唇、時折彼女の動きに合わせて揺れる毛先。
崩れた天井から木々の隙間を縫う様に差し込む木漏れ日が彼女を照らす。
どこか神聖で神々しい、そんな雰囲気を醸し出す彼女に涼しい顔を崩し眉間にシワを寄せたローは不快感を隠そうともせず鍵盤の上を滑る手をやや乱暴に掴み引き寄せる。

「ちょっ! 何!? 離しなさい!」
「煩ぇよ。お前は俺のモノだろ。」
「違うわ!」

狭い椅子の上で抵抗する彼女の体を押さえ込むと薄く色付いた柔らかい唇に噛み付く様に口付けた。
突然のことに驚いたのも束の間、すぐに逃げようと抵抗する小さな体を押さえ込むことなどローにとっては造作もない。
逃げ惑う舌を捕まえて絡め取り深くまで重ねると





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