07.温んで

「トシ…総悟、ひとつ確認しておきたいことがある……
奴って誰かな?」
「知らね―のかよ!」
「ナマエじゃねぇですかい?ここ最近、見かけないんでさぁ」
「え、ナマエちゃん!?」
「んなわけあるか」
「土方さん、なんか知ってねぇですかぃ」
「なんで俺が知ってんだよ。知るわけねぇだろ」
「ま、それもそうですねィ」
「なら聞いてくんじゃねぇよ」






新しいとはいえない万事屋のインターホンが来客を知らせた。

「御免ください。江戸入国管理局の者です。神楽さんの定期訪問にて参りました」
「はーい!」

新八と神楽が来客を迎えに玄関へと向かう。
顔見知りに会えるという期待が足を一刻も早く玄関へ向かうように嗾けていた。

「あれ、今日はナマエさんじゃないんですね」
「ああ、ミョウジはここの所、体調不良でして…本日は代わりに私が」
「えー!ナマエに会いたいアル」
「そうだったんですか。心配だね、ナマエさんが元気になったら会いにいってみようか」

定期報告も終わり、来客が帰ってすぐに銀時が腰を上げた。

「あれ、銀さんどこか行くんですか」
「パチンコだよパチンコ」
「ほどほどにしといてくださいよ〜」






万事屋よりは新築のマンションの一室でインターホンが来客を知らせていた。

『…………………はい』

「あー、万事屋銀ちゃんですけどォミョウジさんの看病の依頼に来ましたァ」

『…万事屋さん?依頼してませんから、部屋番号間違えてますよ』

「てめぇ体調崩してンだろうが」

『そうですが…依頼した覚えはありませんので』

「頭堅ェなぁ。いいから玄関まで来い。料理持ってきてンだよ」

『え…!で、でも新手の詐欺ですよね?遠慮します』

「ちげーって!後から請求とかしねぇから!そろそろ周りの奴らに怪しまれきてんだよ。お前、万事屋銀ちゃんの評判落ちたら責任とってくれんの?」

『責任って…そちらが押し掛けてきただけですよね』


それは確かにそうなのだが。
事実を言われては何も言えない。
だからといって素直に引き下がる銀時ではなかった。

「あー!依頼に来たのにミョウジさん全ッ然開けてくれねぇんだもんなぁ!今日の夜ご飯はナシかなぁ!」

『ちょ!?近所迷惑になりますって…!』

「はやく開けてくんねぇかなー!」


他人の玄関前にて大声でわめきだしたのである。


『わ、わかりましたから…!』
「嘘だったらもっとでけぇ声であられもないこと吹聴してやるからな」

寝たふりして放置作戦はあえなく潰され、言う通りに玄関を開ける他なかった。

「…お待たせしました」

完全に家でゆったりする恰好なうえに体調を崩して身支度が適当であるが故、ぎこきなく開けた玄関ドアは銀時の逞しい腕によっていとも簡単に大きく開かれた。

「お〜、見事に体調崩してンな」
「おかげさまで…?ズビッ、今日はおひとりなんですね」
「あいつら来たら休まるもんも休まらねぇだろ。これ食事な」
「あ、ありがとうございます。美味しそう…」
「飯食ったのか」
「あ、はい…。なので明日にでもいただきま」


ぐぅ〜


腹の音によって2人の会話が一時中断された。

「食ってねぇな?」
「いやまぁ…はい…。お腹は減っているんですが、どうしても食べる気にならなくて…」
「ったく、しゃーねーな。万事屋銀ちゃん特別大サービスだぞ」

そう言って銀時は玄関をくぐろうとした。
しかしその侵入を家の主が許すはずもなかった。

「え…いや何!?なに入ろうとしてるんですか!?」
「看病してやるっつってんだよ、さっさと入れろ」
「風邪!移したら面目ないので!お気持ちだけゴフッ」
「ほら病人が無茶すんな」

体調不良の人間による阻止が成功するはずもなく、結局自らの城への侵入を許したのであった。

「てめぇは寝てろ。準備できたら持っていってやるから」
「いやそんな流石にゴホッゴホ」
「いいから!寝てろ!」
「かたじけない…」

侵入者は家の主を寝室へ追いやり、台所にて籠城を始めた。



いつの間にか布団にて意識を手放していた家の主は、漂ってきた出汁のいい香りにて目を醒ました。
丁度よいタイミングでノックオンが聞こえ、銀時がお皿に入れた食事が乗ったおぼんを持って部屋に入ってきた。
いつも使っているお箸や湯呑まで置いてあった。

今までの行動から銀時は実際に目の前で食べないと納得しない人だと判断し、手を合わせて早速目を醒ます原因となったお汁を口に含んだ。

「おいしいです…」
「そりゃよかった」

肘をついてこちらを監視するかのような鋭かった目がほころんでいた。

「でも依頼って…本当なんです?後から請求されるパターンじゃないですか?」
「ちげぇって。ちゃんと依頼受けて来てっから」
「誰の…」
「そりゃ企業秘密ってやつ?依頼主のプライバシーはちゃんと守る男だよ、俺ァ」
「企業秘密って…若干違うような」
「るせぇな、兎に角教えるわけにはいかねぇ」

これといって会話があるわけでもなく、ズズ…とお吸い物をすする音が目立つ。
そんな空間に意を決して銀時が口を開いた。

「その…よ、」
「?はい」

先ほどまでの雰囲気とは異なり、改まった様子の銀時に病人とはいえ背筋が伸びる。

「この前の…神楽を助けてくれて、あんがとな」
「ああ…助けたのは坂田さんたちじゃないですか。私はなにも」
「お前が近道に先導してくれてなかったら、あいつらも俺も今ここにいたかわかんねぇよ」

自分に対してここまで素直に感謝の気持ちを伝える万事屋の姿に驚きつつ、

「…神楽ちゃんに笑っていてほしいのは、私も同じですから。私がしたいようにしただけですよ」
「ふ、そうかい」

そう言った銀時の口の端はいつもより少しだけ上がっていた。






大江戸入国管理局にあまり似つかわしくない男がひとり。
腰に刀をさし、全身黒尽くめの制服を着た男は目当ての待ち人が来ない故か、ポケットにあるタバコを触るものの今自分がいるスペースが禁煙ゾーンであることを思い出し、目に見えていらついている様子だった。


「あれ、おはようございます、土方副長殿。ここまでお越しになるのも珍しいですね」
「ああ…まぁな」
「本日はどういったご用件で?」

そう尋ねられた男はもう片方の手にぶら下がっていた紙袋を差し出した。

「これ、土産だ」
「え…大江戸遊園地のクッキーじゃないですか。わざわざご丁寧にありがとうございます」

お礼を伝え、取り出した箱を紙袋に戻していると、土方が何か思い出したかのように口を開いた。

「そういえばお前…暫く休んでたろ」
「ああ、体調を崩しまして。ご迷惑をおかけしました」
「もう大丈夫なのか」
「はい、おかげさまで元気になりましたよ」
「そうかよ。そいつぁよかった」

「…土方副長殿の辞書にも”思いやり”って言葉があったんですね」
「うるせぇ、しょっ引くぞ」
「職権乱用!」


  

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