長兄


※弟達の前ででろっでろに夢主を甘やかす長兄


「………………」
「……チッ」


チョロ松さんが苦々しげに眉を顰め、一松さんは不機嫌を顕にして大袈裟に舌打ちをしてみせる。
十四松さんは言葉を口に出しはしないものの、じっとこちらを見つめて猫のように目を丸くしてみせた。


「なまえちゃん、口開けてー」
「…………」
「おそ松、ちゃんと冷ましてやらないと火傷したらどうするんだ」


自分で食べます。
そう言えるはずもなく、言われるがまま口を大きく開いて、おそ松さんの右手のスプーンを迎え入れる。
もぐもぐと咀嚼を繰り返せば、今度はカラ松さんの右手のフォークが伸びてきて、代わる代わる口の中に食べ物が詰め込まれていく。


「………………んぐ」
「ダメだよなまえちゃん、全部食べないとはなしてあげなーい」
「俺達も辛いがハニーのためだ、我慢してくれ。愛の、鞭だ」


もうお腹いっぱいです、という意思を込めてゆるりと首を横に振っても許してもらえず、んん、と唸ることしかできない。
抵抗は諦めてなんとか食べきらなくてはと咀嚼をを繰り返していると、遅れてやってきたトド松さんがようやく席についた。


「兄さんたちいい加減にしなよ、なまえちゃんに嫌われても知らないからね」
「はー?俺優しくしてるだけじゃん」
「悪気も悪意もないぞ?」


きょとん、とした顔のお2人に、トド松さんはタチ悪ー、と苦々しげに顔を顰める。


「てかさあ、そもそも兄さん達がポカしたのが悪いんじゃーん」
「それは悪かったって」
「……トッティと十四松だって」
「………まあそれはごめんって」
「すいません!!!」


ファミリー総出での任務の日。
チョロ松さんとトド松さんが事前にリークした情報が、それぞれほんの少し間違っていて、十四松さんと一松さんが相手にトドメを刺し損ねたことに気づくのがほんの少し遅れて、わたしは頬にほんの少し傷を負った。
四人のせいではないし、私がどんくさかっただけなのに、皆さんはてこでも譲ってくれなかった。
真顔のおそ松さんとカラ松さんが、4人に対し責任をと要求して、まるで指でも詰めると言わんばかりの空気の6人に、慌てて止めに入ったのが昨日のことである。
任務は無事終わったし、件の敵対ファミリーは壊滅状態だし、私の怪我なんてすぐに治るし、そもそも私のせいだし。
取り留めもないわたしの言葉に、おそ松さんとカラ松さんはそれでもなかなか納得してくれなかった。


『どうしてもっつーなら条件があんだけど』


何度目かの説得に、ようやくそう言ってくれたおそ松さんに力強く頷いて。
その条件とやらが、
【頬の傷が治るまでおそ松さんとカラ松さんに身の回りの世話全てを任せること】
だなんて考えもしなかったのだけれど。


「ん、よくできました」


空っぽになった皿に、2人が柔らかく笑う。
よしよしと優しく髪を撫でられて、順にそっと額にキスをされた。
あとの4人は何か言いたげではあるものの、2人が凄むせいで口を開いては閉じるを繰り返している。


「んじゃ、今日は休みだしまったりしよ」
「そうだな、あぁ、映画でも見ようか」
「映画ぁ?それよりトランプしようよなまえちゃん」
「え、あ、はい」


返事するより早く、テキパキとカードを並べていくのはおそ松さんだ。


「神経衰弱か?」
「そーそー。あ、罰ゲームありね」
「え」


カードを一通り並べ終えたおそ松さんが、にんまり笑う。


「よっし、そんじゃはじめよっか」
「え」
「ンー?どうしたんだハニー」
「いや、えっと……3人で、ですか?」


壁に背中を預けるように周りを囲む4人に、ソワソワして言葉が漏れる。
情けない私の質問に、おそ松さんは笑顔のままそうだけど、と頷く。


「言ったじゃん、なまえちゃんが怪我したのあいつらのせいだし」
「これがあいつらに対する罰だから、いくらハニーと言えどこれ以上の譲歩はしないぞ」


わたしが遊んでいるのを見るのが罰ってますます意味がわからない……。
訝しげな私に、目の前のふたりは声を立てて笑う。


「わかんなくていいよ、さ、ゲームスタートだ」





結果は予想通り、私の惨敗である。
同じだけカードを手にしたおそ松さんとカラ松さんが、罰ゲームは何にしようかとニヤニヤ笑い合うのを見て、謀られたのだろうかと今更ながらため息が漏れる。


「ウソウソ。罰ゲームとかしないって」
「そんなに怖がらなくてもいいんだぞ、ハニー。さ、こっちへ来て可愛い笑顔を見せてくれないか」


ゆるりと手招きされて、おずおずと二人に近づけば、腕を強く引かれておそ松さんの膝の上に座らされた。


「はは、なまえちゃんすげーいい匂いする」
「え、わ、わ」


おそ松さんの膝を跨ぐように向かい合って、ぎゅうと抱きしめられて。
んん、と小さく声を漏らして頬をすり寄せるおそ松さんはいつもより幼く見える。


「………………ごめんね、なまえちゃん」


かさついた指先が頬を撫でる。


「ハニーの可愛い顔に傷が残ったら俺達はどうしていいかわからない」


凛々しい眉を下げたカラ松さんがもう片方の頬を包むように大きな手のひらを添えた。


「なまえちゃんはさ、髪が綺麗だよね」
「肌も白くてきれいだ」
「ほっぺ柔らかくて可愛いよね」
「唇はふっくらしてセクシーだな」
「え、え、」


順番に投げかけられる誉め言葉に顔が熱くなる。
目をうっとりと細めて、愛おしいなあなんて口に出すからたちが悪い。
下心なんてこれっぽっちもないような手つきで髪を撫でて、頬を撫でて、唇を撫でて。
どろりと甘い声に、愛されてるなんて、頭がおかしくなりそうだ。


「……っふ。ん、やりすぎたかな」


困ったように笑うおそ松さんがカラ松さんと目を見合わせて、私から身体を離してくれた。


「ハニー、あんまりかわいい顔をしないでくれよ」
「なんて顔してんの、なまえちゃん」
「…え」
「…我慢がきかなくなる」
「食べちゃいそうだから、やめて?」


二人の言葉によくわからないままこくりと頷けば、おそ松さんがっふ、と笑い声を漏らして、カラ松さんがすっと目を細める。


「ね、いつかなまえちゃんの身も心も俺に頂戴って言ったでしょ」
「今貰ってもいいか?…怖がらなくていい」
「ね、なまえちゃん、聞いて」
「「あいしてる」」


そっと両頬に触れた唇が柔らかくて、ぼうっとした頭で何を言われているのか考えても理解できるわけもない。
混乱したまま、それでもこくりと頷きかけて。


「そろそろ見過ごせないんだけど」


ぐっと引き寄せられたのは細い腕で、視界に柔らかそうな髪が揺れる。
あ、一松さんか。


「やりすぎ」
「なまえちゃん、ボクらと違って一般人だったんだから兄さんたちの声は毒みたいなものでしょ」
「その声ズルいよ、にーさん」


四人から非難を浴びてもおそ松さんとカラ松さんはどこ吹く風で飄々と肩をすくめて見せる。


「でもさぁ、俺らの声は深層心理を引き出すだけだよ?嫌ではないんじゃん」
「それでも、だよ。無理やりよくないだろ」
「なまえちゃんが頷いてたら内戦だったよ〜」


発言の内容とあまりに噛み合わない笑顔に、ぼんやりしていた意識が一気に浮上する。
ふわふわした気持ちは一気に現実に戻り、背中を冷や汗が伝う。
ちらりと視線を戻した先で、責められている二人が口角をあげる。


「もうちょっとだったのにぃ」
「押しに弱いところもキュートだな」


ぺろりと舌なめずりをする二人に、背筋が凍りついたのは仕方のない事だったかもしれない。




六万打企画のフリーリクエストでした!

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うたかた