ふつかめ
「あ、なまえおはよぉー」
眠れないかも、なんていじらしい心配はよそに、すっかり爆睡をかましていたらしい。
目を開いて飛び込んできたのは、ふくふくの柔らかそうな手のひらと、カーテンの隙間から差し込む太陽だった。
「おはようなまえ!」
「おはよカラ松ー」
「いやー、ヨダレ垂らして寝ててマジびびった」
「ヨダレ垂らしてたのはおそ松でしょ!適当言わないで!」
へらへら笑うおそ松に怒ってはみたものの、反省する様子なんてなく。
朝から元気なちびっこたちを受け止めながらおそ松を睨んでも、返ってくるのは笑いだけ。
「ウソだって、可愛かったから怒んなよ」
「は」
ぽん、と私の頭を撫でて背を向けたおそ松の呟きは、しっかりと私に届いてしまった。
カラ松のどこへ行くんだ、の声に、おそ松はタバコー、とだけ答えて、さっさとベランダの扉を閉めてしまった。
「は、はぁ?!」
可愛かった、なんて、そんなこと思ってもないくせに、とか、おそ松に言われても嬉しくないから、とか。
いつもなら出てくるはずの軽口は全く出てこなくって、おそ松の背中を見つめることしかできなくて。
もごもごと口をつぐむしかできない私を、ちびっこたちが不思議そうに見上げていた。
***
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「はい、おそまつさまでした」
「食った食った」
トーストにジャム、ゆで卵とサラダ。
簡単な朝食を済ませて、おそ松が洗ってくれた食器を手ぬぐいで拭く。
「うわやべ、袖濡れるわ、ちょっとまくってくんない?」
「はぁ?」
「俺スポンジもってんだもん!」
ずるずると下がってきた袖を折り曲げてやれば、おそ松はありがとー、なんてへらへら笑う。
「適当にまくるからじゃん、カラ松みたいに折りなよ」
「めんどいじゃん、一瞬だからいけっかなって思ったんだけどなー」
ふんふんと聞こえてくる鼻歌は最近よく流れているCMソング。
今から聞こえるちびっこたちのきゃらきゃらした笑い声。
なんだか悪くないなあなんて、我ながら単純だな、と笑えてくる。
「なまえちゃんなぁに笑ってんの」
「なんでもないですぅ」
「思い出し笑いってエロい奴がするらしいよ」
「おそ松じゃないんだからそんなことしませんー」
「言うじゃん」
最後の皿を洗い終えたおそ松が蛇口をひねって、腕まくりを元に戻す。
「ちびっこたちにジュース持ってったげてよ」
「おー」
コップを7つとペットボトルのジュースをお盆に乗せたおそ松が、ちらりと私に視線を投げる。
「?なに?」
「いやー、んー」
「何なの」
「なんか家族みてえだなって」
ぽつりと聞こえた答えは、やっぱりおそ松も恥ずかしいことを言った自覚があったんだろうか。
そそくさとちびっこたちの元へ向かった赤い背中。
「ば、かじゃないの」
私の言葉が聞こえていたかどうかは知らないけれど。
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