いちにちめ・4


「んむ」


なんだか身体がおもい。
うとうとまだ半分ほど眠りの中な脳みそをなんとか回転させて、そういえば松野家にお泊まりしたんだっけ、とまあ、そこまでは思い出す。

ちびっこにご飯を食べさせて、おそ松が交代でお風呂に入れてくれて、グッタリしたおそ松を労わって。
まだ寝たくないと暴れるちびっこを二人がかりでなんとか寝かしつけた頃には、私とおそ松はもうすっかり疲れきっていた。

くたくたの身体を引きずるように風呂場に向かったおそ松と、今日の御褒美にと冷蔵庫からチューハイを取り出した私と。
風呂を上がったおそ松がずるいずるいと騒ぐのを無視して、入れ替わりにお風呂に向かった。
松野家のお風呂を借りるのなんて十何年ぶりだったけれど、あるものを適当に使わせてもらった。
甘い香りのするシャンプーとコンディショナーはトド松のものだったんだろうか。

お風呂から上がると、おそ松はものの30分ほどでビールを何本もあけていて、赤い顔でケラケラ笑っていた。こ、こいつ。


『あがったのー?』
『飲みすぎじゃない?』
『んえー、疲れたもぉん。飲まないとやってらんないってぇ』


酔っ払いのこいつは面倒くさい。
わたしもさっさと寝てしまおうと背中を向けたところで、腕をぐっと引かれた。


『なまえ髪の毛濡れてんじゃん。仕方ねえなあ、お兄ちゃんに任せなさい』


どこから取り出したのかピンクのドライヤーを片手に、おそ松がニヤニヤ笑う。
遠慮しますと小さく返してもおそ松は私の腕を握ったまま離してくれなくて、結局、折れた私を抱えこむように座った。


『髪なげーね』
『そうかな……』
『なまえ髪綺麗だもんなぁ』


後ろで喋られるとなんか変な感じがする。
おそ松の大きな手のひらは、想像してたより全然優しくて、さらさらと髪を撫でるようにドライヤーを当ててくれる。


『女の子って感じ。変なの』
『変って何』
『えー?だっておれらガキのころからいっしょにいたのにさ』


そんなの、私だって。
おそ松の脚の間にすっぽり収まって、あ、おとこのこだなって、思った。
大きくて骨ばった手のひらとか、私より全然大きい足とか。


『なまえ、おんなのこだもんなあ』


そういったおそ松は、どんな顔をしてたんだろう。
私が返事をする前に、おそ松はおわった!とドライヤーの電源を落として、いつもとおんなじ声で笑う。


『どーよ!カリスマレジェンドの俺にとっちゃ朝飯前ー!』
『わ、すごい。思ったよりまともだ。おそ松ありがとう』
『はー?思ったよりってなんだよ!なまえひっでぇ!』


ギャンギャン騒ぐおそ松を無視して、空き缶を回収する。
こいつ絶対片付けしないし。
流しに缶を集めて、小さくため息をつくと、いつの間にか台所に来ていたらしいおそ松がカラカラ笑う。


『おっし、ねよっか!』
『……』


自分勝手だなーとジト目で睨んでも、おそ松は気にもしない。
私の手をゆるくとって、ささ、と上機嫌に階段を上っていく。
そういえば私、どこで寝るんだろ。


『え、無理無理無理』
『でけー声出すなよ。ちびが起きんだろー』


おそ松がまともな事言ってる。
じゃなくて。


『は?私もここで寝るわけ?』
『全然広いじゃん』
『そ、そうじゃなくてさぁ……』
『あいつら寝相悪いから、なまえはじっこなー』


すやすや寝ているちびっこをズラして、おそ松が寝転がって隣にスペースを開ける。
ひ、ひろいけど。そうじゃない。


『は、わ、わたし別のとこで寝るし』
『えー?ちび夜中に起きたらどーすんの。ワガママ言わねーの』


そのまま有無を言わさず隣に寝転がらされて、気付いたら、寝て、て。
ゆっくりと、覚醒してきた瞼をひらく。
目の前には青が広がっていて、頭上からはぐーぐーと規則的ないびきが聞こえ、て。


「は、わ、わ」


だ、抱きしめられてる。
隣に寝てたのはおそ松だ、だからこれはきっとおそまつで、え、え。
パニックになった頭でそっと腕から抜け出そうとしても、ぐっと腰に回った手は離れてくれない。


「んー」
(ひええええええ)


それどころかぎゅうとさらに強く抱き寄せられて、もうどうしていいのかわからない。
ど、どうしよう。
クソニートだけど、クズだけど、エロいしセクハラ魔人だけど。
だけどあんまり気持ちよさそうに寝てるおそ松を起こすのも忍びなくて、私も気にせず寝てしまおうとぐっと瞼を閉じる。


「……なに…寝れねーの…」


頭上から響いた小さな声に、ビクリと肩が震える。
大げさに反応する私を気にもとめず、おそ松は随分と穏やかな声でゆっくり私の髪をなでた。


「だぁいじょーぶだって……おやすみ、なまえ」


ちらりと顔をあげると、おそ松はふにゃふにゃ笑って、そのまま、またいびきを立てて寝てしまった。


「………………………………………………………………」


なんだか顔が熱くて、頭がぐるぐるする。
ちくしょう、こんなんじゃ寝られるわけないでしょう。
このクソニート、絶対許さない。
心の中で悪態をついて、なんだか腹が立ったので、もちもちのほっぺを軽くつねってやった。
ざまあみろ。

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うたかた