音色にのせて−1


●ヒーロー上鳴×ピアニスト主



個性というものが現れ、才能というものが社会の中であやふやになりつつある。持って生まれた才を才能というわけだが、同じく個性も持って生まれたものだからだ。
個性によっては、ヒーローのように個性の使用を政府に認められた職に就くことができる。また、個性によっては特定の職に就けないことだってあった。

しかし、結局のところ個性というものは人類にとっては+αのものでしかない。超常が日常となった現在においても、やはりそういったこととは関係のない才能というものは厳然と存在するのである。

奏弥は、あらゆる人たちから天才だと言われて来た。それは学問ではなく、音楽の領域においてだ。ピアノ、バイオリン、管楽器、打楽器、声楽に至るまで、あらゆる音楽の才があると称賛されている。
個性が関係する芸術家もいるものの、音楽に限らず芸術というものは身体的なことよりも精神的な部分の影響を受けるものだ。つまり、個性社会となった現代においても、芸術の才能を持つ人々は限られていて、芸術はそうした才能を持つ人々によってけん引されている。

そうした中で新時代のリード役と評されるのが奏弥だ。

無個性と診断された奏弥にとって、そんなことが気にならなかったのは、ひとえに音楽の才能を周りに認められていたからだった。

しかしそれは、奏弥の勘違いだったと気付かされた。



***



「個性診断、ですか…?」



家にやって来た警察に、奏弥は困惑して聞き返した。


晩秋の紅葉も散った寒々しい日、警察が2人、奏弥の家を訪れた。21歳の奏弥は1人暮らしをしていて、そのマンションにやってきた私服姿の警官に突然そんな話をされたのだ。

一応、リビングに通してソファーで向かい合って腰を落ち着かせているが、奏弥としてはいきなりすぎる話に落ち着かなかった。


「一斉診断で無個性と診断されたんですけど…」

「存じています。ですが、顕在化しづらい個性については大人になってから気付いて登録するケースも多いんです」

「つまり、俺にはそうした個性があると踏んでいるわけですね」


有名人の奏弥に配慮してか、私服姿で警察手帳を見せた2人。何かの罪に問おうと思っているわけではないようだ。
しかし、奏弥に対して何らかの疑いがかかっている。


「…先日、コンサートがありましたよね」

「ええ」

「その後、24時間以内に、観客の半分近くが負傷しているんです」

「そう、なんですか…?」

「はい。因果関係が証明されていないのでメディアに対して公表していませんが…」


先日、奏弥はソロコンサートを行った。若い人にクラシックに親しんでもらうためのイベントで、クラシックを中心に様々な曲を演奏して大盛況をいただいた。
警察いわく、その後1日の間に観客の半分が怪我をしたというのだ。


「半分…偶然と言うには、少し大きすぎますね」

「そうなんです。それも、怪我の原因が、階段の一番上からジャンプしたり、駅のホームからジャンプしたり、凍結した道路でジャンプしたり…確実に怪我をすると分かっているような場所で、自ら飛んだことにあるんです」

「なんですかそれ…」


訳が分からない。一様に自分でジャンプして怪我をするなど。幸い、亡くなった者や命に別状あるものもいないようだが、一歩間違えばどうなっていたか。


「…その不可解な現状に、俺の個性があるかもしれない、ということですか」

「そうです。精神に影響を及ぼすタイプのものかもしれないので、良ければ警察病院で診断をさせていただきたいのです」

「…わかりました」


話を聞けば、確かにおかしな話だ。あまりにも不思議なことが多い。無個性というのは、幼少期に気づけなかっただけで、もしかしたら奏弥の思い過ごしかもしれない。
奏弥はおとなしく警察とともに診断を受けることにした。


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