特別な存在−1


●荼毘×ヴィラン主
薄暗いです。平気で犯罪行為をしているので注意。ただ管理人の趣味により最終的には甘くなります。



表の社会にあるものは裏の社会にもある。
闇医者、闇金といった世間に知られているものだけでなく、商人や探偵、薬剤師に宗教団体までなんでもだ。

そして当然、人材派遣会社だって裏の社会にもある。

イズは、裏社会の人材派遣会社に登録する敵(ヴィラン)である。会社といっても、当たり前だが上場しているわけもなく、団体といった方が正しい。しかし組織としての収益体制や雇用契約などは表社会の企業のそれであり、かなり大規模なものだった。
色々と複雑な力関係の働く裏社会、この会社のモットーは絶対守秘、絶対中立。どんな相手であっても取引をするが、どんな相手にも贔屓しない。この手の仕事は、取引相手も変なことをすれば敵対する組織に味方される恐れがあるため、こちらに対して迂闊なことはしないのだ。

イズは17歳にしてこの会社の中でもかなり成績の良い方で、エース扱いである。この個性であれば当然だろう。暗殺から情報屋、マネジメントにアドバイザー、更にはデートに夜のお相手まで手広く仕事ができる。
暗殺と一重に言っても、死体すら残さない「掃除」、自殺や事故に見せかける「偽装」、加害者をも陥れるための「幇助」、組織を丸ごとひとつ全滅させる「殲滅」など種類は様々だ。
また、殺す際には普通に殺すほか、拷問によって情報を吐かせる、なるべく苦しめる、依頼者の前で行うなどオプションもある。

それだけ幅広い業務が可能なのは、イズの個性による。その個性はイグジステンス、どんな場所でも自然に存在することができ、存在しないことができる。

イズが突然ある組織の本拠地に現れても、誰もそれを不自然だと思わない。または、それまでいた組織から永久にいなくなっても、誰も不自然だと思わない。誰も、イズが存在すること・存在しないことに違和感を持てないのだ。

だから、警戒心マックスの対象の目の前に立っても相手は自然に思ってしまい、まんまとイズに殺される。重要資料のある部屋にイズがいても、何も思わず、情報を抜き取られる。
それまで潜入していた組織からイズが突然いなくなっても、誰も気づけない。

どんな場所にも自然に存在することができ、自然に存在しないことができる、それがイズの個性なのだ。



***



「やっぱオールマイトは強いね、死柄木さん」

「うるさい…」


黒霧のゲートによってアジトにしているバーに戻って来たイズは、床に倒れて出血する死柄木にニヤニヤとしながら言った。壊滅的被害は出したものの、天下の雄英に堂々と乗り込んで襲撃したにしては奇跡的な帰還と言っても良いだろう。
グレーのスラックス、白のワイシャツに緑のネクタイと黒のカーディガンという制服のような出で立ちのイズは、カーディガンごとシャツの袖を捲って、激しい戦闘で服についた埃を払ってからカウンター席に座る。心得たように黒霧がコーヒーを出してくれるが、死柄木は痛みに呻いたまま。そちらよりイズのコーヒーを優先するあたり、ここの力関係は面白いと思う。
制服ではあるが、イズは高校に通ったことはない。年齢的には高校生だが、市販の制服を着ているだけである。その方が色々と楽なのだ。

コーヒーに角砂糖をドバドバと投入しながら、イズは転がる死柄木を呆れたように見やる。


「だから無謀だって言ったのに。有象無象の敵集めて乗り込んだって大量検挙に貢献するだけじゃん」

「うるさいって言ってる…!早く応急処置しろ…!!」

「これ飲んだらでいい?」

「失血死させろと言ったわけじゃないだろ…」


はいはい、と言いながらイズは黒霧から応急処置セットを預かり、それを使って死柄木の銃創の手当をしていく。わざと痛むようにしてやれば、死柄木は呻いて力なく殴って来た。

裏社会でも有名なオール・フォー・ワンの依頼で敵連合とやらに派遣されたイズは、その体たらくに少しがっかりする。死柄木が先生と呼ぶオール・フォー・ワンは、かつて超常黎明期にこの国を混乱に陥れたラスボスのような存在だ。
その鳴り物入りの組織というから興味を持って派遣されてみれば、ザコを連れて雄英に乗り込むというお粗末な計画。

イズは生のオールマイトの戦闘を見学し、ヒーローの卵たちがどう戦うのかじっくりと見て回れたので、それはそれで楽しかったが。A組の生徒たちも、イズが堂々と歩きまわっていても、こちらに攻撃することもしなかった。当然だ、イズがそこにいることに違和感を持てないのだから。攻撃対象だと認識することすらできず、目線が素通りしてしてしまうのである。

オール・フォー・ワンいわく、死柄木は成長途中だから温かく見守って欲しいとのことだった。「依頼ですか?」「お願いだよ」と短い会話だったが、本当に食えないヤツだと思う。


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