力の正体−2
悪魔によるものと思われる集団昏倒が発生したのは、京都市下京区の住宅街だった。平安京時代からの道が現役で疲れており、道幅が当時とあまり変わらない地域だ。車線のない細い直線の道が碁盤の目状に交差する。
集団昏倒に巻き込まれた者の中に、正十字騎士團の京都出張所の祓魔師がいたため、それが自然なものではないとすぐ判断できたらしい。警察が動く前に調べることになっていた。
事件が発覚したのが早朝、発生したのは夜だったとのことだ。突発的な事態で、なおかつ規模が小さくはなかったため、念のため腕が立つ者が選ばれた。
志摩家の次男と四男、柔造と金造もそのメンバーに入っている。仏教系祓魔師の独特な服装で、現場となった地区にはいる。
柔造たちが現場入りした頃にはほとんどの被害者が回復して病院から戻ってきていたこともあり、おおむね町並みは通常通りだ。
被害に遭った祓魔師に話を聞くと、夜の内にこの辺り一帯で住民たちが寝ている間に意識を失っていたようだ。朝、ひどく具合が悪いながら昏倒はしなかった祓魔師が家族を起こしに行くと、目覚めず昏睡状態だったらしい。
祓魔師として力があったから昏睡を免れただけであり、かなり消耗していたが、周辺住民も同様に昏睡状態になって混乱が起きていたため、自然な出来事ではないと判断したようだ。
「寝てる間に熱中症や、一酸化炭素中毒になって昏睡状態になるんはある話やけど、それは真夏や真冬のことやし…そもそも、この地区だけ集中していうんはおかしな話や」
厳しい眼差しで町並みを見渡す柔造だが、金造はあくびを漏らす。朝早く叩き起こされて眠いのだ。
「被害者が出た世帯だけ色塗ってみればええんちゃう?なんか分かるかもやで」
しかし考えてはいたようだ。安直な考え方だが、実際、何も分からない今は有効だ。
「なんや、珍しうまともなこと言いよる」
「柔兄、俺褒められて伸びる子やねんけど」
柔造はそれを無視して部下に指示を出す。どうやら同じことをしていた者がいるらしく、それを持ってこさせていた。
金造はちぇ、と悪態をつきながら、日常に戻る街を眺めた。
「これは…またあからさまやな」
地図を見た柔造は、金造に手招きをしながら地図に顔をしかめる。金造が覗き込むと、綺麗に半径100メートルほどの円状に被害世帯が集中し、真ん中だけ何もなかった。
この一軒に、間違いなく何かある。
「千本通仏光寺下ル…なんでまたこないな何もないとこに…」
ぶつぶつと訝しむ柔造をせっついて、金造は「はよう」と促す。さっさと終わらせないと、もともと今日やる予定だった仕事が深夜にずれ込んでしまう。
「やかましわ!」
「理不尽!」
***
6月1日。
すでに京都は、初夏といえどぎらついた太陽が市街地を突き刺すようになった。そして、各学校でもプール開きが始まる。
テストを終えた頃にプールが開くため、どこか季節の変わり目感が強い。
廉造は機嫌良く更衣室へ向かっていた。
「なんか今日機嫌いいな、志摩」
朝祇からの指摘にも、廉造は笑って「分かるぅ〜?」と返す。実際廉造は、今とても機嫌が良かった。
まずひとつ、中間試験が良かった。大体学年の真ん中まで一気に上がった。家族も勝呂たちも、「おぉ…!」と感嘆の声を上げたものだ。
朝祇にスパルタ指導をしてもらったおかげだ。
そして、プール開き。これこそ最大といってもいい。
「いよいよ!夏や!プールやぁ!ワンチャン女子の水着や!!」
「いや、ノーチャンだから。何言ってんだ」
朝祇に冷たい眼差しを向けられるが、そんなことではめげない。
それに、と廉造は横目に朝祇を見る。
ようやく、朝祇の全身の模様を見ることができる。今までは体育の着替えのときにチラリと見るくらいだったが、水泳の授業ならしっかりと見られる。家に連れていくにも、柔造が忙しく暇がない。そのため、廉造がまずはどんなことが模様に出ているか確かめることにしてあった。
しかも、先日の下京区の集団昏倒も、その原因と見られる家が朝祇の家だったのだ。本人は自覚がないようだったが、十中八九、何かあったはずである。
早急に何とかしなければならない。
いったん事件は廉造が朝祇の家であり何か因果があるだろうと伝え、保留になっている。