力の正体−3


当然のように男女分かれている水泳の授業、廉造は朝祇の体をじっと見つめていた。背の順で少し離れたところに立っているため、よく見えるのだ。
今は朝祇は順番を待ってコースに並んでいる。

模様の形、色、配置、文字、それらを正確に記憶していく。全身に広がるそれは禍々しく、改めて異常だ。


(ようあんな模様浮かぶもんやな…かなり強いモンが相手なんやろな、はぁ、めんど…)


それにしても、と廉造は視線を逸らさず考える。


(なんか…全体的にエロない…?)


アールヌーボーのような曲線を描く赤や青、黒の線は白い肌によく映えて、その白さや肌のきめ細かさを際立たせていた。五芒星や漢字、背中の太極図は朝祇をどこか人間離れした神聖なものにも見せる。
濡れた肌がそれを一層妖艶なものしていた。


「おいおい志摩、一ノ瀬のこと見すぎやろ」

「え?あぁ、すまん」

「や、謝んでええけど…」


あまりに食い入るように見ていたからか、隣の友人に指摘された。ついナチュラルに謝ってしまう。
友人は苦笑して「まぁ分かるんやけどな」と言った。


「一ノ瀬ってほんまキレーな顔しとるよなぁ…なんや男とか気にならんっちゅうか…」

「あー、それ俺も思ってん。ぶっちゃけいけるやろ」

「みんな同じやんなぁ!」


すると、周りの他のやつらも賛同し始めた。どこか朝祇自身の雰囲気もあるが、顔立ちの綺麗さと表情の作り方などにムラっとくるものがある。
廉造はせやろ、と言いながらもモヤモヤとしたものが広がるのを感じた。何かはよく分からないが、だんだん機嫌が悪くなっていることだけは分かった。

そこへ、泳ぎ終えたらしい朝祇が帰ってきた。水泳帽を取り、ボサボサの髪をそのままに廉造たちのところに加わる。


「お疲れさん」

「おー」


廉造が労うと、生返事をしながら朝祇は前髪から髪をかきあげた。オールバックのようになり、水滴がうっとうしいのか目を細める。それが、たまらなくエロかった。

思わず全員が無言で朝祇を凝視する。さすがに気になったのか、朝祇は身じろいだ。


「な、なんだよ…」

「いやぁ…一ノ瀬俺と気持ちいいことせん?優しいで?」


いち早く復活した男子がそう言いながら朝祇を腰に手を伸ばす。
瞬間、廉造は動いていた。


「……触らんといて」


気がつくと、その腰を抱き寄せて自分の腕の中に囲ってそんなことを言っていた。直に触れあう部分が熱を持っているようだった。

廉造の低い声に再び場が静まり返る。


「…なんちって」


にへら、と廉造は笑い、「かっこよかったやろ〜」と内心慌てて取り成した。自分でもなぜこんなことをしたのか分からない。
場の空気は弛緩して冗談を言い合う空気に戻ったが、聡い朝祇は怪訝な目で廉造を見ていた。
体を離して冗談に加わっても、熱が残っているような気がした。



***



少し廉造の様子がおかしい。
水泳で突然抱き締められてから、放課後一緒に帰っているのだが、どこか上の空だ。
あのときは冗談を言って和ませていたが、あの目付きは冗談で済ませられるようなものではなかった。ただの友達でしかないであろう朝祇にそれほどまでして抱きつきたかった、なんてわけがない。

確かに下世話なことを言ってきたやつは気持ち悪かった。廉造に庇われて、廉造の腕に抱き締められて、安心したのは事実。でも、違和感の方が強かった。

飄々として、その環境故か何かにこだわる様子を見せなかった廉造が、何かに集中して、しかもそれが朝祇だというのは、何とも解せない。いったいなにが彼の琴線に触れたのか。

朝祇はただでさえ考えることが多いのだから変なことをするなと言いたかった。先日の集団昏倒は、黄龍の夢が力を必要として起きたものだったからだ。初回のときは黄龍が最も強い時期だったからそんなことをしなくてもできたらしい。
おかけで唯一被害を免れた家として噂話されるようになった。

これ以上、誰かに迷惑をかけたくない。

だから今後のためにも、朝祇は図書館に通うつもりだ。様々な文献を見て、黄龍が都に封印されたときのことを知りたい。
とりあえず、朝祇はぼーっとし過ぎて電柱にぶつかった廉造を鼻で笑ってやった。


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