京都不浄王編/後編−2


すると、沈黙を妨げるように廊下の外が騒がしくなった。祓魔師たちがドタドタと玄関へ向かっているようだ。


「蝮さんが捕まったてホンマか」

「柔造さんが連れ戻しはったそうや」


勝呂はそんな外からの会話を聞くなり、外へ飛び出した。慌てて廉造と子猫丸が追いかけ、朝祇やしえみ、出雲も続く。


「坊、蝮さんがどうしたん?」

「右目強奪の手引きをしたんは蝮や。柔造と戦ったんやけど、藤堂と一緒に右目を持って消えてもうた」

「えっ!?」


廉造と子猫丸はまさか、というように驚く。朝祇も少し話を廉造たちから聞いたことがあったが、明陀宗思いの女性だったはずだ。
藤堂は、藤堂三郎太といって正十字学園の最深部で左目の管理をしていた祓魔師だった。悪魔堕ちしており、半分悪魔として今回の件を引き起こした。


駆けつけた玄関には、黒服の祓魔師たちが群がっている。ほとんど明陀宗の者たちだ。
ちょうど着いたところで、蝮の声が聞こえてくる。


「先ほど私と藤堂三郎太は、はぁ、はぁっ、奪った右目と左目を用いて…不浄王を復活させた」


不浄王の復活。それは可能性としてちらついていたが、信じられない話であった。
祓魔師たちはざわつき、動揺が走る。


「不浄王は江戸時代に倒された悪魔では!?」

「金剛深山の地下に、仮死状態で封印されとったんや…今、明陀宗座主、勝呂達磨様が…一人残られて戦っておられる…!」


勝呂達磨、明陀宗の座主であり勝呂の父親である。祓魔師ではないながら、明陀宗の座主として誰にも詳しくは知られていない仕事をしているのだそうだが、勝呂いわく真偽は不明。
朝祇にとっても、坊主なのに酒を飲んでいる生臭坊主のイメージがあった。


「どうか、援軍を…不浄王を倒して欲しい…!!」


床に両手をつき土下座の体制をとった蝮に、祓魔師たちはさらに混乱した。非難する者、動揺する者、慌てる者、玄関は混乱が助長されていく。


「今はそんなことを議論しとる場合やない!祓魔は全隊、警邏は一番隊と二番隊、深部は一番まで、不浄王討伐に出発する!!!」


その場を納めて指示を飛ばしたのは、やはり所長たる八百造だった。出張所の祓魔師たちは急いで指示通りに支度をするため散っていく。
人が捌けたところで、勝呂は蝮のもとへ駆け寄った。


「蝮!!」

「竜士様…っ!!」

「お前、右目が…」


恐らく、手に持てない右目を自らの右目に嵌めて行ったのだろう。壊死し、血を流していた。失明は避けられない。


「ごめ、ん、なさい…!おっさまを助けて…!」

「…坊、こいつは俺が医務室まで運びます」

「…柔造、お前はどうすんねや」


勝呂にすがる蝮を支え、柔造が横抱きにして立ち上がる。勝呂にはいつもの笑顔を向けた。


「俺はあとで一番隊と合流します。坊は必ず塾のみんなと旅館へ」


ついで廉造たちの方に向き直ると、恐ろしい形相で怒鳴り付けた。


「廉造ォ!子猫丸!しっかり坊をお守りせぇよ!何かあったらバラすぞ!!」


ヤクザ顔負けのメンチを切って、柔造は蝮を医務室へ連れていった。子猫丸はガタガタと震えている。

やがて辺りには誰もいなくなり、遠くで慌ただしい喧噪が聞こえるだけとなった。
塾生だけとなったところで、廉造が沈黙を破る。


「坊、しゃあないですよ。柔兄もああ言うてたし、俺らは旅館に…」

「おっ、いたいたお前ら!ちょっとこっちに来い!」


そこへ、軽快に駆けてくる足音とともに声がかけられた。全員が振り向くと、シュラが何やら抱えて走ってきていた。
全員でシュラの周りに集まると、シュラはかつてない真剣な眼差しで切り出した。


「さっき、炎を出した件で燐の処刑が決まった」


不浄王復活に続いて、分かっていたが恐れていた事態が発覚した。全員の肩が揺れ、特にしえみと勝呂は動揺していた。


「ヴァチカンの決定だ、覆ることはまずない。そこでだ」


シュラは抱えていたものの中から細長いものを取り出した。燐が持っていた魔剣だ。


「勝呂君、君にコレを預ける!」

「倶利伽羅…っ!」

「それと、親父さんが燐に託した手紙だ。不浄王を倒すには、燐の力が必要だと書いてある。…あいつは協力する気だった。お前たち、燐を助け出してくれないか?」


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