京都不浄王編/後編−3
シュラが去ったあと、勝呂は全員に手紙を音読した。
その手紙の内容は、あまりにも衝撃的なものだった。
16年前、勝呂が虎子のお腹にいるとき、明陀宗は先代までの教えに従って独自の誤った方法で祈祷を行い、封印されきっていない右目から漏れ出した瘴気でほとんどの門徒が魔障を受けて倒れていた。虎子もその一人で、勝呂は生めるかどうか危ぶまれていた。
そこへ、燐と雪男の育ての親であり先代聖騎士である藤本獅郎が襲撃した。目的は明陀宗の本尊である魔剣・倶利伽羅。当初はそれで子どもを殺すと言っていたが、それは後に燐の悪魔としての心臓を封印するために使われる。
藤本の助けにより、伏していた門徒たちは回復し、正しい処置がなされた。その姿勢に共感した達磨が、倶利伽羅を藤本に差し出したのだそうだ。
そして藤本が逃げおおせて少しもしないうちに、青い夜が起きた。
先代座主である勝呂の祖父は、死に際に達磨に不浄王の秘密を教え、達磨は地下に封じられた不浄王の存在を知った。
同時に、代々座主に仕えている悪魔、迦楼羅(カルラ)が継承された。迦楼羅は何かを秘密にすることで生まれる猜疑心などを食らう悪魔で、不浄王の秘密を守ることで門徒から疑心を買う代わりに、不浄王封印のための力を与えた。
しかしその迦楼羅をもってしても、不浄王は倒せない。現段階での復活となると、倒せる可能性があるのは燐の炎だけなのだ。
そんな内容が示されたあと、当然のごとく、塾生たちの間には沈黙が降りた。
すると、真っ先にしえみが動いた。
シュラが置いて行った、迷彩ポンチョという姿を隠すパーカーのようなポンチョを手に取る。
「みんなで燐を助けよう!!」
「いや、助けたいのは山々やけど、それってヴァチカンを敵に回すっちゅうことやで」
廉造は冷静に言うが、勝呂は当たり前のようにポンチョを羽織った。
さらに、子猫丸もそれを手に取る。
「子猫さん!?嘘やろ!」
「僕は坊を守らんと。…それに、僕もきっと後悔するから」
続いて、出雲までポンチョを羽織り、廉造は驚いて叫ぶ。
「えええ!?みんなどないしたんや!!」
そんな廉造に、今朝のようにフェードインしてきた声の主が突っ込む。
錫杖を持って走る金髪。
「どけ廉造ォ!ガキは旅館戻って寝とれ!!フハハハ、明陀の男として華々しく散ったるわ!!」
金造はそう言いながらフェードアウトしていった。他の塾生たちもすでに行ってしまっていた。
「…分からん。明陀宗や後悔やなんやて、俺には全然分からん」
「廉造、俺も行くよ」
「朝祇も行くんかい…」
朝祇は呆然とする廉造の肩を軽くどついて、ポンチョを羽織った。自分では見えているかいないのか分からない。
「奥村がいて、みんながいる塾が、結構好きなんだ。俺は守りたいものが多くて多くて、諦められない。だからさ、廉造」
朝祇は廉造の手を掴む。少し震えているのが分かったのだろう、廉造は優しくそれを握り返してくれた。
こんなにも大人たちが混乱している様を見るのは初めてだった。そして今、京都を、日本を、引いては世界をめちゃくちゃにしかねない悪魔が復活している。
そんな状況が、怖くないわけがない。だが、逃げたくもなかった。
「俺のため、じゃ、だめかな」
「…それなら、喜んで。俺が守るで」
廉造はふっ、と笑うと、ポンチョを着て朝祇を抱き締めた。