力の正体−4




廉造はその日の深夜、柔造と金造に覚えた朝祇の体の模様を図を交えながら説明した。特に大きなヒントになる漢字と五芒星、太極図は詳細に。


「これは…どう考えても黄龍やろ」

「黄龍?」


廉造と金造は揃って首を傾げる。自身の仏教関係すら曖昧なのだ、他のことは頭にない。


「青龍やとか朱雀やとかは知っとるやろ?その頂点におるんが黄龍や」

「そんなもんまでおるんか、虚無界」


金造はなんでもありやな、と呆れたように呟いた。仏教やキリスト教のような明確な宗教と違い、エスニックな伝承・伝説の領域の話だ。


「古代中国で生まれた五行説が軸になっとるんや。世界の元素は5つ、木、火、水、金、土とあって、それぞれがそれぞれを形成し打ち消す。高めたり弱めたりする関係もある。そういうんを合わせると、五芒星の形になんねや」

心臓に浮かび上がった五芒星は、それぞれ元素が対応しあっている様を表している。


「ほんで、物事には良い部分と悪い部分が両方存在する。それが陰陽いうやつで、韓国の国旗の真ん中にあるような太極図がそれを現すんや。黒い方が陰、白い方が陽。それぞれに点があるんは、陰の中に陽があり、陽の中にも陰があるっちゅう意味や」


人の性格が分かりやすい例だろう。
優しいという性格が陽、臆病という性格が陰だとして両方の性格を持っていれば、白黒の勾玉ふたつがくっついたような状態になる。
しかし、優しさはときに騙されやすいという陰の部分があるし、臆病には慎重で安定感があるという陽の部分がある。それが、それぞれの白黒の点に当てはまる。


「それを合わせたんが陰陽五行説や。中国はじめ、東アジア全域で基本的考え方になっとる。陰陽は太陽と月にも例えられるさかい、曜日なんかはもろに残った影響やな」

「月火水木金土日…ほんまや」

わざわざ言わないと分からなかったらしい金造にこっそり呆れながら、廉造は話を促す。


「それで、黄龍はなんで一ノ瀬君にくっついてはりますのん」

「黄龍は土行の象徴で中央の方角を司る。節句は端午、季節は土用の担当や。陰陽五行説から生まれた陰陽道では、勾陳いう生き物に同一や。一ノ瀬君の右腕の漢字は勾陳を表す漢文やね。勾陳は平安京の中央を守護するために、陰陽師に都の真ん中に封じられたと言われとる」


勉強はできないが頭は悪くない廉造だ。話の流れが掴めた。


「一ノ瀬君に模様が現れたんはこどもの日の次の日らへんや。黄龍のいっちゃん力強うなる時期やで」


廉造は確認するように思い出して言った。確かに、朝祇にあの模様が現れたのはこどもの日、すなわち端午の節句。節句とは土用の最終日を指す。土用は季節の変わり目の18日あまりのことを言い、四季の間の土用で季節が変わる。
そもそも担当季節の土用である上、もとから割り当てられた節句の端午を最終日とする初夏の土用ということで、黄龍の力は最も強かったと考えられる。


「でも、勾陳て都の真ん中の守護なんやろ?京都市の真ん中は北区らへんやん」

金造は首を傾げるが、柔造はため息をついた。


「アホ、黄龍、勾陳が封じられたんは平安時代初期の話や。平安京の真ん中は、城郭内で言えば朱雀大路と五条坊門通りの交差する辺りや。それぞれ、今の千本通と仏光寺通やろうが」

「あぁ、ちょうど一ノ瀬君の家がある千本通仏光寺らへんが中心やったんやね。ほんで、力が最も強いときに真上におった一ノ瀬君が選ばれたいうわけか」


なんや災難やなぁ、と小難しい話に飽きたらしい金造はあくびをする。柔造は持ち前の短期で米神をひくつかせるが、深呼吸をして廉造に向き直る。


「なんにせよ、こんままはあかん。すぐに一ノ瀬君呼んで直接確認したあと、出張所で祓うで。廉造、夜魔徳、使えるな?」

「おあつらえ向きやね。任せといてや」


志摩家の本尊であり、使役する者を選ぶ上級仏教系悪魔の夜魔徳は、黒い炎によって焼いたものから憑依した悪魔だけを祓い、憑依されたものに危害を加えない。
廉造は昔その使役する者に選ばれて以来、夜魔徳を使役できるようになっていた。それは、志摩家しか知らないことだ。
それによって、朝祇の中から黄龍を追い出す。

なんて説明しよ、と考えながら、廉造は柔造がうたた寝する金造に怒鳴る声を流して自室に向かった。


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