学園七不思議−2
昇降口、引いてはエントランス中に響き渡った悲鳴は燐の知り合いのものだったらしく、燐は急いで走り出した。朝祇たちも追い掛けたところ、人集りの中に倒れる男子生徒と、尻尾を出して威嚇する燐の姿があった。当然、魔障を受けていない生徒たちには見えていない。
尻尾の他に見えていないだろうものは、燐から逃げていく小さな悪魔だ。歪な四足歩行の悪魔で、絵の具を乱雑に塗りたくったような極彩色をしている。
悪魔が去ると、燐は生徒を担いで保健室へ向かい、チャイムが鳴ったため朝祇たちはとりあえず教室に行くことにした。
その後の昼休み、祓魔塾男子組の5人はいつものように購買戦争を勝ち抜いて中庭にて昼食を取る。最近はこの5人で休み時間に集まるようになった。
中庭と言っても、山の斜面に沿って連なる教会風の建築物に挟まれたところで、中庭自体が斜面下方の建物の屋上庭園を兼ねている。
その緑地の一角で、燐はモサモサと弁当を食べながら男子生徒との経緯を話してくれた。
「同じクラスの後醍院ってやつでさ。最近悪魔が見えるようになったっつってビビってんだ。つーワケで、お前ら悪魔を見えなくする方法って知らねーか?」
どうやら朝に聞こうとしていたのはこのことだったらしい。いつも通りパンを買った勝呂と子猫丸は首をひねる。
「さあな…聞いたことないわ」
「基本、魔障で出来た楔は断ち切れんいうけどねぇ」
「見えてても見えないフリすれば干渉してこないしな」
朝祇たちが答える一方で、廉造はサンドイッチをくわえて庭園の石畳の道を眺めている。女子を見ているに違いない。
「それがあいつ魔障らしきケガしてねーっつーんだ」
「ええ?そないなことあるんやろか」
「後醍院って確か都議の息子やったな。お前の友達なんか?」
「いや。友達になりたいんだ。心優しそうなやつだし」
燐はこれを機に後醍院と友達になりたいらしい。自分のクラスに友達を作ることは大事だ。
そこで、廉造はお目当ての人を探し出せたようだ。
「あっ、めっけ!出雲ちゃーん!!朴ちゃーん!!一緒に食べへーん?」
「っ、いい加減にしてよ!!何が悲しくてあんたらと食べなきゃなんないワケ!?」
「今日も通常運転やね!!」
青筋を浮かべてキレる出雲とそれを宥める朴の図は変わらない。かなり打ち解けては来たが、それでもやはり出雲は明確に壁を作っていた。
そんな出雲に、燐は空気を読まずにでかい声で話し掛けた。
「おーい!出雲!お前悪魔見えなくする方法知らねー?」
悪魔、なんて非日常的な単語をごく自然に言う燐に、周囲の生徒たちが何事かと目線を向ける。
当然のように悪魔という単語を使って活動するメンバーで、そんな言葉がフィクションの域を出ない空間で一緒にいることは、少し倒錯的でもある。
「しっ、知るわけないでしょ!!この…中二病がっ!!」
「お前大声で言うなや!」
勝呂に燐はどつかれ、出雲は怒りながら去っていった。気にしていないのか、燐は弁当を掻き込んだ。
「ちぇっ、結局塾で雪男かシュラ捕まえて聞くしかねーか」
「あっ、せや、忘れとった。今日も休塾やて」
雪男と同じクラスの勝呂は午前中に聞いたらしく、今日も休みになるそうだ。2日連続の休塾とは、今までにないことだった。
「昨日からどうしたんやろ、また何か大きな事件でもあったんやろか」
「うわ、怖いこと言わんといて子猫さん」
そんな子猫丸の言葉は、何となく、あながち間違いでもないような、そんな気がしていた。何か大きなことがありそうな予感が、確かにあったのだ。