学園七不思議−10
「子猫丸!あいつ変だ、あの大きさなのにたった1枚に収まってたとは考えにくいし、もしそうならもっと早くに悪質化してたはず!複数の絵画に憑依してたって考える方が自然だ」
「確かに…それに、『家族の肖像』てのも不自然や…ひょっとして、」
憑依していたのは複数の絵画という可能性、そして『家族の肖像』というタイトルのわりにひとりしか描かれていなかったこと。
よくよくメフィストが言っていたことを思い返す。
「……一揃いって言ってなかった?」
「ちょうど同じこと思っとったとこや!つまり、」
「同じ額縁のやつで、ひとつの家族のセットになってる!」
さっと二人で目を走らせると、思った通り同じ額縁の絵画が4枚あった。しかし話を聞いていた出雲が白狐を使ってそのいくつかを破壊したが、すぐに回復してしまう。
「それなら全部同時にやるのが定石だろ」
「せやね、やったら4人で…」
「いや、タイミング勝負ならなるべく少ない方がいい、神木さんの白狐で2枚だ」
「おん、やったら一ノ瀬君はがら空きになる杜山さんと坊お願い」
「分かった」
朝祇は連射機能によって、炎駒の力を宿して辺りの掃討を図ることにした。子猫丸はすぐに、出雲、燐、廉造に指示を出す。
「神木さんは白狐で上の2つ、奥村君は上の1つ、志摩さんは正面のを、3人でタイミングを合わせて!!」
「とうとう俺の出番か…よぉーしィ行くぞォ!!」
燐が倶利伽羅を抜いて走り出すと、廉造は「ムチャ言う…!」とぼやきながら同じく走り出す。出雲も急いで平手を打って白狐を向かわせた。
燐は高く飛び上がると、大きく刀を振りかぶり大きな声で叫ぶ。
「っせぇぇのぉぉせッ!!!」
4枚の絵画が同時に攻撃を食らったその次の瞬間、絵画と立ち上がっていた本体が爆発し、大量の絵の具が飛び散った。降り注ぐカラフルな雨に制服も顔も汚れてしまったが、どうにか倒せたようだった。
辺りに沈黙が落ちたところで、子猫丸はしゃがみこむ。ホルスターに銃をしまう朝祇、天狗垂を消してバリケードから出る勝呂と片付けるしえみ、白狐を帰らせた出雲、倶利伽羅を鞘に納める燐、全員がそれを目で追った。
「す、すみませんでした、僕なんかが皆に言いたい放題言うてもうて…」
子猫丸は手を震わせ、同じくらい声も震わせた。しかし、その目は依然として強さを湛えていた。
「でも…ぼ、僕も少しは戦いに参加したかっ…」
「俺は恥ずかしい」
そんな子猫丸を、今度は勝呂が遮った。拳を握り締める勝呂は、しかし優しく子猫丸に語りかける。
「確かに俺はひとりで戦っとる気になっとった。すまん!…お前はよぉ周りを見とるな。参謀が向いてるかもしれへん」
「ぼ、坊…!」
子猫丸の今回のファインプレーに文句のある者などいるはずもなく。緊張が解かれ空気が弛緩したところで、メフィストがピンクの煙とともに近くに姿を現した。
「終わりましたか?それでは、祝・特別任務完遂ということで、もんじゃりますか!」
「あ、あの、何か言うべきところとかないんすか?思うところとか…」
そんな勝呂の質問にメフィストは少し沈黙した後、こう返した。
「若いってイイね☆って思いました」
***
任務後、燐はどうやら交換条件としてメフィストと約束していたらしい、悪魔を見えなくする目薬を受けとるなり、男子寮新館に走り出した。他はいったん、もんじゃをいつも食べる『ぽんちゃん』という駄菓子屋に向かうが、途中でしえみが立ち止まった。
すっかり空は大陽が沈んで暗くなっている。
「わ、私心配だから男子寮で待ってる!」
「…俺も、忘れとったらアレやし」
しえみは燐が心配だと言って、男子寮に迎えに行くらしい。勝呂ももんじゃのことを忘れるかもしれないとこじつけた。後醍院に悪魔とのハーフであることを明かしてしまった燐が、友達になりたがっていた彼ときちんと処理できるか心配なのだろう。しえみはしえみで、それをどこからか聞いたのか察したのか心配していた。
勝呂が行くならと子猫丸と廉造が、廉造が行くならと朝祇も向かう。出雲は瞬時に、メフィストと宝と3人で残されると分かって、一応とこちらについてきた。メフィストと宝を先に向かわせ、残りの塾生一年組は男子寮へと方向を変えた。
夜空の下、初秋の爽やかな風に吹かれながら、街の灯りに照らされて歩く。燐を加えたら、きっともっと賑やかになるだろう。
「なんか、今日楽しいな」
「…せやね、」
思ったままふと口に出せば、隣を歩く廉造はそう静かに返した。その様子に、朝祇の中の"想定"はもっと確かなものとなってしまった。
――――"そのとき"は、もう近い。