学園七不思議−9
「神木さん」
「な、なによ」
子猫丸はきちんと全員のことを言うつもりらしい。それだけひとりひとりを始めると見ているということだ。
「なんであえて僕らと距離をとらはるんかは分からんけど…戦いではその癖やめてもらわんと」
「…っ、」
日常でも戦いでも一本線を引く出雲。協調が何よりも大事な祓魔師にとって、特に戦闘時にそのようなことをするのは自殺行為だ。
「杜山さんももっと自信持って!」
「はっ、はい!」
「ここにおる誰にも引けとらん力を持ってるんやさかい、もっと皆に対等に意見言うてええと思う」
手騎士ながら医工騎士の役割を果たしてくれるしえみは、その行動がいつも皆を助けてくれていた。自信がなくて使い魔を呼べなかったことを、不浄王との戦いの前半で悩んでいるようだったが、しえみは確実に成長していた。
「宝君は…放置します」
宝は離れたところにある椅子に座っていた。悪魔には何の影響も受けていないようで、子猫丸は飛ばす。
「奥村君は…僕らが全員奥村君頼みになって、いざ君に頼れへんってなったときどうするん?」
「えっ?」
「僕らにバカでおれ言うんか?」
「ち、違う!」
燐を頼れなかったときとして、あのオカマゴーストが直近の例だ。たとえ青い炎があっても、物理攻撃が効かないのなら意味がない。
「僕らも強くならなあかんねん。せやから、少なくとも僕らとの戦いでは、僕らの"切り札"でおって欲しい」
「切り札…?」
「切り札は戦いの最後や決め所で出す最強の手札のことなんや。それに…切り札があれば、戦闘中皆の心の支えになる。奥村君にはそういう存在でおって欲しいんや」
「…分かった」
騎士であれば、たとえ倶利伽羅を抜かなくても戦える。前衛として、燐と廉造が近距離で戦い、出雲と朝祇が中距離でそのフォローと背後への防御となり、子猫丸と勝呂が詠唱、しえみがヒーラーとして後衛に回る。これが、このメンバーでの理想といえる。そして、いざというときに燐がサタンの力を解放するのだ。
「皆さん、今回は僕に作戦の一切を任せてください。お願いします!」
バッと頭を下げた子猫丸に異を唱える者はいなかった。
「分かった。やってみせてみぃ!」
最後に勝呂が言えば、子猫丸は強い意思を持った目で頷いた。
すぐに子猫丸は指揮に入る。
「じゃあ杜山さん、まず目木科の植物を出せますか?何でもええです」
「うんっ」
しえみが頷くと、緑男が目木科の植物を腹からバサリと出現させた。この緑男も、京都での不浄王との戦いの最中でしえみが強い覚悟を示して、林間合宿以来呼び出せなくなっていたのを再び使役できるようになったものだ。
「まず、この目木の実を使うて精神覚醒の呪いをかけます」
木の実を額につけ、勝呂が人差し指でそれを押さえて「コクリコ キッキレー!」と唱える。これによって、擬態霊の幻覚にかからなくなる。
こうして、いよいよ擬態霊の本体を直視できるようになった。
全員でそちらを見ると、吹き抜け2階分を優に越す巨大な絵の具の塊のようなものが立ち上がっていた。
それを見て、朝祇の中に最初からあった疑念が頭をもたげた。
子猫丸が燐と廉造に勝呂をザコから守るよう指示し、しえみがバリケードとして天狗垂を出現させている間に、それを考える。
この擬態霊、階級は確かに下級だが、あまりにでかいのだ。そして思い出すのは、なぜあの絵を『家族の肖像』と呼ぶのかということ。それともうひとつ、擬態霊の影響が出た時期だ。
メフィストは「私のコレクション」と言っていた。つまり、それなりに昔からこの部屋にあったはず。
だが、擬態霊の本体は大きく、下級とはいえあんな小さな絵画に憑依しきれるのか謎だった。仮にできたとすれば、その絵画1枚当たりの悪魔の大きさが釣り合わないため、もっと早くに悪質化していたはずなのだ。しかし悪質化して七不思議となったのは最近のこと。
『家族の肖像』というタイトル、本体の大きさ、悪質化の時期、どれをとっても不自然である。
「またお姫さまポジションだな」と燐にからかわれてキレる勝呂、略式でないたまゆらの祓いを出雲に頼む子猫丸、その様子を見ながら考えていると、こういうことを皆にシェアするよう言われたのだと思い至る。
ちょうど、たまゆらの祓いをしても元に戻ってしまったのを見て、朝祇は辺りのザコを銃で掃討しながら子猫丸に伝えることにした。