学園祭と″そのとき″−3


次の日、まだ9月なのに突然秋めいた涼しさの朝を迎えた。勝呂と子猫丸はそれぞれベージュと黒のベストを、朝祇と廉造はそれぞれ白と黒のカーディガンを着て登校する。


「夏から秋になるときて、ネクタイしとらんかった時期の後やからネクタイしたなくなんねや」

「あー、それ分かる」


ネクタイなしの期間に慣れていたから、廉造も朝祇もネクタイをしたくないと感じて着けてこなかった。優等生の勝呂と子猫丸はきちんと締めている。
朝祇に至っては少し暑く感じたため、ワイシャツの第2ボタンを開けてシルバーネックレスをしている。ちょっと不良っぽくなってしまった。

そうやって歩き始めると、勝呂が廉造にソファーにエロ本を置きっぱなしだったことを説教し始めた。朝からお父さん全開である。
その後ろで、朝祇は子猫丸とのんびり歩いた。


「そういえば一ノ瀬君、なんや昨日から元気あらへんように見えるんやけど…大丈夫?」

「へ…あぁ、ちょっと寝不足でさ。勝呂と同じく、称号2つ志望してるし」

「せやったね、体調は気を付けなあかんよ」

「おー、ありがと」


咄嗟についた嘘は、あながち間違いでもないことだ。3ヶ月後に迫る認定試験に向けて、手騎士と竜騎士を目指す朝祇は勉強に追われていた。
だが、明らかに子猫丸が指摘したことは、一昨日の廉造との話によるものだ。気を付けないとな、と思ったところで、前を歩く2人が立ち止まった。


「え、どした?」

「朝祇の靴箱んとこで女子が喧嘩しとんねん」


前の廉造はそう言いながら、昇降口のC組の靴箱を指差す。それを辿ると、女子2人が開いた朝祇の靴箱を前に口論になっていた。近付いてみると、その内容がすぐに分かった。


「一ノ瀬君の靴箱に先に着いたの私じゃん!」

「関係ないじゃん!早い者勝ちなんてルールないし!」

「諦めなさいよ!私が手紙入れるんだから!」

「入れるくらい順番とかないでしょ!?」


2人が持つのは可愛らしい手紙。正真正銘、ラブレターというやつだろう。恐らく、学園祭の後夜祭として行われる学生向けのイベントが、通称ダンスパーティーとして男女のペアでないと入れないことから、そのパートナー探しをしているのだ。
最近カップルが急増し、告白が増えていることもそうだろう。


「…モテる男はつらいな、一ノ瀬」

「うるさいよお父さん」

「誰がや!」

「俺の朝祇やのに…」

「分かったから…はぁ、めんど」


朝祇は仕方なく、先陣切って靴箱に向かった。後ろに3人ともついてくるのは、同じ靴箱の廉造はいいとして残る2人は野次馬だ。
他にも口論を眺める輪ができていて、そこを突っ切るのは勇気がいる。
不浄王よりマシ、なんて思いながら、朝祇はその輪を抜けて2人に近付いた。


「…どうしたの?」

「っ!一ノ瀬君!?」

「ごめんなさい、どうしてもこれを渡したくて…!」


2人は慌てて取り成しながら、手紙を差し出す。野次馬たちはザワザワと噂していた。こんなの公開告白のようなものだ。女子の中には、この2人を睨み付ける者すらいた。面倒だな、と心底思う。


「あー…ダンスパーティーのこと、かな?」

「そ、それもあるし…えと…」

「い、色々伝えたいことも…!」


恥じらう2人は可愛らしい。あまり時間をかけてあげたくないし、今後同じように声をかけられるのも面倒だ。
そこで、秘策に出ることにした。


「そっ、か…実はね、兄貴が、最近入院してさ…その、学園祭の2日目の夜に、手術なんだ…」

「えっ…」

「…正直、そのことで頭がいっぱいで。君たちのこと、しっかり考えてあげられる自信がないんだ。ダンスパーティーも、行かないし。…だから、」


無理に笑おうとして失敗したような、そんな下手くそな笑顔を、少し首を右下に傾けて浮かべる。これで優しい女の子たちはすぐに身を引いてくれる。


「いっ、いいの!私たちこそ、ごめんなさい、勝手なことばかり…!」

「本当にごめんね、一ノ瀬君!他の子にも言っておくから、ゆっくり体を休めて!」

「私も手伝う!一緒に手分けしよ、」

「うん!」

「…ありがとう。すごく、嬉しいよ」


本当にいい子たちだなぁ、とほっこりとしてしまって、思わず素で笑ってしまう。少し変り身が過ぎたかとすぐ焦ったが、2人は顔を赤くして「じゃあ!」と去っていった。


「…あかん、俺行きとぉなくなってきた。朝祇魔性すぎや」

「なに言ってんだ」


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