学園祭と″そのとき″−13


するとそのとき、上空にカッと眩い光が輝いた。魔障を受けていない人々にはまったく見えていないようで、魔障を受けたものだけが、辺り一面に光を投下する存在に気付いていた。魔障を受けていないだけでこの光に気付かないのだ、不思議なものである。

私服で隠れていた警邏隊の祓魔師たちが慌てているのが視界の端に映る。光は徐々に形を成していき、翼を広げる7つの目を持った悪魔となる。いや、"悪魔"と呼ぶには矛盾のある名前ではある存在だろう。

光の王の眷属、熾天使(セラフィム)だ。

遊園地上空の他、学園の周囲を囲むようにしていくつも空に浮かんでいた。そしてその熾天使から、声がスピーカーのように出力される。


『初めまして皆さん。このように強制的に声をお届けする無礼をお許しください。私は啓明結社イルミナティの総帥、光の王ルシフェルです』


光の王ルシフェル。サタンを除けば、虚無界の最高権力者である。その次に時の王サマエル、つまりはメフィストが来る。


「おい、何が起きてる!?」

「熾天使…それにルシフェルだと!?いったいこんなことが…!?」

「横浜出張所はどうなってる!応援は!」

「ヴァチカン本部や国内の全出張所…いえ、全世界の支部でも熾天使が確認されています!全地球レベルです!!」


祓魔師たちは人目を気にせず怒鳴り合う。この光が見えていない人々は訝しそうにそれを見ていた。声はなおも続く。


『私達イルミナティは第1段階として、あなた方正十字騎士團に宣戦布告しに来たのです。まず1年を数えぬうちに私達は、父上である魔神サタンを復活させます』


聞きながら、朝祇は地面に指を置いて黄龍の力を使う。そして、任意の人間の場所を探った。地中から学園内を辿れば、展望台にメフィスト、燐、勝呂、雪男、子猫丸、しえみがいるのが分かる。その近くの路面電車線路にシュラもいた。
そして展望台には、廉造と出雲もいる。どうやらルシフェルもそこにいるようだ。


『そして二つに分かたれた物質界と虚無界を一つに融和し、光と闇が生まれる以前の無へと帰す。そうすればすべては苦悩から解き放たれ等しく調和する。世界に真の平和が訪れるでしょう』


それは事前に聞いていた通りの目標だった。二つの世界の融和、という訳の分からない目的。そんなもの、虚無界に併合されるだけだ。


『この意志を否定する者を、私達イルミナティは容赦しません。しかし、耳を傾ける者にはいつでも門戸を開きましょう』


そうしてルシフェルの声は止んだ。やがて、展望台からはヘリコプターが飛び立つのが見えた。園内の騒々しい音楽に埋もれながら、その運転音も聞こえる。

そして、熾天使は突然光を強くした。その熱量はもう限界値となっている。朝祇はそのときに備えて身構える。





直後、熾天使は膨張とともに、一斉に大爆発を起こした。
それは魔障に関係なく空気を揺らし、衝撃波を町中に浴びせる。爆発音とともに強風が吹き付けると、園内の人々は悲鳴を上げてしゃがみこんだ。地面が揺れ、テントが倒れて照明器具が地面に叩きつけられる。ライヴ会場の骨組みの一部が崩壊する鉄骨の甲高い音が響くと、しゃがんでいた人々やアーティストが走り出す。

同時に、倒れたテントから火の手が上がった。さらに、浮かんでいたバルーンが燃えながら力なく落ち始め、火の塊が近付いてくる付近の人々は悲鳴を上げながら走り始めた。

二方面からの群衆の避難は、あっという間に狭い園内をパニックに突き落とした。街のあちこちから黒煙と火の手が上がり、悲鳴や怒声が満ちる。
警邏隊の祓魔師たちが逃げ惑う人々を誘導し、落下してくるバルーンを何とかしようと走った。
さらに、どこかの火災で電線がやられたのか、下層一帯が停電した。暗くなり足下が見えなくなったことで、一斉に悲鳴が大きくなる。


「玄冬が瑞獣、毛蟲が長、冀うを聞くは其の礼徳の大なる故ならずや」


朝祇は角端を呼び出すと、空を指差す。光とともに現れた黒い角端は、混乱を見ても動じない。


「あの燃えてるやつを消し飛ばして欲しい」

『…分かりました』


しかし同じく動じていない朝祇に、角端は疑問を持ったようだったが、すぐに空へと駆け出した。こんな事態になっているというのに、不思議と心は凪いでいた。

夜空を見上げても、星は見えない。代わりに、結界がすべて破壊された学園に、大量の悪魔が群がってきているのが見えていた。


142/187
prev next
back
表紙に戻る