学園祭と″そのとき″−12
夜。
一般客は学校施設から出払い、学生向けの後夜祭であるダンスパーティーが始まった。場所はメッフィーランドであり、いつもより華やかに電飾が輝いている。空には巨大なバルーンが輝きながら浮き上がり、学園町中が電飾で彩られていた。
そんな夜に、朝祇は寮の自室で勉強していた。勝呂と雪男は誘いを断るために後夜祭のスタッフとして仕事をしている。廉造も結局誰も誘えなかったためにスタッフとして遊園地にいた。
燐は園内に再び出店しているらしく、しえみも実家の仕事で花を卸すため遊園地にいるそうだ。
3年の先輩に誘われた朴と写経愛好会の女子に誘われた子猫丸は参加者として楽しんでおり、出雲は寮で朝祇と同じく勉強、シュラは警邏隊として園内にいる。
すべて塾で聞いたことだ。
外からは学生たちの歓声が響き、遠くまで音が伝わるベースやドラムの音が聞こえてくる。
遠くから聞こえる祭の音を聞くと心が何となく逸るものだが、今は別の理由で緊張している。なぜなら、廉造が言ったことが正しければ、もうすぐイルミナティが動き、廉造は学園を去る。
メフィストの差金なのだから止めようとは思わなかったが、それが正しかったのかは分からない。
何も、分からないのだ。今この現状では。
『…朝祇、来るぞ』
(黄龍が分かるってことは…まさか、光の王?)
『あぁ。まさか、本人がわざわざ来るとはな』
(いよいよ、か…着替えよ)
そろそろ何か動きがあるだろう。念のため、すぐ動けるよう部屋着からジーンズとパーカーに着替える。
その読み通り、携帯が着信を告げた。すぐに出ると、相手はシュラ。
『こちら霧隠シュラだ。候補生に緊急任務なんだが、今どこにいる?』
「寮にいます。何があったんですか?」
『詳しいことは後だ。いいか、神木出雲を捜せ。これはヴァチカンからの任務だ、くれぐれもメフィストや他の祓魔師には言うなよ』
「…分かりました。男子寮から遊園地まで、捜しながら向かいます」
『頼んだ』
言うや否や回線は切れる。ヴァチカンからということは、メフィストとは違うところでこの件が明らかになったということだ。イルミナティは別に、日本を本拠地としているわけではない。恐らく本部にもスパイがいたのだろう。
どう動くべきか。調べようと思えば、黄龍の力ですぐに学園町のどこにいるか分かる。しかし、そうやってシュラたちをすぐに現場に向かわせることが得策なのだろうか。
廉造のやろうとしていることを成功させなければ、廉造のスパイとしての役回りは失敗する。それは避けるべきだ。
今は、なにもしないのがベターなのかもしれない。それでいいのか、と思う自分がいるのは確かだ。だが、大局が分からない今はどうしようもない。
ヴァチカン、イルミナティ、そしてメフィスト、この三者の動きが分からなければ上手く動ける自信はなかった。
朝祇はとりあえず寮を出て、遊園地に向かって歩き出す。
外に出ると、一層遊園地からの音が大きく空気を揺らしているのが分かった。
電飾が街灯と街灯を繋ぐようにして道路を横断している下を歩いていくと、ゆらり、と空気が揺れた。それは遊園地の音によるものではない。場所は展望台の方からだ。
直後、再びシュラから電話が入る。
『一ノ瀬、展望広場前の路面電車駅に来い!』
「了解です」
やはりすぐにぶつりと電話は切れる。
しかし朝祇は、上層の展望台ではなく、そのまま下層の遊園地に入った。
着飾った生徒たちでごった返し、様々な音で溢れる。陽気な音楽があちこちから流れ、ライヴ会場からは歓声が間近で聞こえた。そんなカオスのような遊園地の騒ぎとは別に、上層からは上級悪魔の気配がする。
『始まるぞ、気を付けろ』
(…分かった)