島根イルミナティ編/前編−2


第二ターミナルから青い翼の飛行機に乗り込み、窓側の2列に勝呂と子猫丸、その前に宝と朝祇、子猫丸と通路を挟んで横の3列にしえみ、雪男、燐が座る。島根は今まさに"神在月"、機内は観光客でそれなりに賑わっていた。

やがて離陸し、水平飛行に入ると、雪男から現状説明が行われた。その合間にしえみは作ってきてくれたのだという弁当のサンドウィッチを配る。

世界中の正十字騎士團施設が熾天使の攻撃を受けたという話の他、イルミナティについての説明もしてくれた。


「イルミナティは200年以上前に設立された有名な秘密結社のひとつです。…が、現代では間違いなく消滅が確認されていました。自称イルミナティはごまんといますがね」


本来的なイルミナティとは18世紀、バイエルン選帝侯領の大学で実践哲学を教えていた教授が始めた秘密結社である。
16世紀より宗教改革によってプロテスタントが台頭し、1755年のリスボン地震と啓蒙主義の流行、産業革命、そしてフランス革命と激動の変革期において、宗教に囚われず人間の理性や倫理によって友愛の連帯を作れるとするフリーメイソンが現れた。フリーメイソンは怪しい組織だと感じる者も多いが、実際は人類愛をもって人類の連帯を目指す人々であり、近代オリンピックやボーイスカウトはフリーメイソンによって形成された。
フリーメイソンがまゆつば物として扱われるのは、その友愛の思想を独自に展開した人々が新たに宗教団体を設立し、それが新興宗教としてしばしば問題を起こすからである。
オリジナルのイルミナティもそのひとつであり、バイエルン選帝侯やローマ教皇によって活動を禁止されるまで、たった数年しか本体は存在しなかったとされる。日本ではバヴァリア幻想教団と訳されたこともあり、余計胡散臭いものと思われていた。


「騎士團は世界中の結社、悪魔主義、反人間団体を監視してるんです。ところがこの十数年、大小問わず悪魔絡みの事件でイルミナティの名を聞くようになり、騎士團もその実態を調査していたはずです。それがまさかこんな巨大なテロ集団だったとは…」

「テロ集団……志摩さんは、そないなとこに行ってしもたんか…」


子猫丸は沈んだ面持ちでぐっ、と拳を握り締めた。真面目すぎる、なんて廉造がよく評していた通りだ。


「…何が参謀や、僕は何一つ志摩さんのこと分かっとらんかった。みんなのこと人一倍見てる気ィでいた自分が恥ずかしい。……て、笑顔で去ってく志摩さんを見たときはそう思っとったけど、でも、僕は……」


しかし子猫丸は少し顔を上げて、迷いのない目になった。不浄王と燐のことがあったあと、子猫丸も確かに変わったのだ。真面目すぎるだけではない。


「子供の頃から見てきた志摩さんを信じる。僕自身の目を信じる。…そのくらいの自負心持っとらんと参謀なんて目指されへん」

「そ、そうだよ…!」


そんな子猫丸に、しえみもしっかりとした声で通路を挟んで子猫丸を見詰める。


「わ、私は、三輪君に言ってもらったこと的を射てたもの!だから、きっと…!」


これまで、どちらかと言えば自身の軸が定まらずぶれていた2人が、それを悩みとしながらも今まで頑張ってきて、そしてこうして自分の価値観を通している。間違いなく、2人は成長したのだと思う。


「…じゃあそろそろ、しえみの弁当でもいただこうぜ!」


そこで、ずっと黙っていた燐がしんみりとした空気を払拭するように言った。
食べ始めていた勝呂を除き、全員包みを開けてサンドウィッチを取り出す。やたら葉物が多いのは気のせいだろうか。


「あの…味は良くないと思うけど体にいいから食べて!」


しえみの次の課題は料理だろう。舌から突き抜けたとんでもないフレーバーに、そんなことを思った。


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