島根イルミナティ編/前編−7
「っ!?ゾンビか…っ!!」
朝祇はすぐにホルスターからグロック18Cを取り出し、実弾を発砲した。最近はようやく、安定して実弾を放てるようになった。
正確にヘッドショットを決めると、ゾンビは倒れる。
グールとゾンビ、それは悪魔になる課程と形質に違いがある。
グールは墓場などの死体に憑依する悪魔で、普通は致死節を唱えるか動けなくなるまで攻撃を加える。
一方ゾンビは、生きた人間に悪魔が憑依し体が壊死したものだ。食人性がある攻撃的な悪魔で、脳幹を破壊しなければならない。
最大の違いは、ゾンビは脳や声帯が無事であれば喋ることができ、元は生きた人間であるということだ。その境い目は、常に騎士團でも論議が続く。
「…ぁあ…」
「…、嘘だろ、脳幹は破壊したはず…!」
だが、ゾンビは再び立ち上がった。正確に脳幹を撃ち抜いたはずなのにだ。さらに、廊下や他のテナントからもゾンビが歩いてきた。動きは遅いが数は多く、しかも脳幹を破壊したのに動くとなれば、囲まれたら終わりだ。
もう一度最初のゾンビの脳を撃つ。頭の上半分を吹き飛ばした。しかしゾンビはなおも立ち上がる。
元は生きていた人間、その頭を撃っているのだという意識が、手を震わせた。
「な、なんで…」
「一ノ瀬!」
そこへ、銃声を聞いて駆け付けたのか、燐と雪男がやって来た。後ろには他の候補生もいる。
「お、奥村先生、これゾンビですよね!?」
「ええ…しかし僕も、脳幹を破壊したのに倒せませんでした。一ノ瀬君もそうだったんですね?」
「は、はい…3発くらい、俺、」
「大丈夫です、落ち着いて」
動揺する朝祇の肩を叩き、雪男は優しく言ってくれた。珍しく混乱してしまったことに気付き、深呼吸をする。こんなことではだめだ。
「囲まれる前に入口を探します。まずはこっちへ」
雪男に連れられ、全員で施設内を走りながら隈無く探す。だが、どんどん増えるゾンビに追いやられ、ついにエントランスの吹き抜けまで戻ってきてしまった。
「アカン!もうどこも囲まれとる!」
「こっちもだめだ!」
勝呂、燐はそれぞれ見渡すが、どこもゾンビで埋め尽くされていた。
「俺のバズーカで1発ぶちかましたらどうやろか?」
「俺も炎駒呼び出すか…」
「中途半端な火力はやめた方がええと思います。即死させられへんと逆に火ダルマに襲われることになる。…奥村君の炎やったら即、灰にできるかもしれへんけど」
子猫丸の言う通り、確実に脳幹を破壊し尽くさなければこちらが不利になる。もしかしたらこの施設には無事な人間もいるかもしれないこともあった。
しかし燐は顔を伏せる。
「…俺は……」
「やるしかない。躊躇すれば僕らが死ぬことになるんだ!」
そう雪男が怒鳴った瞬間だった。
突然、足元の地面が横に大きく動き、体が傾く。その先には床はなく、すり鉢状に傾斜していた。その一番下には穴が空いている。
まるで、蟻地獄のようだった。
「うおわっ!?」
「きゃああ!!」
そこに全員が落下し、穴へと滑り落ちていく。勝呂、しえみ、燐、宝、雪男、子猫丸と落ちていき、やがて朝祇もその中に吸い込まれるように落ちた。
「ぐっ、!」
垂直に1メートルほど落ちたと思うと、真っ暗な中を今度は斜めに滑落していく。何か大きな管の中を落ちているようで、体のあちこちを強打して鈍い痛みが走る。
そして管の中での落下が終わると、ようやく床に叩き付けられた。
「ぐあっ、っ、はぁ、くそ、」
全身の痛みに耐えながら、真っ暗な空間に目を凝らす。
『…まったく、本当に不愉快な場所だなここは』
(何かいるんだな…?)
その次の瞬間、パッと明かりが点灯した。急な光に目を細めると、どうやらコンテナのような箱状の部屋にいることが分かった。そして、落ちてきた管にはすでに蓋がされ、その反対側の壁には檻がある。
その檻はゆっくりと開いていき、何かが這うようにそこから近付いてくる。
粘着質な音と、不気味なうめき声。何か肉質かものがぶつかる軽い音。
そして現れたのは、3メートルはある巨体で四つん這いになった白い人型のような化け物だった。
ような、というのは、腕から小さな腕が、足からも小さな足が生え、腹からは人のものらしい下半身が複数垂れ下がり、顔にはいくつもの不揃いの目や口がついていたからだ。あまりにもおぞましい姿。
その怪物は呻きながら口を開く。
「あ"ぁ…ェア、イギイイ、お、おお、大き、くゥ…なだ、なァ…ァ、ァア"、朝祇、ギィァ…、」
「……え………?」