島根イルミナティ編/前編−6
そこから一同は暗い山道を走り、ゆめタウン稲生へと向かった。バスを待つ時間はないし、潜入するのに敵の交通機関を使うなどもってのほかだ。
息を切らしながら山登りをし、正面玄関近くの林に隠れると、雪男はいったん電話を開始した。相手はメフィストだ。
そこで、ミケが出雲に召喚されて人形を出ていった。それは、出雲が戦わなければならない状況にあるということを意味している。
どうやら、一刻を争うようだ。応援はすぐにはまだ来ないらしい。
雪男は固い表情で候補生を見据えた。
「…皆さん、応援が来ることを信じて正面玄関から突入します。覚悟はいいですか?」
入口は正面玄関とヘリポートしかないらしい。それしかないのだ。全員、覚悟を決めて頷いた。
まずは燐が先頭を切って、正面玄関の警備員の前に立ちはだかる。それに他のメンバーも続いた。警備員は階段に2人、上った先の玄関に複数いる。
「な、なんだ貴様ら!ゆめタウンの住民証を持っているのか!?ここは学生が近寄る場所じゃないぞ、帰れ!」
階段の警備員はそう怒鳴るが、誰ひとり聞いていない。
「兄さん、相手は人間だ、手加減しろよ」
「わーってるって、メガネ隊長!」
言うなりクロが本来の大きなサイズに戻り、階段上の警備員に向かって飛び掛かる。そして、燐は倶利伽羅を抜いて青い炎を纏った。
「くらえ、サタンスラッシュ!!」
剣を横に薙ぐと、炎が真一文字に飛び出し、警備員を揃って吹き飛ばす。クロも階段上の警備員を地面に沈めた。
雪男は走って階段を駆け上がり、麻酔弾を使ってさらに数人気絶させ、勝呂も追い掛けて持っていたバズーカで警備員を突き飛ばした。
ものの1分で片付くと、積極的ではない宝、戦闘要員ではないしえみ、そして殺しかねない朝祇が3人の後に続いて玄関へ向かった。
すると、勝呂が「つかひとつええか」とバズーカを背負いながら言った。
「サタンスラッシュて!」
そしてぶはっ、と噴き出した。つられて朝祇も笑ってしまう。さすがにダサい。
「うるせー!今まで適当にやってた技に名前つけたんだよシュラが!型にはめた方が力使うときイメージしやすいだろってシュラが!」
「くく、まっ、奥村でも覚えられるからいいんじゃん?」
「バカにしてるだろ一ノ瀬!」
島根に来てから初めて笑ったかもしれない。廉造がいない空虚な気持ちが、自然と朝祇を皆の輪から遠ざけていた。今は戦いの場だ、しっかり切り替えなければならない。
玄関を抜けると、そこは大きな吹き抜けになっていた。ショッピングモールとなっているようで、おしゃれなテナントやレストランが5、6階分はひしめいている。賑やかな内装とは裏腹に、しかし誰もいなかった。
「さっきバスに乗っとった人らもホンマにおるんか?敵どころか人っ子一人あらへん」
エスカレーターの稼働音やBGMだけが広大な空間に響いている。それが不気味だった。
「いや、いる。なんかいる。油断すんな」
しかし燐は何かを感じ取ったらしい。厳しい目つきで辺りを見渡した。
「皆さん冷静に。正面切って入った以上、敵は必ず現れます。なるべく離れ離れにならないようまとまって地下への入口を探しましょう」
どう現れるか分からないため、まずは区画ごとに探していくことにした。建物を4区画に分け、一区画内で分かれることで、すぐに互いが駆け付けられるようにするのだ。
奥村兄弟としえみ、宝と子猫丸、勝呂と朝祇で、まずは分かれて地下への入口を探す。
レディースシューズが並ぶ辺りを2人で警戒しながら歩いていく。
「ほんとに誰もいないな…店員までいないのはおかしい」
「普通の建物じゃない、いうんがはっきり分かるな」
静かな空間に2人の声だけが聞こえる。するとそこへ、乾いた銃声が数発響いてきた。拳銃を持つのは朝祇以外に雪男しかいない。
「な、なんや!?」
「行こう」
手筈通り、異常があれば集合する。走り出す勝呂についていくと、途中でテナントの棚の陰に動くものがあった。驚いて止まると、よく注視する。勝呂は先に行ったようだ。
「なんだ…?」
『…これは、』
何かを黄龍が言おうとした途端、陰から正体が現れた。それは、皮膚が爛れ、目が片方なくなり、もう片方が虚ろにこちらを捉える人。いや、人型の何かだ。髪はなくなり、患者服のような粗末な汚れた服を身に纏っていた。
腐ったような外見に、まずは悪魔に目星をつける。
「グールか…?」
しかしその直後、それは間違っていたと分かる。
「…ぁ、に、ぐ、ニク、あ"ぁ、」