島根イルミナティ編/後編−2
「明日精密検査して問題なければ、すぐ使ってあげるからね?出雲」
きゃきゃきゃ、と笑いながら外道院は去っていき、車椅子を押して研究員たちも出ていった。
「大人しうしててな?出雲ちゃん。あのオッサンの研究さえうまくいけば、きっと悪いようにはならんと思うし。じゃ…」
廉造も親衛隊とともに出ていこうとしたが、がし、と出雲に服を掴まれる。
「あんた、まさかこのまま行く気…?」
声を震わせる出雲に、廉造はもう少し説明が必要かと判断した。面倒なことをされないようにするためにも、あえて話しておくことは大事だ。
「あの、少し残ってもええですか?」
「見ているぞ」
「分かってますって」
上司のメガネをした女は、冷たく監視カメラを見据えて言った。まだ信用されていないのだろう。実際、まだ高校生の廉造は夜魔徳を従えること以外に価値はないと認識されている。
親衛隊も出ていくと、部屋には2人だけとなる。何となく、出雲に言われそうなことは分かっているため、ボロを出さないよう気を引き締める。
「あんたは、…あたしのこと、どこまで知ってるわけ…?」
「いやぁ何も?」
嘘だ。騙された神木家を助けようと、吉田マリアというメンバーが月雲を騎士團を通して養子縁組し、出雲も逃がそうとしたところで見つかり、殺されていることまで知っている。
月雲は何とか助かったが、出雲はそれによって祓魔師になってここへ戻るという約束をさせられた。
「あんたいつからイルミナティだったの…?」
「えっと、学園入学するちょい前?」
それは本当だ。中3の秋に上司に勧誘され、それをきっかけにメフィストからスパイの話をもちかけられた。メフィストのスパイとしてイルミナティに与し、この件をメフィストの計画通りに推移させる。
イルミナティのメンバーとしては、不浄王の事件までは藤堂とやり取りし、その後すぐに学園祭で宣戦布告が行われた。
「どうして…!?」
「何もかも嫌で!坊も子猫さんも、兄貴たちも家族も明陀も何もかも面倒臭くて。ぜーんぶ捨ててしまいとうなってもーてん」
へらり、といつもの笑みを浮かべる。これも、本当だ。幼い頃から縛られてきた明陀宗や家族のしがらみから逃れて自由に動くために、メフィストの話に乗ったのだ。
そして俯いてしまった出雲の顔を覗き込むと、突然、強烈な平手打ちを食らった。頬が途端に熱を持ってじくじくと痛む。
「…騙される方がバカだって、知ってる…でも、あたしは、あんたたちを…仲間同士なんだって思ってたのに…!」
先ほどの恐怖に震えるのとは違う、怒りで震えながら出雲は叫ぶ。
「裏切り者!!」
頬の痛みと驚きに一瞬虚を突かれる。だが、すぐにへらり、と笑顔を浮かべた。
「怒るんや!意外やなぁ。出雲ちゃんは俺と似たもんどうしやと思てたのに」
軽くそう言って、廉造は出雲に御守りだという宝が召喚した人形を渡してやってから、外に出た。
裏切り者。言われるだろうと思っていたし、言われて当然だった。
扉が閉まると、その無機質な冷たい鉄に寄り掛かる。
頬の痛みは引きそうにない。
「いってー……へへ、」
ゴン、と扉に後頭部をぶつけ、視線を無理矢理上げる。その頭の中には、もう懐かしく聞こえる声が響いていた。
『一緒に逃げちゃおうよ』
―――朝祇。
『お前の決めたことなら、隣に立ち続けるって言っただろ』
―――――朝祇。
『どこにいても、愛してる』
―――――――朝祇。
今、ここへ向かっているところだろう。離れていても、繋がっている相手がいる。どんな自分でも、受け入れてくれる人がいる。それだけで、たとえ全世界から裏切り者と言われても、耐えられるのだ。
そこへ、目映いライトが廉造を照らす。親衛隊の男たちだ。
「なにをしている。ホームシックにでもかかったのか?」
「…んなまさか」
へらり、と笑ってやった。