島根イルミナティ編/後編−3
翌日、廉造は親衛隊として研究所の最も下層にいた。ここは、光の王ルシフェルが体を維持するために臥している部屋だ。
今日はこれから、ルシフェルを交えて特定の位階以上の者たちでの会議が開かれる。廉造は扉の近くの壁に寄り掛かり待機し、上司はルシフェルの側で控えている。
やがて定刻になると外道院も到着し、全員が揃った。それを聞き、ゆっくりとベッドでルシフェルが起き上がる。
全身に管を繋がれ、管は様々な機械や、背後の液体が水槽の中でボコボコと揺れている装置に繋がっている。そしてイルミナティの上着と布だけを纏っていた。そんな姿であっても、ルシフェルは美しい姿をしていた。
憑依している体ということになるが、ブロンドの髪に端正な顔立ち、宗教画の天使に近い美貌である。
だがその体は、ルシフェルの力の大きさから常に崩壊の危機にある。今も、玉雲の力を使って生み出された不死の薬、エリクサーによって体を維持しているのだ。
「皆には心配をかけてしまいましたね。本当に申し訳ありません」
「あぁあ〜なんとお美しい!!」
すると、外道院は崩れ落ちた。汚い外見のくせに綺麗なものが好きなのだ。
「外道院君、君と直接会うのは初めてですね。私の肉体はこの装置から外れれば瞬く間に崩れ落ちてしまう…こうして素顔を晒すことができるのは、このエリクサー1117のお陰です。すべては君の尽力の賜物。深く感謝しています」
「ぐひぃぃいいっ、もったいなき御言葉!!」
見た目が綺麗なだけでこの傾倒ぶりだ。しかも一応ルシフェルは男である。男女を超越するような外見であればいいということか。
だとしたら朝祇を見せたくない、なんて廉造はぼんやりと思った。
「外道院君、すべて順調ですか?」
「もちろんです!たった今神木出雲の精密検査を終えたところでして…神木玉雲の嫡子なので九尾との適正もバッチリです!この会議後、直ちに劣化した玉雲から出雲への九尾移植に取り掛かります」
「それは何よりです。神木玉雲は藤堂君などの"選ばれし者"(セイバー)を生み出した素材(マテリアル)。より研究が進むことを期待しています」
「はっ、はひ!お任せください!」
外道院は肉厚な頬の汗をハンカチでしきりに拭いながら、さらに笑みを深める。
「じ、実はもうひとつ喜ばしい報告が…!正十字騎士團の刺客として差し向けられたと思われる、サタン様の落とし子とその弟、2人を捕獲しております!」
それには親衛隊の上司も廉造も驚いた。落とし子はもちろんイルミナティでも把握している。奥村兄弟がいるということは、朝祇もいるということだ。できれば来てほしくなかったのが本心だ。
「うん、それは感じていました」
「は、はい!どういたしましょう、殺しますか!?」
「……いえ、奥村燐に関してはそのままにしておいてください。後で直接サマエルに返します」
「なぜです!?サタン様の落とし子は騎士團の切札…いずれ計画の妨げとなる可能性が高い…!」
「そうですね。しかし彼は神である父上のものでもある。勝手な振る舞いは許されないのです」
ルシフェルは燐を警戒してはいるが、何よりも尊ぶサタンの息子であることもあり、下手を打つつもりはないらしい。
手柄としたいらしい外道院は焦り、さらに食い下がる。
「ならば殺さないにしろ監禁し、観察記録をとって研究するのが上策かと…!」
「外道院博士。総帥が"返す"と仰せだ」
そろそろ潮時だ。上司はそう外道院を嗜めた。外道院も悟ったのか押し黙る。
しかし燐がこのまま大人しくしているわけもない。上司はそれを危惧し、ルシフェルも頷いた。いくらイルミナティといえど、あれを倒せるのはルシフェルくらいだ。
だがルシフェルはまだ本調子ではない。体が物理的にもたないだろう。
そこで、ルシフェルは廉造に気付き、こちらに振ってきた。
「君の意見が聞いてみたい。奥村燐と戦って、親衛隊に勝算はあると思いますか?」
「むしろ総帥が出張るより、親衛隊の方が勝算あるかもしれません」
「ほう…なぜです?」
「情に脆いんが、奥村君の長所であり短所かと思いますんで」
後夜祭でも忠告したのだ。これまでと違い、敵は悪魔ではなく、悪魔のような人間たちだ。それを躊躇なく倒せなければ、格下でも負けてしまうだろう、と。
それを聞いてルシフェルは親衛隊に任せることにしたらしい。だが、そもそも今回は別の目的をもってルシフェルはここにいる。そんな事態にはならないだろう。