すぐそばで−2
昼過ぎ、候補生たちは稲生大社近くの 神社に来ていた。神木家の墓陵のようなところらしい。石の階段を上った先に、出雲の母、玉雲も眠っている。出雲はそこで挨拶をしているところだ。
候補生たちはその階段の真ん中辺りで出雲を待っていた。
秋の爽やかな風が吹き抜け、木々のさざめく音が耳に心地いい。
そこで、朝祇は詳しく出雲のことを聞いた。
出雲の妹、月雲は騎士團を通して縁組されたようで、宝の親戚で宝グループの子会社を経営する家に引き取られたらしい。宝グループそのものがメフィストの所有物であるため、安全な場にずっといたようだ。
幼い頃のことだったため、出雲のことは忘れ、幸せな生活を送っている。
良かったには良かったが、出雲は一人になってしまった。
そこへ、出雲が階段を降りてくる。それに気付いた燐が振り向いた。
「終わったか?じゃあ帰ろーぜ」
「朔ちゃんも待ってるよ」
しえみも微笑むと、出雲は頷いて候補生たちに合流した。
それを見て、考えを改める。出雲は一人ではない。朝祇たち塾生がついているのだ。
階段を降りきると、いよいよ東京へ帰ることになる。だが、燐はため息をついた。
「はぁ、それにしても志摩どーするよ!?俺連れ戻すってメフィストに啖呵切っちゃったよ…」
廉造の名前を聞いて、気が沈みかけたときだった。
「坊!」と呼ぶ低い声がして、全員が境内の入口を見る。そこには、柔造と金造が立っていた。それを見て朝祇は瞬時に察した。同時に驚く。
これから、廉造にまつわる真実が語られる。
「柔造!金造!」
「おとんは今忙しないんで、俺たちが代わりに参りました」
「柔造でもええんや!廉造が…」
勝呂が駆け寄り慌てて喋り出すが、柔造の固い表情と、金造の困り顔に、勝呂は言葉が止まる。他も追い付くと、柔造は男らしく切り出した。
「申し訳ありません、坊。廉造は、俺たちの密偵です」
勝呂は息を飲んで固まる。他の候補生たちも意味するところは理解し、目を見開いていた。驚いていないのは、宝と朝祇だけだ。
「つ、つまり、二重スパイてことですか!?」
「そうや、子猫丸。…今まで黙っとったこと申し開きもできませんが、秘密は最小限にせなあかんかったんです。廉造を守るためにも」
「守る…?」
勝呂はわなわなと手を震わせる。そして、柔造の胸ぐらを思いきり掴んだ。
「俺は見た!あいつらは、イルミナティは人を人とも思わん連中や!バレたら殺されるだけや済まんのやぞ!!なんであいつを巻き込んだ!?」
「…当然反対しました。しかし、廉造が強く望んだことです」
「…んやと…!?」
廉造が、光明財団を名乗る女性から名刺を受け取ったのは去年の今頃のことだった。
騎士團はそういった勧誘を監視していたが、光明財団はこの数年よく聞く名前だったのだという。
ちょうど時を同じくして、メフィストが出張所、というより志摩家を訪れた。実はその用件こそ、当時中3の廉造をスパイとして雇いたいというものだったのだ。
イルミナティが廉造を勧誘したのは、廉造が夜魔徳を使役し、祓魔塾への入塾が決まっていたからだ。戦力になる上、スムーズに騎士團内部に入り込める。
そしてそれは、こちらにとっても同じこと。こちらのスパイとしてイルミナティに入り込んでもらうことを目的としていた。
廉造は早めに自立し、自分の力を試したいと言って反対を押し切って引き受けた。
「廉造がどんな指令を受けているかはフェレス卿しか知りません。何にせよ、廉造はもう俺たちの手を離れたと思てください。この件を知っているのもごく数人…志摩家とフェレス卿以外で言えば、朝祇君くらいです」
その柔造の言葉に、勝呂と子猫丸、そして塾生全員の目がバッと向いた。特に勝呂と子猫丸は信じられない、という顔をしていた。
「なんで…お前…」
「…廉造が教えてくれたんだ。スパイをやるから危険な目に遭わせるかもしれないけど、それでも側にいて欲しいって」
「っ、それでええんか!?こないに危険な目ェ遭わすんやぞ!?」
今度は朝祇の肩を勝呂は掴んだ。胸ぐらではないのは優しさだろう。
「心配に決まってる。…でも、あいつがとりわけ自由な世界に憧れてたの、お前が1番よく知ってるだろ」
「…っ、」
「…勝呂、今の一ノ瀬を責めるのはやめろ」
そこに、燐が割ってはいる。思いの外冷静で、勝呂を引き剥がした。勝呂は、朝祇と廉造が家族以上に深く結ばれていることを思い出したのか、黙って手を離した。
「…すまん、」
「いいよ。…つらいのは、皆一緒だよ。あいつが帰ってきたら1発殴ってやって」
「言われんでも何発か殴ったるわ」
しかしまさか、その日がすぐに来ようとは、思ってもみなかった。