すぐそばで−3


翌日、候補生たちは学園に復帰した。ちょうどテロのあとの休校措置が明けたときでもあったため、欠席にはならない。
祓魔塾も再開し、朝祇はいつも通り、勝呂・子猫丸の後ろに座った。違うのは、隣に廉造がいないことくらい。


「奥村君、遅いですね…」


まだ来ていないのは燐だけで、もう始まろうかというタイミングでようやく扉が開く。全員そちらを向くと、漏れなくぎょっとした。


「みんな元気やった〜?俺志摩どす、おーきにおーきに」


入ってきたのは、ピンクのウィッグをつけたチンピラ。紛うことなき燐である。廉造のふり、なのだろうか。唖然としていると、燐はなおも続ける。


「いや〜今日も塾めんどくさいどすなぁ〜、おっぱいの授業ならいいやねんどすのになぁ〜、おっぱいおっぱい」


しかもめちゃめちゃ下手だ。普通、特に若者は「どす」を使わない。使うのは関東人と同様、ふざけて京都らしさを強調したいときくらいだろう。世代差はあるが、かなり大阪と混じってきている。というかなぜおっぱいなのか。


「さぁアメちゃん配るどす」


そう言って燐は扉近くにいた出雲にアメを手渡した。出雲は思わずといった感じで受け取っていた。
アメを配るなどもはや完全に大阪のおばちゃんと混同している。


「奥村君どしたんや」

「ん?俺志摩どすよ?」

「ヅラ被った奥村君やろ」

「…こらー!!子猫丸!!関西人ならもっと軽快につっこまなきゃだめでしょ!!」


冷静に言う子猫丸に、燐はその形のいい頭をシャリシャリと撫で回す。
ついで、勝呂にもアメを投げつけた。


「元気出せよ!暗くなってみたところで志摩は戻って来ねーだろ!?」


勝呂は無言でアメを受け取ると、怒ることもなく「静かにしてくれ」と言った。正論である。
燐はそれに半泣きになると自分の席で騒ぎ始めた。


「お、俺だって責任感じてんだよ!!くっそぉお!!連れ戻すっつったのに…!!」

「呼ばれて飛び出てジャカジャカジャーン!志摩さんどすえ〜!!」


バタン、という扉の音とともに入ってきたのは、廉造。
今度こそ、候補生たちは二の句も告げなくなった。


「セーフセーフ、て誰!?」

「志摩どす」

「俺が志摩や!」


慌てて最前列に座る燐の隣に座った廉造は、隣のウィッグをつけた燐に驚いて仰け反る。燐はまだ続けるらしい。
朝祇も、他の塾生も、何が起きているのか分からないまま再び扉が開いて雪男がツカツカと入ってくる。


「皆さん遅くなりました!出欠をとります。奥村!…は欠席と」


返事がないため、雪男は欠席につける。その後も何事もないかのように出欠確認を続ける。そして「志摩」と呼ぶと2人分返ってきたのだが、気にせずにいた。


「では授業を始めます。113ページを開いて。…魔女の軟膏の章から、志摩君たち読んでください」

「はい」

「ってちょっとおかしいおかしいーっ!!!」


廉造は音を立てて立ち上り、鋭くツッコミを入れながら燐のウィッグもはたきおとした。


「志摩2人おるのどー考えてもおかしいやろ奥村先生!?」

「すみません、誰もリアクションしないので何かに試されているのかとつい警戒してしまって…笑ってはいけない的な…」

「奥村先生どーゆー日常送ってはるの?」


小気味よくツッコミが炸裂していく。続けて廉造は候補生たちを見渡した。


「いやいやいや、なんでホンマ誰もツッコまへんのん!?スパイの志摩さんが帰ってきたんやで!?ここツッコミどころ!!」


すると、ぬらりと勝呂が立ち上がる。廉造は悲鳴をあげて後ずさるが、勝呂は燐をどかして廉造の胸ぐらを思いきり掴んだ。
まさに金剛力士立像のような恐ろしい形相である。


「ふぎゃあああ!!おゆるしください!!俺かて、まさか戻って来るとは思てへんかったんやぁ〜!!それがこんな…っ、」


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