すぐそばで−12
廉造の肩に顔を埋めて、廉造に後頭部を撫でてもらっていると、突然「ヒエッ」と廉造が奇声を発した。
何事かと目を擦って廉造の視線を辿ると、ゆらりと立ち上がる勝呂と燐の姿があった。なぜか2人とも怒気を纏わせている。
「おい志摩…よぉ一ノ瀬んこと泣かせよったな…」
「一ノ瀬泣かせやがっててめぇ…」
「えっ、えっ、なんで2人がキレとるん…?」
廉造のもっともな疑問に、勝呂はカッと睨み付けた。
「一ノ瀬のおとんに『息子頼む』て言われてんねや!つまりは俺の子ォみたいなもんやろがィ!!!」
「どういうこと!?!?」
「おめーが『朝祇を頼む』っつったんだろーが!!それはつまり俺の弟みてーなもんだろーが!!!」
「待ってなんで!?何そのつまり!?!?」
わたわたとする廉造は、ぽかんとする朝祇を慌てて覗きこむ。
「い、いつの間にモンペ生産しとったん朝祇!?」
「せや、柔造さんも『朝祇君につらい目ェ遭わせたこと死をもって詫び入れさす』言うてはったで」
「ヤクザかい!!てかここにもモンペおった!?」
朝祇とて分からない。そしてそう答える前に子猫丸から柔造の伝言が落とされる。1番過激だった。
ふざけて勝呂をお父さんと言ったり燐をお兄ちゃんと言ったりしていたからだろうか。
「ウチの子泣かせたこと後悔させたるわ!!」
「俺の弟泣かせたことサタンの前で懺悔しろ!!」
「あばばば、朝祇なんとかしてぇ…!」
泡を吹きそうになっている廉造や、論理の飛躍どころか大気圏突破している2人に、悲しい気持ちが少し楽になる。何よりも廉造の温もりが、学園祭以来の朝祇の暗い心を払拭してくれた。
「勝呂おとーさん…燐おにーちゃん…1発ずつ入れといて…」
「おん、任せとき」
「よっしゃ任せろ!」
「ちょお朝祇!?」
慌てる廉造をよそに、燐と勝呂はどんどん近付いてくる。朝祇がいて離れられない廉造は震える。しかし、勝呂は軽くその背中を叩くだけだった。
「まずは一ノ瀬んこと元気にさしてこい」
「俺があら汁とおむすび作り終わるまでにな」
そう言った2人に、廉造は一瞬動きを止める。そして、しっかりと頷いた。朝祇は2人の優しさに、じんわりと心が暖かくなるのを感じる。いつだって皆、互いのことを想い合うことができるのだ。そんな皆が、やっぱり大事だなぁ、と思った。
廉造に連れられ、廉造の寝室に入る。もうだいぶ涙は引いているが、廉造はベッドに座ると朝祇の手を引き、そして横になった。自然と廉造に腕枕される形となり、その胸元に抱き寄せられる。再び温もりに包まれて、胸板に顔を寄せた。
「…朝祇、堪忍な、お父さんのこと」
「……あれは、廉造のせいじゃない。謝んなくていいよ」
「せやけど…俺、あんとき外道院のこと殺したろ思たもん。…ほら、あの伊豆での任務で、朝祇と話したこともあったしな」
クラーケンと対峙した、海での任務のときだ。町の少年、洋平とその父の絆を見て、そしてかつて父と月見をしたときを連想させる見事な月が夜空にあるのを見て、朝祇は泣きこそしなかったが落ち込んでいた。それに気付いた廉造が、慰めるような形で、朝祇に愛を改めて伝えてくれた。
思えば、あの夜の海での出来事は、2人にとってとても大事な時間だったのだと思う。
「…廉造がいなくなって、父さんに会って…それで、あのあと父さんと一緒に巻き込まれた浮気相手の家庭の娘、要は腹違いの妹がゾンビ化してるのを見付けたんだ」
「っ!」
「柔造さんが祓ってくれて…俺、そうやって立て続けに色々あったもんだから、なんか、気持ちが麻痺してたんだ。自分がどういう気持ちなのか分からなくて…」
廉造の抱き締める力が強くなる。当然、妹のことは初めて聞いたはずだ。
「……でも、廉造が帰ってきたんだ、って思ったら、全部分かった。そしたら…なんか、泣いてた」
「…俺も、泣いてる朝祇見たら、いつの間にか抱き締めとったわ。ほんとはすぐにでも駆け付けたかったんに…ごめんなぁ…!」
「いいって。…でも、代わりにってわけでもないけど……泣いても、いいかな…もう、泣いて、いいんだよな…」
「当たり前やろ。…これからはドロッドロに甘やかしてやるさかい、存分に泣いてまえ」
ずっと我慢していた。悲しいと感じるまえに涙が出そうな場面はあったけれど、泣いてはいけないと思っていた。出雲もそうだし、皆つらい思いをしているのだから、と。
でも、もういいだろうか。我慢しなくても、いいのだろうか。
じわりとまた目に涙が浮かぶ。ぎゅ、と目の前の廉造に抱きつくと、廉造は守るように抱き締めてくれた。
この悲しみも、つらさも、悔しさも、決して忘れない。
そう胸に誓った。