変わらないもの−2
勝呂と遅れて風呂に入ると、すでに先に入った面々は湯船に浸かっていた。天井は三階建て分は吹きぬけになっており、中央に巨大なウォータースライダーがある。もちろんお湯だが。
その近くに円形の乳白色の湯船があり、そこには雪男と子猫丸がいる。女子風呂とを分ける壁沿いにも様々な湯船が並んでいた。その一つに宝が、そこから二つ隣の湯船に廉造がいた。
洗面スペースに並んで座ると、直視せずとも鏡越しに勝呂の鍛え抜かれた体が目に入る。雪男や燐、廉造も、勝呂ほどではなくとも細マッチョというやつだ。子猫丸や宝もそれなりである。
しかし筋肉のつきづらい体質らしい朝祇は、彼らと比べると圧倒的に細い。一応毎朝ランニングだってしているし、筋トレもしているのだが、なぜこうも違うのか。
「…この筋肉ダルマめ」
「なんやいきなり!?」
「くっそ、なんで俺こんな肉つかねぇの!?」
「あ、あぁそういう…ちゃんと食え」
「食ってるわ普通に!」
八つ当たりとばかりに勝呂に腕パンをかますも、逆にこちらの拳が痛む始末。ジト目で見ると、勝呂は呆れたようにこちらに手を伸ばす。
「うわほっそいなホンマ」
「ひっ、掴むな腰を!」
「すまんすまん」
ガシリと腰を掴まれ、一瞬ぞくりとする。叩き落とすと、気にしていないように勝呂はシャンプーを手に取った。
そうして勝呂の隣で体を洗っていると、「ひょは〜〜!!」という楽しげな叫びとももに燐がスライダーを滑り降りた。激しい水音とともに燐は滑り終え、爆笑している。
「みんなも早くこれやってみ!?メチャクチャ楽しいぞ!!」
そんな燐に雪男が呆れて声をかける。
「兄さん静かにしろ!疲れを取りに来てるんだぞ!」
そこで朝祇は体を洗い終え、円形の風呂に入り、子猫丸たちと合流する。燐は宝に絡みに行っていた。
「あいつマジで元気だな」
「せやなぁ、体力宇宙やもんねぇ」
眼鏡をしていない子猫丸は見えづらそうにしながらも笑っている。
すると、雪男が真面目な顔で、とはいってもいつも真面目な顔だが、子猫丸に話し掛けた。
「あの、三輪君」
「はい?」
「三輪君は……本当に志摩君を信用しているんですか?…すみません、急に」
「い、いえ…」
子猫丸は少し驚きながらも、穏やかに笑う。そして、「信じてます」と一言返した。
「根拠は!?」
「こ、根拠は…その、不浄王と戦っとるとき、志摩さんは一度、僕や皆を捨てて逃げたんです」
「え!?」
どうにも疑っているらしい雪男に、子猫丸は動揺しつつも話を続ける。
それは、不浄王戦で廉造と子猫丸がシュラたちに達磨和尚のことを伝えに行く道すがらのことだった。朝祇も結界を張りながら廉造にそれを聞いている。
唯一の山道を塞ぐ胞子の塊、そして巨大化していく不浄王。それを前に、廉造は「死んだら終いやろ!」と叫んで子猫丸を見捨てた。一度はそうやって切り捨てた廉造だったが、廉造は、割り切ることができなかったのだ。
「志摩さんは…子供の頃から面倒くさがりの快楽主義で、僕はいつか志摩さんはどっか遠くへ逃げるんやと思ってたから…あのときは、ついにやったな、て思うたんです」
きっとそれは変わっていない。だが、もうひとつ変わらなかったものがあった。それは、子猫丸と勝呂への友情だろう。本人はきっと否定するだろうが、廉造は2人を大事に思う気持ちを捨てられていないし、きっと捨てられない。それは廉造の弱さでもあり、そして朝祇が好きなところでもある。
「でも、戻ってきてくれた。…僕の根拠は、そんなもんなんですけど」
「そうか」
「坊!」
いつの間にか勝呂も合流していた。幼少期から苦楽をともにしてきた3人だ、ちょっとやそっとで変わるものではないのである。